第8話
「ふふん!もうセクハラなんて言わせるものか!キラと俺は付き合うことになったんだ。それももちろんオトコとオンナの仲でだ」 勝ち誇ったようなアスラン。 「その話はつい先ほどお断りさせていただいたはずですが社長!」 「………と、あなたの秘書は言っておりますが?」 ニコルは冷めている。またいつものアスランの変態が始まった程度にしか理解できなかったからだ。 彼がキラの味方をするのは当然の成り行きといえた。 「ナゼ!?ひどいじゃないかキラぁあ!OKしてくれるって言ってくれたのにっ俺の彼女になってくれるって、キラの可愛いお口から言ってくれたのにっ俺と…結婚して末永く俺のことだけ見つめてくれるって、全てをさらけ出して俺だけを愛してくれるって……」 「そこまで言ってない!」 だんだん言っている内容がおかしくなってきたので、キラは話を途中でぴしゃりとうち切った。 涙をぼろぼろと流しながら情に訴えてくるのも、今となっては小賢しく見える。ニコルが本日何度目かの長い溜息をついた。 「アスランね、気づいてないんですか?言っているうちに言葉が感情に流されて、内容がどんどんおかしくなっていってるんですよアナタの場合!」 「嘘だ!」 「あ〜〜〜気づいてない人は十中八九そう言いますから」 「キラぁ、嘘だよね?別れるなんて、嘘だよね?これからもずっと付き合って、俺だけに笑顔を見せてくれるって…言ったよね」 アスランはなおもめそめそとキラに泣きついた。 「だから社長。僕そこまで言ってませんって」 ガァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン……………。 そしてキラの何気ない一言で、アスランは机に突っ伏し、本格的にしゃくり上げながらへたれた。 「あ…本気で泣いちゃった……」 「いいですよキラさん。一度へたれたらしばらく戻ってきませんから。ほっといて…鬱陶しいから隣の部屋でお話ししましょう」 「あ、はい。そうですね…泣きやまないし」 う…っ……ふぐ………キラぁ……キラぁああ〜〜〜っ。好きなのに……こんなにも…好きなのに〜〜…。 泣き声とへたれは止まらない。 雑誌のインタビューなんぞに、余裕をかまして堂々としている姿からは到底想像できない、誰にも言えない社長の現実であった。 社外から見えるあの格好良さは、嘘いつわりのニセモノだと、割り切って理解しなければ仕方がない。 「キラさん、アスランこうなるとうるさいですから早く行きましょう」 「あ…はい」 とは言っても今のキラはニコルの手のひらの上。移動手段に関してあまり贅沢と文句が言える立場ではなかった。 つかつかつか………バタン。 扉の向こうから社長のもっと湿っぽい泣き言が聞こえてきた。 「スルーしましょう」 「そう…ですね。割といつものことですし」 「…で、最初から話して欲しいんです。キラさんだって好きでこんな姿になったんじゃないですよね」 キラの笑いが乾く。 「そりゃぁね。結局こんなシュミ丸出しの着せ替え人形にされて、あ〜いう変態がやることって一つでしょ?」 そう!もうアレしかない。 <リ●ちゃん人形のパンティーの色は何色か確認したい!> 「あれだけ見事にスカートものばかりだとねぇ。さすがに魂胆見え見えかなと、僕も思いますけど」 「今日、珍しく遅刻したんです」 キラは最初から話し始めた。 重い足取りで最寄り駅まで来たところで、コーヒーを切らしていたことを思い出し、急きょ購入していたら遅くなり、社長室に着いたときには9時20分だった。 あわてて机の上を見ると、世にも気持ちの悪いメモが置かれていて、社長は会議に出たことを知った。 で、机の上にあった紅茶を片づけようとして給湯室に持っていき、もったいないから飲んだら、こんな姿になったのだという。 その後、案の定アスランに見つかった後、キラは嬉々として萌え萌え着せ替えの対象になったのだった。 「紅茶…おかしいですね〜。キラさん、アレルギーとかある訳じゃないですよね?」 「ないですよ。僕だってコーディネイターなんだし、そういうものは基本的にないですけど…」 ですよね〜、とニコルは唸る。 会議用テーブルの上に座ったキラも真剣に思案顔だ。 「紅茶は保険にティーパックを入れておいたんですよ。社長はコーヒー派なんですけど、飲み物切らすとセクハラひどかったから…」 キラは思い出す。あの辛かった日々の数々を。 それもこれも、最初にキラが意味も理解せずに「付き合って」と言われて、即答でOKしてしまったせいで、社長の勘違い大暴走が始まったのだと今では判明しているけど。 「あ〜じゃぁ、キラさん来なかったから一人で淹れてたんですね」 「うん、そうだと思う。一人で淹れる習慣のない人だから、給湯室でいろいろ探し回ったと思うけど」 「でも、紅茶だけでそんなになるなんて、僕聞いてませんよ?」 「僕だって、今までそんなことなかったですよ」 イヤ普通紅茶を飲んで、手のひらサイズになるなんてあり得ない。 「じゃ、あとは紅茶に何かが混入していた………とか?」 「いや〜見たとこフツーのミルクティーだったけど……?」 「じゃそれはコーヒーポーションか…」 その時、キラが不思議そうな顔をして「え?」と言ってきた。 「ニコルさん持ってきたんじゃないんですか?社長はブラック派なんで、普段ポーションなんか置いてないですよ?」 「………え”…」 「だって応接室はここから遠いし、確かにあそこにはいつも置くようにしてるけど…」 嫌〜ぁな予感がした。 「僕社長に聞いてみる」 キラが机の上ですっくと立ち上がったので、ニコルはやんわりと彼女を制した。 「僕が聞きに行きます」 「でも…」 「今あなたが行ったら、間違いなく<●カちゃん人形のパンティーの色>ですよ」 「………う゛っ……」 「それにしてもそのサイズは、いろいろと大変ですねぇ」 「そうなんです。社長にはオモチャにされるし、何よりどこに行くにも何をするにも、誰かに手伝ってもらわなきゃならなくって……」 「元に戻ったら戻ったで、アスランの欲情が爆発しそうな気もしますが、まぁこの際置いといて、早く直るようにしましょう」 「そうなんです!僕だってすぐにでももとのサイズに戻りたいです」 「変態対策は、考える時間も講じる時間もありそうですしね。それからでも遅くないでしょう」 そしてニコルは社長室に消えた。 第9話へ→ 言い訳v:へたれ、変態を書いてきたので、あとは暴走しなきゃアスランじゃないね!←失礼。 次回予告:原因究明編2。我らがニコル探偵が事実を突き止める! |
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