第7話
「じゃ…じゃぁ、これを………」 悩みに悩んでキラが選んだのはメイド服。それもいわゆるメ●ド喫茶なんかのお姉ちゃんが着ているような、レースとフリルをふんだんにあしらったちょっと……イヤかなり萌え系に走ったあのデザインだ。 「それよりもこっち」 つまらなそうな顔をしてアスランはある服を両手でつまみ上げる。それはキラが真っ先に外した「ゴスロリ」だった。 「嫌です!勘弁してください」 「じゃこっちは?」 「僕普段からピ●クハウス系着ないですから」 「一生懸命選んだのに………」 「そーいう問題じゃないです!」 そして初っぱなから社長と大げんかの末、結局例のメイド服に落ち着いた。 「せめて俺が着せてあげるねv」 鼻息を荒くして近づいてきたアスランの鼻っ柱を、キラは思いきりグーパンチで殴った。とは言っても、でこピンされた程度の威力でしかなかったが。 「やめて下さい!変態社長」 言っちゃった………と、キラがさすがに後悔していたら、アスランはきょとんとした表情で真剣にキラを説得してきた。 「そうは言ってもね、こういうのは着せる方に都合がいいように作られてるから仕方ないんだけど……。それよりも、キラv恥ずかしがってくれるの?それも可愛いねv俺を意識してくれてるってことだよねv」 その瞬間、キラの脳内で何か太いものがブチッと切れた音がしたと言います。 「社長、せっかくですけど社長との個人的おつきあいのお話は、なかったことにしてください」 「ぇえッ!?何でッ!」 「この期に及んで何でと聞きますか!やることなすこと変態くさいんですよ!」 「ああ”〜〜〜〜〜〜っヒドイっ!キラが酷いことを言う〜〜〜」 「号泣しないでください。それに…それだって嘘くさいですよ!」 などと容赦なく言ったら、アスランは本当に涙を流していて…。キラは彼女にはドアップに見える泣き顔に、さすがにたじろぐ。 バターーーーン! 大きな音がした。いつまで経ってもしゃくり上げるアスランの鬱陶しさに、いい加減どうしたものかと悩んでいたら、誰かが入ってきたようだ。 これはもしや救世主? 「さっきからガタガタガタガタ!うるっさいんですよアスラン!」 声の主はニコルだった。彼は顔面全体に怒りをたぎらせながら大股でアスランに詰め寄ってくる。 そして両手で机をバァンと叩いたかと思うと、鬼のような形相で怒鳴り散らした。 「人が一生懸命、販促企画書を作っているというのに、この男は仕事もせず妄想ワールドにどっぷり浸かってぇえッ!!!」 しゅぅ〜しゅぅう〜〜〜という音が聞こえる。今のキラにはニコルは天使だった。 アスランの注意がニコルに向いている間に、メイド服に着替える。アスランは手伝いたがっていたが、偶然これはキラの思うほど一人で着づらいものではなかった。 正直助かった!今はニコルに感謝だ。 「ご…誤解だ!誤解だニコル」 「ほぉ〜〜う!このどこが誤解だって言うんですか!ついにあなたはオタクが頭に来て、着せ替え人形にまで手をつけたってことでしょ!」 「だから違うって!これは全部キラのために…」 アスランの弁解は届かない。火に油を注ぐとはまさにこのことだ。 「この期に及んで見え透いたウソを〜〜〜!あのねぇ、何度も言うようですがキラさんがこんなものを欲しがるわけないでしょ!」 「だってキラが小さくなったから…」 必死にキラの弁護をしてくれている様子なのだが、表情は情けなく、ニコルに一方的にやられているようにしか見えなかった。しかも机上には証拠品のように、例の萌え系グッズの数々が並んだままだ。 「救急車呼びましょうか?アスラン」 「………は?」 「本当に頭が腐ったんですか?こんな訳のわからないことを言い続けているようだと、容赦なく精神病院送りにしますよ」 相変わらずニコルの言葉は容赦がない。端で聞いているキラにも、さすがにアスランがかわいそうに思えてきた。 確かに彼は変態だが(しかもへたれ)、キラのために時間を削ってまで動いてくれたわけだし、知らずに責めるのは言い過ぎのように思えてきたからだ。 「ニコルさん!ニコルさ〜ん」 大きく手を振りながら、キラはニコルを呼んだ。 「あれ?キラさん来てるんですか?でも今ここに来ない方がいいですよ。アスラン未だに変態モードですから」 ニコルは明後日の方向に向かって言う。声が遠くに聞こえるし、姿は見えないしで、キラが少し離れたところにいると思っているのだ。そこへキラをかばうようにしてアスランが彼女を指さす。 それは机の上であった。 「違う。ニコル、ここ、ここ!キラはここ」 やはりというか、当然の反応としてニコルの目は点になったまましばらく固まった。 「…………………」 「だから言ったじゃないか。小さくなったって」 「ごめんねニコルさん。社長が言ってたことは本当なんです」 「………………………」 「遅刻してきた僕も悪かったんですけど、なんか急にこんなことになっちゃって。もうどうしたらいいか」 キラはメイド服のまま、ニコルに説明する。ニコルのフリーズがやっとの事で解けた。 「キラさん?本当に、キラさん!!?」 まぁ普通あり得ないことだ。童話かなんかじゃあるまいし。 「………はい。だから、社長の言ってることは、あながちウソじゃないんですけど……」 キラが言葉を濁した意味を、ニコルは正確に悟った。 「間に合わせで買ってきたのは良いが、思いっきりこの変態のシュミに染められようとしたと…そぉいうことですね?」 相変わらずニコルの一言は痛い。痛いが事実だ。 「……………はぃ」 「そりゃぁ、僕だってこの中から選べと言われたらそれにします。気持ちは解りますけど………何でそんなに極端に小さくなっちゃったんですか?」 「それが判ればこんなに苦労してませんっ!」 キラは半ば泣きながら叫び、ニコルの手にすがった。 「………本当に手のひらサイズなんですね〜」 ニコルがキラをそっと持ち上げると、彼女はホッとしたように手のひらにへたり込み、溜息をついた。 「なんだか…アスランの気持ちも解らなくはないですが………」 「あっこらニコル!キラは俺のものだぞっ」 余計なときに要らないことをアスランはわめいてくる。 「セクハラ魔神が今更何を!」 第8話へ→ 言い訳v:やっちゃった…変態全開……。これでハッピーエンドになるっていうから不思議な脳みそです。 次回予告:原因究明編1。へたれの泣き声をBGMに名探偵ニコルの推理が始まります。 |
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