わがまま犬のしつけ方!?

第6話

 

 これは…アレだ。また鼻血だ。


 ボタボタボタ………。



「社長…じゃない、アスラン汚い〜」


「すまん…キラが、可愛いからつい」



「公園かどこかないの?水道があるところ…」

「水道か…キラごめん。お手洗いでもいい?」


 キラはポケットに入ったままフリーズした。アスランの言うお手洗い………それって間違いなく男性トイレだよね?



「う゛ぅ……っ」


「だって、そこしか入れないし…」



 そうだ。この状態でアスランが女性用トイレに入ってしまえば、どこからどう見てもただの変態だ。通報されてもやむなしだろう。


 キラは仕方なくOKした。



「僕隠れてるから。早くしてよ」

「判ってる。ごめんねキラ」


 言ったとおり、アスランは手早く用事を済ませ1分もしないうちに外に出てきた。



「帰りましょう、アスラン…」

「と言いたいところだけどね。もう一つ寄る店あるんだ」

「え?どこですか?」


 服は買ったのだからもう他に寄る店などないはずだが、とキラが思案に暮れているとアスランからとんでもない答えが返ってきた。

「ペットショップ」


 驚愕がキラを包む。目を見開いて、アスランを見上げた。



 ペットショップ?

 そこで何買うの!?


 まさか…!まさかまさか………!く…首輪とか…リードとか!!?



「い〜や〜だぁあ〜〜〜っ」


 必死になってアスランに行かないでくれと懇願した。何が楽しくて、犬じゃあるまいし首輪をしなければならんのだ!



「え〜?可愛いと思ったんだけどな〜」


 可愛い!?

 首輪姿が?



 いやまぁ…一部の人種の間ではそーいう姿を、「萌え」とか言って嬉しがる人々がいるらしいが。もしやアスランもその人種だったのか?隠れ萌え人?


「絶対嫌です!僕は、そんな趣味ありません。サッサと帰りましょう…ね?」

「でもまぁ、せっかく来たんだし、少し見ていこうよ」


 キラはまた青ざめた。もう来たんかい!

 すると、「あったvこれこれ」と言いながら商品に手を伸ばすアスランの動きが手に取るように判った。



「嫌です。見たくないです…」

「いいからちょっと見て。すごく可愛いよ?今のキラには似合うと思うんだ」


 キラは恐る恐る目を開ける。そして横目でアスランのつまみ上げているそれをちらりと見、とたんに拍子抜けした。



「え…。リボン?」


 それは…犬の毛につけて可愛らしく飾る…小さな裸ゴムの付いたリボンだった。


「うん。さっき偶然散歩しているところを見かけて…コレだって思ったんだ。どう?これなら大丈夫だろう?」



「あ………」


「キラの髪…すごくきれいだから何でも似合うよ。任せて。俺が結んであげるからvだからこっちもいくつか選んでいこうねv」


 この時キラは改めて社長を見直した。

 いつも訳のわからないことばかり言って、キラにダイブしてくるセクハラ変態上司としか思っていなかったから。アスランがそれは聞けばさぞ悲しんだだろうが、幸い彼はこの場で言葉を聞かずに済んだ。



「ごめんなさい。本当…僕のために……」


 アスランはしおらしい様子のキラの髪を、指先で慎重になでながら、キラにほほえんだ。


「キラ…本気なんだ、俺。だから、ちゃんと俺と付き合って欲しい。もちろん、男と女の関係でね」



 言われた言葉はすんなりとはキラの頭に入ってこなかった。



<付きあって欲しい>

<男と女の関係>



 それって……それって………!


「それ………って、僕が…その…ぉ……」


 予想は確信に変わる。出てくる答えは、もうそれしかなかった。



「そうだよ。キラが俺の恋人…彼女になるってことv今更だけど、ダメかな?」


 今のキラに断るすべはなかった。

 こんなにも彼女のことを考えてもらえて、今だってとても気遣ってくれて…。本当なら仕事に出られなくなっても、減給になってもやむを得ないのに現状のままにしてもらえて……。


 あれだけセクハラで悩んでいた毎日が、ひどくばかばかしいもののようにキラには思えた。

 そうだ。地位も名声もあるわけだし、顔だって良い。確かに性格はとてつもなくオカシイ部分がありはするものの、他が良すぎるのだから1つくらい欠点があってもおかしくはない。


 それに…逆転の発想で好きになれば、今まで見えなかった部分も見えてくるかも知れない。



 気が付いたときにはキラは、考えなしに承諾していた。



「ありがとう!嬉しいよ、キラ。あとはキラが元通りに戻るだけだね。そうすればちゃんとキラとデートもできるしv」

「アスラン…」


 浮かれるアスランを、キラは胸ポケットの中から茫然と見つめていた。

「ね、式場はどこが良い?ウェディング・ドレスはどうしようか?今のうちから作っとく?」



 駆け抜ける話のスピード。

 その速さにあ然とし、頭に自然と怒りマークが浮き出た。



「ちょっと待って!まだそこまで行ってない!」

「だってすぐだよv」


 キラは思う。


「すぐじゃない!」


「え〜そーかなー……?」

 にこにこ顔を崩さないアスランが、ひどく軽々しいものに見えた。本当にこんな男が社長で良いのだろうか?


 もしかしてこの会社って……軽くやばい位置にいる?



 という何とも表現できない不安感が、確信に変化するまでほとんど時間はかからなかった。紙袋を下げ、上機嫌で受付の女の子に「ただいまv」と言い、社長室に戻るとまず最初に言われた。



「じゃ、早速着替えよっかvどれがいい〜〜〜?」


 目の前にびらびら〜〜〜と並べられた着せ替え人形用の衣装。その中身が問題だった。確かに、確かにキラだって確認しなかったという点では落ち度はあるかも知れない。


 しかし………だ。


 ものには限度というのがありはしまいか?



 ウェディング・ドレス、ゴスロリ、お姫様ドレス、メイド服(レース、フリルだらけ)そして水着…etc。

 まともなものは何一つありはしない。



「他にもっと大人しいものはなかったんですか!」


 そしてキラの懇願はたった一言で切り捨てられてしまった。

「可愛くなかった」



 そぉいう問題ではないだろう!と、強烈に感じる。

 コレは既に趣味だ。シュミの世界だ……。


第7話へ→

言い訳v:お買い物編終了。わんこ用リボンはね〜説明しにくいと思ったんですよ。だからこんな写真をわざわざ編集(ばか)
次回予告:
この状況に黒ニコルがやってくる。やっと現れたキラの救世主?

お読みいただきありがとうございました。ブラウザバックでお戻り下さい。