わがまま犬のしつけ方!?

第3話

 


 いつかはこんなことになるだろう、という悪い予感はもう恐ろしいほどに的中した。

 もぞもぞと何かが動く気配を感じ取ったアスランは、慎重に布地を引っぺがし………そしてキラと目が合ってしまった。


「え?」

「ふぇ…?」


 ところがアスランは仰天した表情のまま、襲ってこなかった。そればかりか、キラにはアスランの顔が大きすぎるように見える。



「キラ………だよね?」

「あ…はぃ」


 アスランはキラと制服を交互に見つめ、さらに不思議そうな顔をした。

「何でそんなにちっちゃくなってるの…?」



 小さくなっている、と言われキラは初めて気が付いた。そうだ、世界が変わったんじゃない。それも10pくらい…正確を期すなら1/144ガンプ●サイズ。

 自分が小さくなったのだ。

 だから、制服が合わなくなったのだと、おぼろげながらに理解した。



「なんで…?」


 キラは涙を流した。

「それが解ればこんなとこで苦労なんかしていません!」


「だよね…。こんな、手のひらサイズになっちゃうなんて」

 改めて周囲を見渡すと、流し台だろう…それが切り立った崖のように見えた。



「ふぇ……僕、なんで………。何にも悪いことなんかしてないのに…」

 いきなり涙をぼろぼろこぼし始めたキラに、アスランはうろたえた。ちょっと珍しいケースだ。


「ごめん。言い過ぎちゃったかな、俺。とりあえず、給湯室から出て話さないか?」


 少し困ったように話しかけてくるアスラン。


 ところが今までの経験から、物事はスッと運ぶはずがないことは身にしみていたキラは警戒する。



「ごめんなさい。でも僕、今…その、服なくって………」


 言いたくなかった言葉を、よりにもよってアスランに頼まなければならないと言う最悪の事態に、キラからもっと涙があふれ出してきた。



「………というと、今裸?」



 長い沈黙がすぎ、キラは涙ながらにこくりと頷いた。

「なんでっ何でこんなことに〜〜〜っ」


「あっごめん、キラ泣かないで。ん〜〜〜困ったな…あそうだ。とりあえずこれ、俺のハンカチ」


「ぇ?」


「後ろを向いててあげるから、ハンカチで身を包むといいよ」

 今まででは考えられなかった社長の優しさ。だがそれだけに裏があるのではないか?キラは勘ぐらずにはいられない。



「覗いたり…ヘンなことしないですか?」

「しないよ」


「触るのもなしですよ?」

「しないって!」



「絶対に、見ないでくださいよ!」

「も〜キラは信用ないなぁ〜」

 どうやらアスランは本気でそう思っているらしい。


「信用ないですよ!仕事とか言って、今まで僕に何をさせてきたと思ってるんです!」



「ひどいな、キラ。ちゃんと仕事だよ」

 ここまで来たらアスランのまじめくさっている顔が憎くて溜まらなかった。


「どう考えても違うと思うんですけど。その…スケジュールを読み上げる前後に、頬にキスするとか、読み上げてる最中も膝枕をさせたり…他にも色々っ」



 顔を真っ赤にさせて怒るキラを見て、アスランは満足そうにほほえんだ。

「だから全部仕事だってば。社長の俺のやる気を出させるのもキラの大事なお仕事だよv」

 と平然とにっこりされ、キラはあ然となって二の句が継げなかった。



「セクハラです!社長」

「ぇえっ!そんなことないだろう?だってキラ最初に約束してくれたじゃないか、俺と付き合うって」



 そこまで言われてやっとこさキラは思いだした。そうだ。入社初日に確かに言われた。


「今日から秘書としてお世話になります、キラ・ヤマトです」

「あ、うん。ありがとう。俺がアスラン・ザラ」

「よろしくお願いします」


「君も色々大変だろうけど、ゆっくり覚えていってくれればいいから。だけど…そうだなぁ、この会社広いから覚えることがたくさんありそうだね。早く覚えるためにも、俺と付き合ってv」

「あ…はい!ありがとうございます」

「よかった。じゃぁ、一緒に頑張ろうね」


「はい。それで…どこに行くんですか?」

 目をきらきらさせて初仕事を頑張ろうと意気込んでいたキラは、最初から社長にぽかんとされ…そして楽しそうに笑われてしまった。


「あの……」



 とまどっているキラに、アスランは音もなく近寄ったかと思うと、キラのファーストをいきなり奪った。

 キスは初めて、それもいきなりなディープ・キスにキラが耐えられようはずもなく。初日にして腰を抜かし、アスランに抱きかかえられたのであった。


 以来、ずっとこうだった。


 隙あらば、キラを触り倒したり、窓際で他人に見せつけるようにロマンチックなキスをしたがる社長から逃げ回すことが、キラの日課になっていったのだった。



「そんな!社長。僕はあのとき仕事内容を教えてもらえると思って、別室に行くのかなって……」


「違うよキラ。俺はキラに男女の交際を申し込んだハズなんだけど…」

「交際!?そんなもの、承諾した覚えはありませんよ。それに僕と社長は初対面のハズなんですけど」


 キラがいぶかしむのは解らないでもなかった。なぜなら、キラは交際を申し込まれたとは思ってなかった、ということが今判明したのだから。

 しかし、自分のやってきたことを全く否定する気も、アスランにはなかった。


「初対面で申し込んじゃ悪いのかい、キラ」



「悪いっ…て、そういう……ことじゃ…」

「キラの応募写真を見て、すぐに好きになった。ウソじゃないよ」


「……………」

「だから、俺の申し出を受けて欲しい。キラのこと、本気なんだ」

 などと、真剣な表情をされるものだから、ホロリと来ないわけでもない。


 しかし………だ。

「とりあえず俺に全てを預けてみない?キラが今それほどでなくても、俺のこと好きにさせてみせるからv」

 全然懲りてない社長にキラは赤くなり、怒ってアスランの頬を叩いたつもりだった。が、今は体格差のせいで、キラの手のひらは彼の頬にぷにゅっと当たって跳ね返った。


「か…考えときますっ」


「うん。じゃ、とにかくハンカチを。俺は後ろを向いてるから」

 と言ってアスランは本当にキラに背を向けてしまった。今のうちだ、と思ってキラが借りたハンカチで全身をくるむと、遠くでなぜだか水の漏れる音が聞こえた。


「あ…あの、すみません。お借りします」

 キラの言葉に振り向いたアスランの顔は、血だらけになっていた。



「ギャァアアアアア〜〜〜っ」



「あ”…すまん。想像したら……鼻血が………」

 キラの絶叫が給湯室に響いた。



「汚ぁ〜いッ!変態!ケダモノ!あっち行ってぇ〜〜〜〜ッ」


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言い訳v:ガ●プラというのか●カちゃん人形というのか…。今回のテーマです。
次回予告:
アスランがキラを手放さなかった理由が判明します。つまんないことなんだけどさ。だってアス×キラ(♀)だから。

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