わがまま犬のしつけ方!?

第2話

 

「すみませんっ!遅刻しまし………って、アレ?誰もいない…」


 重い足取りをどうにかなだめつつ社長室へ入ると、そこは無人の空間だった。不審に思いながら机の上を見ると、紅茶のティーカップを重石にしてメモ紙が挟まれていた。



「なんだろ……………ってぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ」


<キラ…ごめんね。君の顔も見られずに今日は淋しく会議に行くことになりそう。ああやっぱとっても辛いよ。こんな思いはもうごめんだよ。だからね、今後キラに会えない時間のために、ここにキスマークをつけて置いて欲しい。大事にするから>



「………………………(激怒)」



 もう、こめかみに青筋なんてなま易しいものじゃなかった。キラはそのとんでもないメモ紙に早速、体を小刻みに震わせた。

 ちなみに、「ココv」とか書かれていて、矢印の下にはキスマークをつけるための場所まで指定してある。


 これを、嫌がらせと言わずして何と言うのか!


 仮に、指定された場所に口紅たっぷりのキスマークをつけたとしよう。それで毎日のセクハラがおさまるわけではない。


 むしろ逆だ。



 宝物にされ、事あるごとにうっとりと見つめて、顔をすりつけてはすぅはぁすぅはぁ…。それだけでも気持ち悪いのに、きちんと額縁に入れて持ち歩かれ、至るところで飾られる。

 あちこちで自慢されたあげくさらにヘンな噂を流され…みんなが勘違いしていることをいいことにさらにあちこちまさぐられる……。


 そんなことはいとも簡単に想像が付いた。写真や、インタビュー雑誌などでは決して解らない、敏腕人気カリスマ社長の正体を、キラは嫌と言うほど熟知しているのであった。だから。



「誰がするか!気持ち悪い!」



 と、部屋で叫び社長のメモ紙は容赦なくシュレッダーにかけられた。



「ふぅ……。とりあえず最初の危機は回避〜。あー、ホッとしたらのど乾いちゃった」


 ふと見るとティーカップには、ティーパックが入れっぱなしの紅茶がそのまま残っていた。量も減っていないようだし、どうやら全く口を付けていないようだった。



「飲まずに行っちゃったのかな?ま、いいや。冷めちゃったし、とりあえず廃棄ね〜」

 ブツブツと自分に言い聞かせつつ、そのまま給湯室に向かった。流し台の脇にティーカップを置いたところで、ふと気づきのども渇いていることだしもったいないので、そのまま頂くことにした。


「社長が口さえ付けていなければ大丈夫だよね。洗えばいいんだし、菌がうつる心配もなし…っと」



 いっただっきまぁ〜す!→ごっくん!→あー美味しかった→ぁ…アレ?ぁ………ナニこれぇ〜〜〜!



 その瞬間、キラの身体に信じられない変化が襲った。どうも、視界が急速にしたに下がったような気がした。

 気が付いてみると、キラはひどく大きな布の中に包まれていて、自分に何が起こったのか全く理解できていなかった。



「とにかく!いったん外に出てみないと、何がなんだか……」

 覆い被さっている布があまりにも大きすぎて、脱出には時間を要すると思われた。その間にも、刻一刻と焦りと狼狽は大きくなってくる。

 なぜ自分はこんなことになったのか?


 そして、どうして急に真っ裸になんて!


 こんなところ…あの社長に見られでもしたら、完璧にヤバい!

 何がって?


 貞操の危機がだ!

 「誘ってくれてるんだねv」とか言われて、セクハラどころじゃない。ほぼ間違いなくキラは美味し〜く頂かれてしまう。



 「やばいよ…これ、絶対ヤバいよぉ〜〜」



 必死になってもがいていたら、運の悪さに追い打ちをかけるようにして近くから声がしてきた。

「あれ?キラぁ?キ〜ラ〜〜。来てるんでしょ?」


「グハァ!!ヤバすぎ〜〜っ」

 この大きな布…どこまで行っても出口が見えそうになく、キラは焦りに震え涙をボロボロとこぼし始めていた。だがそんなことも、給湯室から伝わるはずはなかった。



「あれ、おかしいなぁ。キラの鞄はココにちゃんとあるのに……ハッ!もしかしてキラ、俺に探して欲しいのかな〜。そうかぁ、もぅv可愛い俺のウサギちゃん」



 その頃、給湯室ではキラが布の中で顔面蒼白になっていた。

「違う!違う違う違う〜〜〜っ!」



「ウサギちゃんvウサギちゃんvどこに行ったのかなっ!いじらしいなぁ。見つけたら俺にご褒美をあげようと思ってv」



 給湯室。布の中でキラは頭をぶるんぶるんと横に振る。


「やめて……。見つけないで。ここには来ないで!」

 かすれてゆく声が、断末魔の時間が近いようで我ながら恐ろしい。


 こんなことが嫌で、キラは何度転属願いを出したことか。そのたびに、当の社長に却下され今に至る。だが、この不況下他にいい就職口などあるはずもなく、辞めるとは言い出せなかった。結局今の給料で、我慢をしてきたのだ。



「もう限界です。神様……いるなら、僕を助けて………」

 キラは祈った。必死に祈った。

 無宗教なキラでも、神に頼りたいときはある。今がそうだ。とりあえずこのピンチさえ乗り切れれば…と願っていたら、今日はつくづく運に見放されていたらしい。社長の声がだんだんこちらに近づいてくるような気がした。


「ヤメテェェェエエエエーーーーーッ!!!!!」



 しかも、キラが絶叫したことで、ソレはアスランにばれたらしい。



「あれ?なんだコリャ?女物…いや、キラにと特注した制服だ」


 布の中、キラは「え?」と思った。

 特注…って?

 制服支給があることは知っていたが、実際支給されて何とオタク丸出しの制服かと我が目を疑ってはいたが………特注!!?



「あっぁあッ!キラのブラジャーだ!こんなところに!ぉ、イカン。とりあえず今のうちにサイズを確認だ!」



(ヤメテ……変態……………)


 アスランはキラが目の前にいるなどとはつゆほども思っていない。ブツブツと呟く声が聞こえ、そしてペンを走らせる音がキラには何かの宣告のように聞こえた。


「う゛ぉぉぉおお〜〜〜っ!パンティーまであるじゃないか!しかも…まだ温かい!」



(ヤメテェェェエエエエーーーーーッ!!!)

 キラの心の絶叫は、いっかなアスランには届かなかった。



「キラの使用済み生パンティーだぁぁあああああ〜〜〜〜〜〜〜っv」



 終わった………。キラはそう思った。人生…終わったと。ただ、そう思った。アスランの声や身じろぎだけでもう、パンティーをどう扱っているのかリアルに解る。


 彼女はこれほど神を呪った日はなかった。


第3話へ→

言い訳v:スミマセン……まだ第2話なんで、ここで引かれたら困るなーー…と(滝汗)アスランはキラがいないと思い込んでいますから。
次回予告:
アスキラごたいめ〜ん!すっかり変わってしまったキラに、アスランの鼻血は止まらない。

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