わがまま犬のしつけ方!?

第18話

 

 タリアに引きずられ、デュランダルは社長室をあとにした。そして、ニコルが部屋の窓に貼り付く。しばらくすると彼は「ヨシッ!」とガッツポーズをして振り返った。そのまま給湯室に向かい、キラを連れてくる。



「ハァ〜、もう良いですよ。キラさん。元祖変態は帰りましたからね」

「元祖……?」

 キラにはサッパリ意味がわからない。それもそのはず、彼女はデュランダル博士を知らなかった。


「ああ、キラさんは知らなかったでしたっけ?博士ね、すごく役に立つんですけど、とにかく変態で…まぁ色々あって学会からもつまはじきにされてるような人なんです。気をつけないとね、キラさんみたいな優秀なコーディネイターは格好のモルモットですから。変態ぶりは…ここの本家変態見てれば判るでしょ」

 さも当たり前のように、ニコルはアスランを遠慮なく指さす。


ところが本家変態と言われ、アスランが嬉しいはずはない。

「ニコル!確かに博士は変態だが、俺は違うぞ!キラ一筋の…「あ〜はいはい。そこまで」

「ニコル!」


「あのねぇ。あなたもキラさんのこと本気でしたら、もうちょっと彼女の気持ちを汲んであげたらどうです?」

「俺はキラが好きなんだ」


「やりようがセクハラジジイなんですよ!」



 ガーーーーーン!


 いつものように顔を真っ青にして、アスランは突っ伏してさめざめと泣き始めた。



「さ、キラさん。アスランがへたれている隙にこのお薬を…」


「あ、うん」

「一応、女性更衣室に制服置いておきましたからね。と言っても、キラさん専用変態仕立てではないですから」


 フツーの一般の女の子が着ているようなあれですよ、と言われキラはホッとした。

 普通の女性事務職用の何気ない制服。それなら大丈夫そうだ。


 やたら胸のラインを気にすることもない。

 きわどいミニスカートじゃない。

 そして何より、萌えデザインじゃない!←ここ重要。



「はい。じゃぁ僕は覗き魔からあなたを防衛する仕事がありますので」

 ニコルが去っていく。これほど嬉しいことがあろうか。


 何てったって「着替えさせてあげるね〜」とか言いながらすり寄ってくる、セクハラ親父は来ないのだ。キラは心の底からニコルに感謝した。



 デュランダル博士から渡された薬−今のキラにはかなり大きかったが−を頑張って飲むと、しばらくしたら薬効が現れ始めた。身長、体重ともに完全に元に戻ったことに安心し、事務職用の制服を着る。

 ちなみにキラの下着は、変態がコレクションしていたのをニコルが取り上げ、きちんと洗濯していてくれたらしい。

「さっすがニコルさん。割とピッタリ」


 この日キラは出社以来初めて堂々と、社長室に入ることが出来たのである。で、開口一発。


「ニコルさん、ありがとう〜!僕戻れましたv」



 で、社長は涙腺がバカになったんじゃないかというくらい、ザバザバ涙を流した。

「キラ…酷い!博士に頼んだのも、薬を受け取ったのも俺!俺に飛び込んできて…」


「ムリです社長。だって社長はすぐ僕の胸とかお尻を触るんですもん」



 それは現実だった。



「あ〜あ…言われちゃいましたね〜。ちなみに、直接博士に依頼したのは会長で、博士からの電話を受けたのは僕なんですが?」

「うんvだから、ありがとうニコルさん〜。それと…僕を守ってくれて」


 アスランの涙は止まらない。嗚咽も酷くなっていった。



「ま…これが普段の行いの違いというヤツですよ。それでは僕はこれで。僕だっていつまでもここにいられる訳じゃありませんからね。キラさん、もう一人でも大丈夫ですか?」

「うん。やってみる。もう、机が崖みたいじゃないから、イザとなったらニコルさんのところに逃げられるから」


「はい。その時は僕が守って見せます!遠慮なく言ってくださいね」

「はいv」



 ニコルは去っていった。にもかかわらず、社長に動きがないことに、キラは不審感を覚えた。いつもならすぐにでも自分にダイブしてくるはずなのに。


「あ…あれ?社長?社長ぉ〜う?」

 見ると泣きはらした顔だった。彼なりによほどショックだったらしい。これこそたまには良い薬だ。



「キラぁ…キラは、そんっなに俺のこと嫌いだったのか……」

 社長の顔に流れるもの、それは涙か鼻水か、はたまたよだれだか区別が付かなくなっていた。



「社長、汚いです。とりあえず、涙拭きましょ?」

 そう言ってキラは彼女のバッグの中からハンカチを取りだし、アスランに差し出した。そのまましばらく動きがなかったので、不安になって前かがみになり、もう一度彼を呼ぶと、恨めしそうな顔でキラを見上げてきた。


「キラ…辞めないで欲しい」


「…は……?」



 キラは唐突に言われた言葉がにわかに理解できない。辞めるなんて一言も言ってないし、辞表を人事につきだした記憶もない。社長のセクハラには困っていたが、この不況下、他にいい仕事なんて見つかるわけがないから。



「俺が嫌いでも、俺の秘書…辞めないで」

「社長…僕そんなこと……」


 言ってない。一言も、ほのめかした記憶すらない。



「キラがいないと、本当にダメなんだ…俺」

 キラから受け取ったハンカチで必死に涙を拭いながら、つっかえつっかえ言われた一言にキラはドキッと来た。


 正直、こんな感情なんて知らなかった。



「あ…ぇと……社長、僕……は………」

 何か言わなければいけないと思う。じゃないとこの気持ちが伝わらない。


 でも、言葉が出てこなかった。



「キラを好きなのは本気。すごく本気。だから…ずっと側にいて欲しいんだ」

 なぜだか胸を、身体の中から締め付けられるような気がした。



「僕…でも、社長……」


「もう一度呼んで。俺を名前で呼んで、キラ」

 次から次へあふれるように出てくる涙に、キラは釣られた。



「アスラン……」

 言葉に出して言うと、彼と少しだけ距離が近づいたような気がして、とてもヘンな感じだった。



(変だよ。すごく、変。知らない…こんな感じ、僕は知らない………)



「キラ……」


 ドキーン!


 なぜだか鼓動が早くなった。拍動する心音が、自分でも判るのだからこれは間違いないと、キラは確信した。


 アスランが自分の名前を呼ぶ。呼ばれる度に何かがおかしい。


 今までは何とも思わなかったのに。

 あんなに嫌だったのに。



 それが今、こんなにも恥ずかしい。


「なん…で……?」



「側に来てもらってもいい?」


「…は、ぃ」

 なぜだかとても自然に、足が向いた。


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言い訳v:ある意味「禍転じて福となす」とか、そーいうのなんですが…難しかったな〜。
次回予告:
遂にいい雰囲気になる二人。だがまだまだ甘いな!所詮ここはお笑いサイト!!

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