第17話
昼過ぎまでアスランはぐったりしていた。だから、電話など細々としたことはニコルや女の子に手伝ってもらい、何とか急場をしのいだ。その間もアスランは起きあがることすらできない。相当ダメージを受けている。 電話がかかった。偶然その場にいたニコルが取り、アスラン宛の電話だと伝えてきた。 「泥のように寝てるよ…」 「ですが、デュランダル博士からで、どうしてもアスランにつなぎたいそうなんです。キラさん、起こしてもらえませんか?」 「良いけど、誰なんですか?」 「ああ、言い忘れてました。会長の古い友人で薬学博士なんですが、これがまぁ…色々と癖のある人でですね………ちょっと、あって…」 歯切れの悪い言い方をニコルがした。キラは嫌な予感がしたので深くは追求しなかったが、言えないようなこともあるのだろう。 ニコルの手のひらに乗せられてアスランの側に行くと、うなされていうのかうめき声まで聞こえてきた。 それでも…電話は保留中なのだ。待たせるわけにはいかない。 「社長、社長〜、お電話ですよ」 「う゛ぅ〜〜キラ…適当に、用事聞いてて…」 「そうはいかないですよ。社長にって、とっても大事な話なんですって。ほら、お願いですから」 「じゃ、ニコル……」 どうあっても電話に出ようとしないアスランに、しびれを切らしたキラは最終手段を発動した。 「お願い。アスラン」 ガバァッ!と、音がした。 アスランがむくっと立ち上がった。 そして一言、 「判った。出る!」 と言って、素直に電話に出てしまった。 「はい、代わりました。アスラン・ザラです」 5mくらい向こうで、口をあんぐりと開けたまま、にわかに動けない人が約二名いた。 「何なんですか、アレは…」 「今まで爆睡してたとは思えない」 「何というか…本っ当〜に、見事にキラさんの言うことしか聞いてないですねぇ」 「ははは…なんか、すごくビミョ〜〜〜」 「でも、それって逆にキラさんの言ったことならどんなことだって聞くってことですよね?キラさん、これは考えようかも知れませんよ」 「え?」 ニコルの提案にキラはびっくりした。 「キラさんが、お願いしますと一言言うだけでアレです。と言うことは、仕事をさせるようにお願いさえすれば、アスランは思いのままじゃないですか」 「そっか!」 キラも今頃気が付いた。 「だってアスランって、確かに変態ですけど基本的にへたれですから、キラさんに無理矢理関係を強要することはないでしょう?」 そうだ。アスランの部屋に泊まったあの日も、アスランは慎重だった。予想に反して、セクハラもイヤらしい言葉さえなかったのである。それこそ、本当に大事に扱ってくれて……。 ヘンな思考回路も、途中でキラが「やめて」と言いさえすればおさまるし、これなら続けていくうちに覚えてくれるかも知れない。 「やってみます。今までは社長のセクハラが嫌で、ずっと逃げてたんですけど、そうじゃなかったんですね」 「キラさん…」 「ヘンなこと言ったりしたりする前に、僕がちゃんと言わなかったのがいけなかったんだ」 「すみません。お願いできますか?あなただけが頼りなんです。アスランを変態で終わらせるのも、まともに更正させるのも、キラさんしかできないんですよ」 そろそろキラも感化されてきた。 「でもまだちょっと怖いから、ニコルさん…フォローお願いしますね」 「もちろんです!へたれ変態矯正計画、発動ですよ、キラさん」 「判りました!」 と、すばらしい計画が発動したところで、アスランの嬉々とした声が割り入った。既に電話は切れている。何だろうと思う間もなく次の言葉が続けられた。 「キラぁ!出来た!出来たよ、キラを元に戻す薬!夕方までには届けてもらえることになった」 「マジですか?アスラン…」 「うん、大マジ!やった!これでキラが元に戻る、長かった不便もこれでさよなら!ラクスの介入ともさよならだぁ〜v」 アスランはまるで子供のように喜んだ。特にラクスの介入がなくなるのがよほど嬉しいらしい。 「僕、戻れるの?」 「うん、喜んで!キラ」 「でも、小さくなったことも信じられなかったけど、元に戻るっていうその薬…大丈夫かなぁ?」 キラの不安は当然だ。普通、そんなことはあり得ない。そんな薬などあるはずがない。 「大丈夫らしいよ。ちゃんと実証済みだってvそれと、あの新製品、誤ってお湯に入れて飲んでも、副作用が起きないように、開発も手伝ってくれるって!」 「…ゲッ」 うめいたのはニコル。この先、開発部がどれほどのダメージを被るか、頭の中でざっと計算し、部署の人間にすまないと心底同情した。 日が傾きかけた頃、問題のデュランダルはやって来た。研究助手を連れて。 あらかじめ電話があったので、ニコルはキラを給湯室に隠すことに成功した。キラにはくれぐれも、黙っててくれと念を押す。 「やぁ、アスラン君。久しぶりだねぇ」 「お久しぶりです。博士もお元気そうで何よりです」 「元気なのは元気なのだがねぇ、どうも歳を追うごとに助手がうるさくなっていかんよ」 途端、隣にいた研究助手(兼恋人)に手の甲をぎゅっとつねられる。 「イタタ…」 「余計なこと言わないで、サッサとお薬を渡してあげなさい」 「まだ挨拶しかしてないじゃないか、タリア。それに、問題の彼女の姿が見えないのだが…?」 この質問がくることは間違いなかった。だが、キラをデュランダルに会わせるわけにはいかなかった。 「彼女は今、所用で席を外しています」 ニコルが何とかこの場を切り抜けようとする。 「では、待たせてもらっても良いかな?」 そういうわけには行くか! 「お時間がかかりますよ」 キラを彼に会わせるわけにはいかない。そうなればキラは彼の格好のモルモットだ。 ギルバート・デュランダル、彼は優秀すぎるコーディネイターに目がなかった。すぐに遺伝子を調べたがり、ともすればクローンを作ると言って聞かなかったこともある。 遺伝子、薬学両分野に優れているにもかかわらず、未だに世に認められていない原因はこうして、周囲の人間がひた隠しにしていることにあった。 「もう良いでしょ、ギルバート。お薬渡して帰りますわよ」 「でもタリア…」 「帰りますよ!」 「はぁぃ…」 助手兼恋人にギロリと睨まれ、ヘビに睨まれたカエルはすごすごと退散していった。 第18話へ→ 言い訳v:ギル→キラ?うそうそ(笑) 次回予告:キラの変化2態。 |
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