第16話
キラが連れられていった場所…そこはとあるデザイナーのオフィスだった。ラクスの大学の非常勤講師で、彼女がたまたま取っている講義を担当している、プロのデザイナーだという。 そこで…予想通りキラは散々オモチャにされ、キャーキャー騒がれ…昼前には即席で数着が仕上がっていた。 しかし………しかし、だ! 「あの…ラクス、さん?」 「はいv何でしょう、キラ様v」 「せっかく作っていただいたんですが、このブラ…僕にはちょっと大きい気が………」 キラは自分の胸とブラの間の隙間を眺める。計測違い、とはもはや言えないような差がそこにはあった。 「いいえ。ブラジャーは間違ってはいませんわ。それに合わせてキラ様のお胸を大きくすればいいのですから」 あぁ、そうですよね…と答えようとしてキラは耳を疑った。 今、ラクスは何と言った? 「どうかされまして?」 と言うより何でそんな「一体何が不思議なのだろう?」みたいな答え方を……? 「ぁ…えと、僕の聞き間違いですよね?なんか、僕…疲れてるのかな?」 「いいえ、わたくしはちゃんと申し上げましたわ。ブラのサイズは間違っていません。キラ様のお胸を合わせればいいのですから問題ありません、と」 <何だってぇぇえええ〜〜〜〜〜〜〜っ!!?> キラは文字通り、飛び上がった。 「ちょっと待って下さいっ!僕の胸を合わせるって、そんな…そんな……っ」 もしかして同性だと思って、安心してラクスに全てを任せたのは間違いだった? 「何か問題でも?」 サクッと言わないで下さい!サクッと! 「僕今このサイズですし…その、胸を大きくするって………?」 瞬間、ラクスの瞳がきらきらと輝いた。端から見ればそれは非常に美しい光景。しかし、彼女の画策していることがぼんやりでも理解できれば、それは到底素直に喜べるものではなかった。 「あらぁv手のひらサイズだからと言って、お身体の成長はとても順調ですのよ!それに、キラ様のプロポーションから言ってそのお胸のサイズは小さすぎます!お小さくても、わたくしが責任を持ってお手伝いしますからねv」 ここまで言われて、「お手伝い」の内容が判らないキラではなかった。 つまり、ラクスは…自己の満足のためにキラの胸を揉んで大きくするということで……。それが例え手のひらサイズであろうが……だ。 「えぇえええ遠慮しますっ」 「いぃえ!キラ様vわたくしから逃げられるとでもお思いですか?」 「ラクスさん…」 「わたくし、キラ様が大好きですの。もう、一目見たときからあなたが欲しくて欲しくて。だから、ニコルさんに呼ばれて不満たらたらで社長室に伺いましたけど、今はとても感謝していますのよv」 キラは自分の感想をもう一度よみがえらせた。 <アスランとラクスは似たもの同士> あまりにも似すぎていた。 と言うことは当然、好みから好きな人のタイプまでそっくりということで………それは今回のように、「同じ人を好きになる」可能性もあるのだった。 その後のキラがどうなったのか? それはもはや言うまでもないであろう。散々ラクスにオモチャにされたキラは、仕事が終わると速効でクライン邸に「連れ去られ」、ラクスによって その後…ラクスにしっかり「ボディーガード」され、社長との仕事は「最低限」で済んだものの、クライン邸で色々とあって早一週間。 さすがに その日、アスランはどこかそわそわしていた。やっていることはいつも通り、ちゃんとした仕事だ。だが、漂ってくる雰囲気というのがいつもと違うと、キラは口には出せないものの何となく不思議に感じていた。 「アスラン、重大なお話があります」 その日のラクスもどこかおかしかった。意気消沈とでもいうのだろうか。いつものはしゃいだ様子がほとんど見られない。キラは少々寝不足気味の目をこすりながら、ラクスを見上げた。 「どうかしましたか?キラ…」 「ラクス、もしかして嫌なことでもあった?何か落ち込んでる?」 「さすがキラはわたくしのことをお見通しなのですね。でも、大丈夫です。落ち込んではいますけど、キラのせいではないのですよ。だって昨夜もあんなに………ねぇ」 意味深なラクスの発言に、駄目押しをするかのようにキラの顔は赤くなった。 「ぁああぁぁあああれは……ッ」 「何があったんだ!キラ!」 逆にアスランは青ざめた。 「いぃいい言わないでっ(真っ赤)」 「キラぁ!ラクスに何をされたんだ?言えないようなことをされたのか!?」 「言えませんわ。わたくしとキラだけの秘密ですもの。それよりもキラ、今日からキラをニコルさんに預けなくてはなりませんの」 「……ぇ…」 もの悲しそうに語るラクスに、ニコルが口を挟んだ。 「定期考査ですか?」 「ええ。キラと一緒だった蜜月も、今日の昼からなくなってしまうんです。こんな悲しい、悔しいことがありましょうか!わたくしだって何度キラを大学に連れて通おうかと考えました。でもそれはできないんですね」 ラクスの言うことは正しい。キラがいないとアスランは仕事をしないのだから。 <と言うか、サラッと流されたけど…悔しいって何!?> アスランとニコルの共通の思いを無視してラクスは自分に浸る。 「キラ!わたくしはキラのことがとても好きです。ですから間違っても、変態に無理矢理奪われるなどということがないように、ニコルさんにきっちり守ってもらうのですよ!」 あまりのラクスの迫力に、キラはたじろぎ、首を縦に振って頷いた。 そして今日もラクスにきっちりかっきりガードされたまま時間が過ぎ、昼前にラクスはこの世の終わりのような悲壮な表情をして会社を去っていった。 「キラ……キラ〜〜〜」と、涙の尾をたなびかせながら。 「行った……やぁっと、行った………」 視線を戻すと、アスランが机に頭を乗せ、心底疲れ切っていた。 「あ、の…社長……?」 「ぅん…キラ、おかえり」 「あ…はぃ」 キャ〜キャ〜はしゃぎながらも、アスランとの接触はそれはもう、徹底的にシャットアウトされていたのだ。今のキラには彼の何気ない言葉が、安心できるもののように思われた。 「少し休んだら、仕事しましょうね」 「うんv」 第17話へ→ 言い訳v:今回のラクスの設定は救世主なんかじゃないですよ。話の都合上。 次回予告:アスラン対策とギル×タリカップル。 |
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