わがまま犬のしつけ方!?

第15話

 

 ぎゃいのぎゃいの言いながら社長室に入ると、ピンク色がまず目に入った。そしてそのピンク色が動いたことにびっくりしていると、それは妙齢の美人だということがやっと認識できた。



「こんにちわvアスラン」


「な…なぜあなたがこんなところにいるんです!」

 キラがニコルの手のひらから見たアスランは、あからさまに狼狽していた。



「そんなことより、紹介はまだですの?」

 キラが美人だな〜と思いながら見とれていると、アスランはキラの方に顔を寄せた。その瞬間、社長のイスに座ったままのピンク色の彼女からぴしゃりと言われる。


「わたくしの紹介ではありませんわ。そこの可愛らしい彼女はどなたですかと聞いているのです」

 ピンク色をした美人からは似てもにつかないような、どす黒いオーラが彼女からもわもわと出ていた。



「ら…ラクス………か、彼女は…キラ・ヤマトと言って、俺の可愛くて大事な秘書です。お願いですから俺からキラを奪わないでください」



 そこには今までのアスランの自信に満ちた姿はなかった。

 ラクスと呼ばれた美少女は、瞳をきらきらと潤ませて、ニコルの手のひらの上のキラへとまっすぐに向かってきた。ちなみに彼女の視界からは、既にアスランの存在はデリートされている。


 目の前まで歩いてきたとき、彼女は全く遠慮なくキラをニコルから受け取った。



「まぁっ!とても可愛らしい方ですのねvキラ様、申し遅れました。わたくしはラクス・クライン。アスランとは遠縁の親戚に当たる天敵同士ですのよv」

 とんでもないことをさらりと言いながら、彼女はまた社長のイスにどっかりと座った。



「ラクス…」

「これはあなたの趣味ですの?へたれ変態さん」


((ぅあ…キツ〜〜〜))



 キラとニコルは思う。

 ラクス・クライン、彼女にアスランが勝てるはずがないと。



「アスラン。わたくし今からキラ様と出かけてきますからv」


「…は……?」

 ラクスのいきなりな提案にきょとんしているうちに、彼女はサッサとバッグにキラを入れ部屋から出ようと歩き出した。

 その行動の早さにさすがにニコルがあわてる。なぜならば……、



「ちょっと待って下さいラクスさん。キラさんに、せめてキラさんに今日のスケジュールを言ってもらわないと…」


 そうだ。ニコルが、ラクスが何を言おうと、アスランは言われたことが右から左へ流れてしまう。キラの言うことしか頭に残らないのであった。



「データを渡しておけば解りますでしょ?」

 ラクスは心底不思議そうだった。その辺は一般人の理解の仕方となんら変わらない。おかしいのはアスランの方だ。



「残念ですが…アスランはキラさんの言うことしか聞かないんです。もっと正確に言えば、覚えられないんです…」

 言ってて、これほど恥ずかしいことが他にあろうか?

 うちの社長は変態でおつむが弱いんですと言っているようなものだ。



「まぁ!それは大変ですわね〜」

「…でしょう?」


「いえ、キラ様がです。キラ様はこんなへたれ変態のトリ頭をどうお思いなのですか?」



 キラは実感した。

 アスラン・ザラとラクス・クライン、この二人は非常に似たもの同士なのだと。あまりにも似すぎているから、反発するのだ。言い様は違うものの、アスランもラクスもいつも一言多いのだ。その余計な言葉が相手をいらだたせる。

 しかしそんなこと、当の本人は気づいてないと言うのか、気にしていないと言うのか。





「あの…社長は、やる気さえあればとても立派な方だとは思うんですけど……その、セクハラさえなければ……いい人なんですけど…」


 さすがに社長を目の前にして言うのは、言いづらい。だがこの時キラはラクスに賭けた。

 もしかしたら彼女が自分を救ってくれる救世主かも知れないと思った。



「判りました。ではキラ様が元に戻られるまで、わたくしがキラ様のおそばにいますからね」

 と、ラクスは勝手に決めてしまった。だがそうなると、フラストレーションのたまる人間が約一名いる。



「ちょっと待って下さいラクス!キラは俺の秘書なんです」

「でも、このサイズでは色々と不便でしょう?」


「解っています。俺がフォローするから問題ありません」


「お手洗いでもですか?」



「……………ぐ……っ…」


 ラクスの正論にアスランは引き下がるしかなかった。さすがに昨日も、お手洗いにまでは付いていけなくて、近くにいた女の子に事情を話して付いていってもらったのだ。


「ですから。今日からキラ様はわたくしのものですわねvよろしくお願いしますわね、キラ様」

「あ、はい。ラクス、さん」


「ラクス…キラを取らないで下さいよ。キラは俺の可愛い彼女なんですから」



「え?キラ様…そんなことを承諾させられましたの?」


「え?ぁ…いや、その話はあとで断ったはずなんですけど……」



「では、キラ様は晴れてわたくしのものですわねっ」

「ちょ…っ、何でそうなるんですか!」


「本人に確かめたのです。間違いはありませんわ。さ、キラ様…こんなへたれでもやる気がでたらちゃんと仕事しますので、本日のスケジュールをvそうしたら、わたくしとお出かけしましょうね〜v」


「あ、はい…」

 アスランがへたれて床にへたり込み、両手を顔に当ててさめざめと泣いていたが、キラは無視して、今日のスケジュールを棒読みした。

 言い終わってもまだ泣いていた社長に、ラクスは「ではごきげんよう」と言い、サッサと歩き出してしまった。



「しゃ…社長ッ、僕行っちゃうけど、ちゃんとお仕事頑張って下さいねっ!また帰ってきますからっ」

 あまり距離が離れないうちに、キラは念押しして置いた。社長は決して役立たずではない。放って置いてもそこそこの利益は出せるが、それでもいったんやる気を出した社長にはかなわないのである。

 バッグの中から、扉の前でへたり込んだまま涙に濡れたハンカチを握りしめ、うんうんと一生懸命首を縦に振っているアスランの姿を見ることができた。



「あの…ここは?」


 バッグに入れられたまま、オフィス街へ連れて行かれた。そのとあるビルの中に遠慮なく入っていったラクスは、やっとキラを解放した。


 いきなりテーブルの上に乗せられ、周囲をきょろきょろと見回し、キラはきょとんと小首を傾げた。



「はいv今からキラ様のお服を作りましょうね〜♪」

 ラクスの瞳が輝いていた。


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言い訳v:ラクスはねぇ…色んな意味でキーパーソンなんです。
次回予告:
ラクス・クラインとの濃密すぎる一週間…それはキラの心にある変化をもたらした。

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