第14話
「でも…」 「呼んでvアスランって」 「社…「キラぁv」 ここで逆らったらキラの苦労が水の泡になるかも知れない。キラは意を決して呼んだ。 「アスラン……」 ブバァアアアアア〜〜〜〜〜〜ッ! またしても大量の鼻血がアスランのシャツを濡らしたのだった。 「気持ち悪ぅ〜いっ」 「ごめん!ごめんキラ…」 手で鼻血を押さえながらアスランは洗面室へ直行した。 サァアーと水の流れる音が聞こえ、衣擦れの音が微かに聞こえ、数分後着替え直したアスランは、いささか顔を青くさせて戻ってきたのだった。 「社ちょ…じゃなかった、アスラン!」 キラはあわててアスランに駆け寄ろうとしたが所詮手のひらサイズ。今のキラには食卓テーブルの端っこに行くのがせいぜいだった。 「キラ可愛すぎ……」 「それはいいですから」 時刻は既に深夜1時を回ろうとしていた。 「キラ…お風呂に入ろう」 唐突に言われた言葉に、キラな瞬時に反応した。 「絶対イヤです!」 「違う違う。洗面室の手桶にお湯を張っておくから」 「……は?」 キラはきょとんとした。 体格差と上下関係を良いことに、絶対に「一緒に入ろうvゲフゲフvムフフ」なぁ〜んて言ってくると思っていたからだ。 「本当はキラを一人で行かせるのは不安だし、もったいないけど…今一緒に行くと俺が持たない」 よく考えたら、今日のアスランは既に貧血状態だった。 これ以上鼻血を吹いたら、出血性ショックで間違いなくあの世行きかも知れなかった。事態はそんな深刻なところまできていたのだ。 「アスラン…」 「タオルも小さいものが良いね。ハンドタオル、消毒用ガーゼ、石けん、着替え…それと、俺の携帯電話をおいておくから、一人で入れる?」 「携帯電話?」 「終わったら、俺の携帯からここの自宅電話にかけて欲しい」 キラは今頃気が付いた。ドアを閉めた洗面所からは、キラがいくら叫ぼうが聞こえないのであった。 携帯電話なら、何とかボタンを押しながら固定電話にかけられる。その案に感嘆した。 「あ〜いい湯ぅ〜♪」 ちゃぽんと音をさせて、即席手桶風呂に浸かる。あれでもと思って警戒していた社長は…一切手出しをしてこなかった。 ちなみにその頃彼は何をしていたかというと、リビングのソファに深く腰を下ろして急性貧血と向き合っていた。 「今…手を出すとやばいな俺……」 何がやばいというのか。 それは人形相手に萌えている正真正銘の変態になることではない、もっと根本的なこと…つまり血液だ。鼻血で死ぬわけにはいかない。 そんなことになったら、 「キラが他の男のモノになるじゃないか〜〜。あの可愛いキラが…キラが…他の男にあんなことやこんなことをされ、なぶり者になって俺の名前を口走ってしまうんだ。………でもそんなことしたら、もっと酷いことされて………やはりダメだ!俺が…キラを守ってやらなきゃ!」 生きることに前向きなのは良いのだが、やはり言っている途中から感情が突っ走って、とんでもないことをブツブツと言い続けていることに、全く気づいていなかった。 まもなく電話がかかってきた。出てみるとキラだった。ちゃんと、洗面室から携帯電話を使ってくれたらしい。 「もう良いの?ちゃんと温もった?」 「あ…はい」 少し話して洗面室に向かうと、キラはちゃんと着替えていた。 だが開口一発不満の言葉を受けた。 「着替え…なんでカクテルドレスなんですか!」 それしかなかったため、裸で過ごすわけにもいかず渋々それを着た。でも結局はアスランの手の内シュミの範囲。そぉいうデザインに呆れてしまった。 「せっかくだからロリ系着て欲しかったんだけど…そしたらキラ怒るだろう?今ある中で一番大人しめというと、それしかなかったんだから、仕方がないじゃないか」 「むぅう〜」 上半身は肩丸出し、下半身はAラインのロングスカート。あちこちのレース使いがとても可愛らしいいかにもお人形向けのドレスだった。 ちなみに犬用リボンはアスランが嬉しがって付けた。 「すねてる姿も可愛いけど、やっぱり笑ってて欲しいな」 キラを一人、リビングのテーブルの上に置き、アスランはシャワー室に消え、そして出てきた。 出てきてからも、アスランはなぜか慎重だった。 途中買って帰った弁当も、キラの分だけあらかじめ分けて小さく切ってあげ、爪楊枝で箸を作ってやるという細かさ。さらには、自分のベッド脇にキラ用のミニベッドを即席で作っていた。 「これって…」 「一緒に寝たら、キラを押しつぶしてしまうじゃないか」 確かに!その可能性に、キラはぞっとした。その代わり、即席ベッドは良くできていた。菓子箱の中に肌触りの良いタオルをそれらしく入れただけなのだが、それでも今のキラにはちょうど良い。 「優しいんですね…」 キラはほろっときた。 「キラに死なれちゃ困るんだ。俺は、キラがいなきゃ何にもできないから」 それは事実だった。 第一、キラがいなければ人の話もまともに聞くことができない。今のアスランを失脚させようと思うならキラを取り上げればいいのだ。 それは赤子の手をひねるよりずっと簡単なことだった。 ようやく安心して寝られたキラには、翌朝のモーニングコールなど造作もないことだった。 貧血から完全回復していないアスランは、キラの言うことをそれは何でもよく聞いてくれたからだ。便利は良かったがある意味、気持ち悪い。 これが見事に何事もなく、出勤(アスラン曰く、同伴出勤らしい)したキラにニコルがあわてて飛び込んできて、アスランの肩からキラを奪っていった。 「あっこら、ニコル!俺のキラ…」 「キラさんっキラさん!大丈夫でしたか?ヘンなことされませんでしたか?セクハラは?アスラン、立場を良いことに口止めしようとしませんでしたか?」 「するかニコル!俺は…「変態は黙る!」 ニコルにギロリと睨まれ、アスランはたじろいだ。この男、だてにこんな地位まで上がってきた訳じゃない。色々と、言えることと言えないことがあった。 「いや、ニコルさん。それがね…社長、あまりの貧血で大人しくしてた」 「ハァ?」 「あれからまた鼻血を吹いてね、顔青くなってて僕が心配したくらいだよ」 ニコルは目をしばたたかせて、アスランに思いっきり疑いのまなざしを向けた。 「だから本当に手、出してないって」 「信じられません!」 第15話へ→ 言い訳v:鼻血ブバーも、一度やってみたかった(おいおい…) 次回予告:天敵登場! |
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