第13話
「もうヤダ!僕はニコルさん家に泊まるからぁ!離して下さい社長〜〜」 キラは手足をばたつかせて抵抗するが、所詮手のひらサイズ。必死の抵抗もアスランには何ら影響を与えなかった。 「キラ!何にもしないから」 「全然説得力ありません!社長」 「そうです!今までのあなた見てたらね、それで信用しろと言う方がオカシイですよ」 「楽しみにしてたんだ」 「あなたは真っ昼間からそんなことばかり考えてたんですか!」 「キラが好きなんだ。本気なんだ。今日は連れて帰るぅ〜。そして念願だった夢を叶えてもらうんだ」 「夢…?またヘンなことじゃないでしょうね?一応聞いておきましょうか、後学のために」 アスランの答え…そのあまりにもドリー夢な内容に、ニコルもキラも面食らった。 「朝、起こしてもらうんだ!名前とか呼んでさ、起きてvとか言ってもらいたいのに〜〜〜」 「……ぇ”…そんな、こと?」 キラはアスランの手の中でスピードダウン。 ニコルに至っては、萌え系の内容に全身から力が抜けたらしい。 「小さくなったキラさんを、体格差を良いことにあ〜〜〜んなことや、こ〜〜〜んなことをして、彼女の全てを奪う…とか言うんじゃないんですか?」 「ニコルさんなにげにエログロ系ですよ!」 「でもアスランのあの勢いじゃやりかねないでしょ?」 「否定はできないけど…」 机の上にあった文庫本でアスランはニコルをはたいた。 「いきなりそんなことできるか!めでたくキラと交際できるんだぞ?手のひらサイズでなかったら、まず最初は恋人つなぎで初デートからだろう!」 自信満々。ここまでくれば、乾いた笑いが止まらなかった。 純情なのか、本気でアホなのか。理解に苦しむところだ。 「……バカ…?」 「バカとは何だバカとは!とにかく、今日からキラと一緒に住むんだ!そして明日の朝に可愛い声で起こしてもらうんだっ!じゃないと俺、ストライキするからな!」 天下のZRコーポレーション………その若社長は、キラに関してはまるで子供だった。 どこの会社にストライキをする社長がいるだろうか? しかもその原因ときたらたんなる色恋沙汰だ。まぁ確かに社長一人にストライキをされたところで、ビクともしないわけではあるが、一応体面とか言うものがある。社長に電話がかかってきたときに、「ストライキ中」は通用しないだろう。 いないとごまかすにも限度がある。なぜならキラがモーニングコールをしない限り、アスランは出社してこないだろうから。 「何訳のわからないこと言ってるんですか!子供じゃあるまいし」 「嫌だ!キラがそうしてくれなきゃ、俺はここに来ないから!」 そう…社長が来ないからと言って仕事にならないわけではない。対外的に困るのだ。 「本当に、ヘンなことしませんか?」 ついにキラが折れてきた。 「しないよ。大事に大事に扱うからv」 「む…胸とか、お尻とか触ったり撫でたりしないですか?」 「しないよ。小さすぎて、触っても全然楽しくないし」 今のキラは全てがミニミニサイズ。つまり…この男は一言余計なのだ。特にセリフの後半以降が。 「きっ着替えを覗いたりも、しないですか?」 「それは我慢する」 (覗きは我慢なのか!) ニコルは心の中でツッコミをいれる。今ここで口を挟んだら、せっかくのキラの頑張りを無にすることになる。 ニコルは涙を飲んで、耐えることにした。 ばびゅんッ! ニコルの眼前で小さな竜巻が起こり、彼が次に気づいたときには、社長とキラの姿は跡形もなかった。 「あ…あ”ぅう”〜〜〜。どうか!どうかキラさんご無事で〜〜〜」 ニコルにできることは、今はひたすら祈ることしかなかった。アスランがご機嫌でキラをかっさらっていったからだ。 しかもこんな短い時間内で、キラの鞄から制服まで。 「これだけの判断行動能力とやる気さえあれば、もっと儲かっていたはずなのに…」 ニコルはひとりごちる。やる気さえあれば、世界に進出することだってできるはずなのだった。このぐうたら社長の「面倒くさ〜い」の一言さえなければ! 「たっだいまぁ〜〜〜v」 今日のアスランは異常にご機嫌だった。嵐のような勢いで、自宅に帰り、玄関の鍵を開けにこにこ顔で室内に入る。 「お…おじゃま、します……」 キラはごくりと息を呑んだ。 ついに…ついに社長の自宅だった。自分で決めたこととはいえ、何されるか解らない、底知れぬ恐怖が彼女をさいなむ。 それもそのはず、アスランはいい年してスキップなのだ。恐ろしさを感じない方がおかしい。キラは食卓テーブルの上にそっと置かれた。ふとあることに気づく。 「あの…社長?ご家族の方は……?」 社長はまだ若い。両親もいるはずである。最初は彼女も寝てるのかなと思った。でもさすがに、いかに広い家とはいえど、こんなに大声を上げながら不審な行動をしていては、一人くらい出てくるのではないか? 「え?キラ、言ってなかったっけ?俺…一人暮らしなんだけど」 ピシ………と、キラは自分がひび割れていくのを実感した。 「ぇ…」 アスランがTシャツにジーンズというラフな姿で、さわやかな笑顔を振りまきながら近づいてきているのは知っていた。だが今までが今までだけに、にわかに信用できない。 更にこの体格差。キラにはとんでもないデメリットだった。 自宅の中と言うことで、正直逃げ場もない。 「ごめんねキラ」 「ふぇ?」 「よく考えたら怖いよね。こんなに小さくなっちゃって」 「社長…」 アスランは両手でふわりとキラをすくい上げた。 「本当にヘンなことしないから。誓うよ。だから…簡単なお願いを聞いて欲しいんだ」 今までとは全く違う、エロオヤジのような視線を全く感じなくなったことに、キラは自分でも驚いていた。 こうしてみると、どこにでもいる好青年だった。 「イヤらしいことはお断りですよ」 「もう〜信用ないなぁ…。簡単なことだよ。会社でも言ったように、モーニングコールをしてくれることと、俺を名前で呼んでくれること」 面食らう…という表現はまさにこういう時のためにあるのかも知れなかった。 「名前………ですか?」 「うん。だって名前で呼んでくれないと、ここにいても会社にいるような気分がしてくつろげないよ」 言われるのも最もだが、キラはしばらく悩んだ。 第14話へ→ 言い訳v:ふっふっふ!注意書きがないからには、この話にエロはないのです(キッパリ) 次回予告:ちいサイズの生活編。シャワーと携帯電話と妄想特急。オタノシミニ〜。 |
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