第10話
「それだ!」 ニコルは絶叫した。 「へ…?」 「今度開発した新商品あったでしょ?美肌効果のある健康飲料」 「あ、うん。あったあった」 「それですよ!きっとアスランが砂糖と間違えて紅茶に入れてしまったんです」 「………はい?フツー入れないでしょそんなもの…」 キラはいぶかしむ。 新商品だってことをニコルが言って帰らないわけはないし、社長だって判ってるはずだ。それなのにナゼ? もしかして社長寝ぼけてた? 「僕も入れないと思ってました。うかつでした。9時になったので内線でアスランを催促したんです。それで、まさか間違って入れたままのティーカップをそのままにしてきてたなんて思わなくって…」 「9時…じゃぁ、社長は寝ぼけてないよね」 「寝ぼけてませんよ。キラさんがなかなか来ないって、朝っぱらからわめいてましたもん」 「ああ”〜〜〜〜〜〜〜…」 その光景は簡単に想像が付いた。 毎日会議前には、社長の膝に座ってほっぺにキスしなければ、まともに行ってくれない。今日はそれができなかったから、朝からむくれていたのだろう。 その前に、それ常識で考えてもオカシイだろう。 会議に行くたびに「ほっぺにちゅう」は誰が考えても必要ない。 ところがこの社長…それがなければ頑として行かないのだった。だから、キラも仕事と思って仕方なく、そうしてきた。 「それでね。僕やっと気づいたんです」 「え?何にですか?」 ニコルはキラに近づき、耳打ちするように小声で話しだした。 「僕としても非常に心苦しいんですが、キラさんにぜひ協力をお願いしたいんですよ」 「あ…僕でできることなら」 「アスランに付いてて欲しいんです」 驚愕は、まるで激しい雷のようにキラの脳天を突き刺した。 「嫌です!それだけは嫌です!酷いですよニコルさん。僕に生け贄になれって言うんですか?」 キラの解釈もかなりきわどい。 だがそれがあながち間違っていないことも事実だった。 「ああごめんなさい。僕の説明が足りなかったです。アスランはね、確かに正真正銘の変態です。だからね、あのバカ…キラさんの言うことしか聞いていないんですよ」 キラの笑いが凍り付いた。 「……………………は?」 「今回だって僕が散々言ったんですけど、全然聞いてなくて。もう少し時間が遅かったら、あの紅茶飲んでアスランが小さくなってたところだったんです」 「あ、そうか」 「だからね、変態の習性を逆手にとってですね、キラさんにちょっと協力してもらいたいんです。あなたの口からダメなものはダメとちゃんと言ってもらえれば、アスランは言うことを聞きますから」 「そう言われればそうかも知れない」 「媚びなくても良いですから、ガツンと言ってやって下さい!」 確かにアスランがキラの言うことに反して行動した覚えはない。 それどころか、キラがこうして下さいと言えば、ニコニコしてちゃんと聞いてくれるのだ。ニコルの言う「習性逆利用作戦」は効果があるかも知れなかった。 ただ、あの暴走さえ止められればキラにだって勝機は見える! 「僕こんな姿だし、今はどう頑張ったっていろいろ手伝ってもらうしかないし。ちょっとやってみる」 「すみません。僕も精一杯協力しますから、セクハラ受けたらすぐにでも知らせて下さいね。正義の鉄槌を濫発しますから」 「判りました!それで手を打ちましょう」 という経過で、ニコルとキラの作戦は発動した。ニコルはふとある可能性に思い至る。 「それと、キラさん。そのティーカップはどうしたんですか?」 「え?あれ?落とした拍子に割っちゃったから、社長がゴミ箱に捨ててましたけど」 「あぅう゛……。それじゃぁ、中身は残ってないですよね」 「あ〜残ってないと思う」 「それじゃ仕方ない。新しく作り直して、調査に出してみることにします」 「お願い…します」 そこへ話をややこしくする声が割り入った。誰あろう社長だ。しびれを切らしてとなりの部屋から来たらしい。 「え?キラ何を?頼むなら俺に頼んでくれればいいのに。もう、恥ずかしがったりなんかしてv水くさいなぁv」 相変わらずキラのことになると目ざといアスラン。だからこそ困る。 「ややこしいときにややこしいところに口出ししないで下さい!真剣な話をしているのに」 「俺だって真剣だ。キラとの交際だって、すごく本気なんだから!ニコルには負けないぞっ」 ぱこっと、アスランはまたもやニコルに殴られた。 「色事じゃないですよ!キラさんをもとのサイズに戻す話です!」 「あ…ごめん。じゃぁ、父上の知り合いに薬学に詳しい人がいないか聞いてみるよ。それよりもキラv」 キラは後ずさる。会議用テーブルの上で。 「のどが渇いたv何か持ってきてv」 的確なニコルの足蹴りがアスランのむこうずねにヒットし、彼は姿勢を崩して床に真正面から突っ込んだ。 「今のキラさんにできるわけないでしょう!自分で淹れる!いい加減理解しなさい」 アスランはテーブルの上の手のひらサイズのキラを見て、今さらのように気が付く。 「そうか!ごめんね、キラ」 「あ、いや。いいんです、社長」 その瞬間、アスランの表情はゆるみまくり、今度は歓喜にむせび泣いた。 「うぁあ…効きますねぇ」 「ぅん。効果抜群?」 キラとニコルはひそひそ話をする。 「キラさんお願いしますよ。この手で、アスランを裏から操っていただきたいんです」 「了解しました!サー」 戦術確認完了! ふと見ると床からへたれた声が聞こえてくる。アスランがうじうじと泣き言を言っているのだ。 「キラ…ニコルが酷いんだ。もうちょっと俺のことだって考えてくれればいいのに…。俺、何にも悪いことなんかしてないよ。なのに…なのに……キラのこと諦められない…」 うあ”!しまった。セリフを途中で遮らないものだから、話がどんどんヘンな方向へ行きかけてきている。 「社長、ニコルさんだって社長のこと大事に思ってるんですよ」 キラの言葉でアスランは復活した。 第11話へ→ 言い訳v:キラの意識をアスランに向かわせるのに、この設定とこのメンバーでどうしようかと思いました(笑) 次回予告:社長のやる気と怪奇現象。 |
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