twelve*twelve
<第6章>女王即位
第43話
「とりあえず顔、拭いてください」 そう言うと、副宰相がタオルを牢に差し入れてくれた。そのタオルでじょびじょびに濡れた顔を拭くと、いつか見たあの整った顔が再び現れた。 (顔だけはいいんだけどなぁ) それがここに来た者の全員の思い。 「ありがとう。本当にありがとう。俺、信じて待ってて良かった。みんな信じられないと思っていたよ。俺だけに尽くすはずの妖怪でさえ俺の言うこと聞いてくれなくて…ここから出られなくて………」 ズルズル……じゅび…。じょびじょび……。出てくる鼻水と涙をタオルで拭いてゆけば、いつしか絞ればバケツが要るような量になっていた。 「いやね、あなたももう反省しただろうから、もういいよ。今日は迎えに来たんだ」 アスランはいっそ気持ち悪いぐらいの笑顔をキラに向けた。 「ありがとう。ありがとうキラ。ここから出られたら、すぐにでも君を抱きしめたい…」 ち〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。 やっぱりアスランは変わっていなかった。 「それはダメ」 「何で!どうして?キラだって寂しかっただろう?俺が慰めてあげるから」 「それは要らない」 「キラぁあああああッ!!!!!」 「寂しくもなかったし、慰めても欲しくないんだ。この1ヶ月僕はとても充実していたよ。だから大丈夫。それにね、知っての通り僕は男だったから、あなたにそういうコトされると気持ち悪くてたまらないんだ」 ああ、こんなにも自分は黒くなれるのか。といっそキラは自分自身で感嘆していた。 「大丈夫だよ。心配しないで。怖くもないし痛くもしない。俺に寄り添ってくれれば気持ちよく寝させてあげるから」 解っちゃぁいたけど……。ヤル気満々だこの男。しかーし!そんなことは全て織り込み済! 「あのねアスランさん。条件があるんだ。それを聞いてくれたら考えないでもないよ」 「ええっ!じゃぁさっそく今夜俺と甘い夜を!!!!!」 キラはゆるゆると首を横に振った。 「物事には順序ってものがあると思うんだよアスラン。普通はそうだろ?出会って、話をして、ちゃんと恋に落ちてから。その間の時間って、とってもとっても大切だと僕は思うんだ」 とても、の部分は特に強調。でもそんなの(アスランには)関係ない。 「キラ………」 「ましてやこんな身体になっちゃったけど、今でも僕は信じたくない」 そう。キラはまだバリバリ男の気分だ。 「いつか僕が本当に女の子の気持ちになって、あなたに触れられてもいいかもと思えるようになるまで、僕の心を掴む努力をして欲しい。そうしたらあなたのことを見直すかも知れない」 今は絶対嫌だけどね、という本音はここでは隠して置いた。散々焦らせばいいのだ。話によるとキラとアスランの立場では善政を敷く限りお互い不老不死だという。時間だけはやたらにあるのだ。 「本当なら今すぐにでもキラが欲しいのに…」 「本当に僕のことが好きなら、そうしてくれるでしょ?そんなに僕が大事なら、性急なことをして僕を困らせたりはしないよね?」 確認という名目の強制。主な狙いはここにあった。 「待てずにキラを抱いたら…」 「その時は一生君を許さないだろうね。この世界のシステムもようやく頭に入ってきたし、政治だけなら無理にあなたがいなくてもいいような気もするんだ」 そして………脅迫。ヘタこいたらここに逆戻りという可能性を頭に植え付けておく。 「キラ、愛しているよ」 「うん…(それ本気で気持ち悪いよ)」 「絶対君は俺の虜になるから」 「すごい自信だね。僕と根比べしよう?(したくもないけど、この際仕方ないよね)」 「負けたらキラを抱かせてもらうよ」 「負けたらね(天地がひっくり返っても負けないから)」 キラはアスランの瞳で真剣さを確認し、副宰相に牢を開けさせた。するとアスランは意外にも真摯な態度でキラの側に向かってきた。 「ストップ!そこでストップ。まずはこの距離から」 「遠すぎる!!!」 遠すぎることはない。二人の距離は数値にして訳1m程度だ。 「先は長いんでしょ?」 「ふふ…それも良かろう!障害が大きいほど恋心は燃え上がるというもの!ふっふふふ、ふふふっふ!覚悟しておけよキラぁ。両思いになった暁には、腰が砕けるほど良い思いをさせてあげる」 愛する主君との間をナイツオブキラたんに阻まれながらも、アスランは自信満々ににやつく。 キラ(気持ち悪い!本気でアブないよこの人) 副宰相(ご辛抱下さい。一時の我慢でございます) キラ(今にも迫ってきそうなんだけど……) 重臣A(我々もキラさまのために最大限の努力をいたします。とにかく、この調子で牽制しつつ女帝へのご挨拶を乗り切ってください) |
いいわけ:副宰相の考えた作戦。キラは「惚れるかも知れない」とは言ってませんが、アスランは都合のいいように勘違いした模様。当然。
次回予告:放置とスルー
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