twelve*twelve

<第5章>女王奪還


第37話

 

 重臣たちは一様に頷いた。ストライクフリーダムは、キラが承認したナビゲーションの設定通りのルートをそのままたどってゆく。全方位モニターに映し出される映像からかなりのスピードが出ていると思われるが、このまま進めば訳1日足らずで傾国のコペルニクス王宮に着くと思われた。


「飛行機みたいだ…」

 と、うとうとしながらキラは感想を持った。

「ああやはり仮設定をしておいて良かったな」


 ちょっと安心したと同時に船をこぎ始め、居眠りを始めた女王に重臣たちは親のような微笑みを向ける。

「一気にいろんな事が起こりすぎたのだ。女王陛下もさすがにお疲れでいらっしゃる」



 それにしても………と、コックピット内の臣下は息をのんだ。


「………。可愛いですな」

 言葉に出すとその場の全ての者の頬がまっぴんくに染まる。


「可愛いですな……………」

 彼らの目の前にあるのはシートにもたれたまま疲れて寝込んでいるキラの姿。一応上から順番に視線を落としてゆく。顔、喉、胸、腰、細い手足……。女性として完璧なプロポーションの具現体がそこにはあった。

 それは、そう…むぎゅっと抱きしめたいくらいの。



「このお姿が真実とはいえ、元は男性だったとは信じられませんな」
「まことにまことに。相当お綺麗な殿方だったのでございましょうなぁ」

「こらこら!イケナイ事を考えてはなりませんぞ」
「おぬしこそ…」


 ゴクリ………と喉が鳴った。

「役得ですな」
「ええ…。確かにアホの言うことにも一理あります」

 と、いい加減男性陣で盛り上がっていたところに、都合良くキラの寝言が割り込んだ。


「うう…。………た、ぃ…ッ!変態はかえれぇ……」

 どんな夢に魘されているかは考える必要がない。きっと、夢の中でもアスランに追いかけられているのだろう。



「おいたわしい…」


 そう。確かにいたわしい。キラ自身は女性の身に変わって間もなく、変態ホモ野郎に追いかけられている哀れな男性の気分なのだから。


「王宮にお連れしても、すぐにあのキリンを解放するわけにはいきませんな」

 言わずとも判っている合意事項。きっとアスランの縄をほどけば、水に放たれた魚だ。縦横無尽に泳ぎ回り、結果キラは寝室から出られもしないであろう。あまりの疲労と腰痛に。


「病院送りと称して監禁しておく必要がございますな」


「うむ。その間にまことに申し訳ないが、女王陛下を変態からお守りするための警護隊の整備と、陛下にも護身術をお学び頂かねばならないでしょう」

 事は急を要する!新王を戴くため!国政を執っていただくため!そして傾国の復興と長きに渡る繁栄のため!
 全てを円滑に回すためにキリンを新王に必要以上に近づけないようにしなければならない。通常他の国家とは真逆の方向に進むが、これも国のため民のため!

 そして将来ちょっぴり自分たちが苦労の代価として良い思いをさせていただくため…あぃや、今本音を出してはならん。



「キサカ殿だろう。適任は彼しかおらん」

 あらかた心の中で決まっていた。


「今、傾国に滞在して居られるのか?」
「これはチャンスだ」

 キサカは元々世界の女帝アスハの付き人だが、時々世界の情勢を見て回るため、不定期ではあるが国を回って見ていた。その情報はそのまま女帝アスハに伝わるがそれも致し方ない。変態キリンの現実を考えるともはや時間と手段を選んではいられないのだ。


「陛下には、1ヶ月で護身術をマスターしていただく」


 時間がなかった。イヤ本気で。あのアスランを遠慮無く拳でぶん殴れるぐらいの実力を付けてもらわねば即身の危険だ。


「うちの成績の悪い変態アホキリンのことは、女帝アスハも重々お判りでいらっしゃるはず。この度のことは確かに女帝のお耳に入るが致し方ない。きっと女帝にもご理解いただけることと信じるしかない」

 重臣たちは唸った。トップシークレット級の不祥事だ。


「仕方ない…。我々は………名より、実を取るのだ」



 疲れて寝込んでいるキラを見下ろしながら苦い顔をする。やはりこれから彼らの主君になる彼女がいたわしい。女性としての生活より暴漢から身を守る護身を優先しなければならないのだから。



「陛下の警護隊の人選も同時にしておくように」
「ぬかりのないようにいたします」


「隊の名は<ナイツ オブ キラたん>でよろしいですかな?」


 周りの者は至極まじめな顔をして頷いた。
 オカシイところに気づけよ…って?気づくことはないのだ。それはこの場にいる皆が目の前のスリーピング・ビューティーに萌え萌えになっているのだから(←結局同じ穴のムジナ)。





 そのまま、至宝ストライクフリーダムは傾国の首都コペルニクスへ向かう。そのさらに中心にあるコペルニクス王宮へ入っていく姿は、目にした国民に勇気を与えた。
 機体は広い中庭の真ん中に静かに降り立つ。その柔らかな衝撃でキラは目を覚ました。

次ページへ→

いいわけ:キラさまの前ではどんな人だって夢中になってしまうのです。これこそキラ受けサイト(こらw)
次回予告:第6章に入ります。キラ、王宮の中庭に降り立つ。


お読み頂きありがとうございました。ブラウザバックでお戻り下さい。