twelve*twelve

<第5章>女王奪還


第35話

 

「そうなの?そうなの?やっぱそう思う?良かったぁ、僕だけじゃないんだね、そう感じる人」

 キラはヘンなところで感心し、同情し、そしてこのおじさんたちと少しだけ気が合ったように思えた。



「ところでさっきからズルズル引きずってるソレ…何なのか聞いて良い?結構重そうなんだけど」

 それになんだか動いてない?と、キラはつけ加えた。そりゃそうだ。蓑虫の中身は当のアスランで、そのことはキラには絶対秘密なのだから。



「こ………コレ…は………」


 ここに重臣たちのアンヴィバレンツがあった(あ、因みにアンヴィバレンツは二律背反という意味…。補足ごめんよぉ)。


 この縄蓑虫は傾国になくてはならない存在ではある←建前
(いかな変態でもアホでもどうしようもなくともキリンはキリン)←本音

 今連れて帰らねば今度はこの変態奪還作戦を実行しなければならないかも知れなくなる←建前
(二度手間は嫌だ)←本音

 けれども今のこの場でアスランだとバレると、キラの信用を100%失ってしまう←建前
(変態の仲間扱いされるのは以ての外だ。いわんや当のキラの造反をや。以上反語)←本音



 今この瞬間、臣下としての機転を問われている。考えろ!考えるんだ!そうすればボケ防止になr………違うか。



「実は、この者は…ここまでの道中に敵にやられて傷を負ったのです」

 アンタたちが伸したんじゃないのかって?いや、間違ってはいないよ<キラの敵。女の敵>だから。解釈の問題だわーはははっ!



「ええっ!じゃぁ手当てしないといけないんじゃ…」

 何も知らないキラの心配そうな言葉に、蓑虫は更にバタバタと暴れて反応する。


「ところがこの宮殿では我々の方が不法侵入者。このように暴れて大声を出されてはいけませんので、この処置は苦肉の策とお受け取りください」

 説明する重臣の隣で他の重臣が小さく「GJ!」と褒めた。キラは何とか納得したようで、それでも心配そうに蓑虫を見つめている。



(申し訳ありませぬ〜陛下ぁ〜〜。ソレが…ソレが実はうちの変態アホキリンなのですじゃ………)

 との思いは、ギリギリのところで飲み込んだ。

 キラへの説明はとても心苦しかった。後ろめたかった。だがそれも傾国に新たな王を戴くため(半分建前半分本気)、新王を変態から守るため(8割本気)、国と民を見捨ててトンズラされては困るため(遂に出たな本音が)!


 名付けて<ウソは言っていない。でも事実の全てを話した訳じゃない。許してください大作戦>。


 キラはおずおずと蓑虫の側に近づく。動揺する重臣たちを後目に、優しく蓑虫をなでると蓑虫がぎったんばったん激しく反応した。悶えまくった縄蓑虫をキラは激痛を堪えているように受け取った。

「ああっ!ごめんね、痛いよね…。誰にどこから触られてるんじゃわかんないから、余計怖かったよね。大丈夫。きっと解放してあげられるから」

 そう、声をかけると蓑虫の一部がじょびじょび濡れだした。


「あっ!どうしよう…暴れたから傷口が開いた?何か水みたいなのが出てきてる…」

 水みたいなもの………その正体は実に下らないものだ。何だったのかというと結局アスランの嬉し涙なのである。
 知らないとはいえキラに優しく声をかけられてどうやら感涙したようで。その事実はたいがい重臣たちには判っていたが、彼らはそんな個人的な萌えなど不要とアッサリ切り捨て、脱出を急ぐためのネタにした。


 無情じゃないよ。これも迅速なる作戦の遂行のためなのですよ、だってここは敵地のど真ん中。



「こう暴れるようでは色々と差し障りが出ましょう。陛下、脱出を急がないと」

「うん…」


 キラはちょっと待って、と言い再び蓑虫の側にしゃがんだ。

「ごめんね、痛むよね。でも、暴れたらもっと痛いから、出来るだけじっとしてて欲しいんだ。そうすればあなたを早く病院でもどこでも連れて行ってあげられるから」

 その言葉で蓑虫は沈黙した。
 キラだけでなく重臣たちもキラの言葉の力に驚愕したが、その後の解釈はやはり少し別れることになる。蓑虫からの水漏れが気になるほどになり、そのうち縄から水滴がしたたり落ち始め(どんだけ濡れてんだ!?)、キラはますます心配になり、一方重臣たちは予想を超えない展開に呆れかえった。


(この………アホが……)





「しかし…黙って忍び込むのは難しそうですな」
「強行突破になりますが、よろしいですかな?」

 キラは首を横に振った。


「最後まで足掻けるかも知れませんよ。僕に良い考えがありますので、付いてきてください。僕たちは怪我人もいるのだから」

 怪我人、とキラに思われているのは実は元気すぎるアスランなのだが、そこは内緒というお約束。


「陛下…」

「それでもダメなら仕方ありません。少し…任せてもらえますか?」


 そう言って、キラは重臣たちとなにがしか下相談をし、目的のMSの前まで堂々と歩いてやってきた。



「誰だ!この妖怪には誰も近づいてはならんのだぞ」

 見張りの男がキラたちを止める。

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いいわけ:ええ。縄蓑虫(アスラン)でさえ、同情を買い、味方になってもらう為のネタ。彼らは政治家ですから。
次回予告:「ごめん…。けど、僕を行かせてくれ………」


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