twelve*twelve

<第4章>接触


第31話

 

「とにかく我らが新王陛下が、このお隣のお部屋においでなのは明らか。ここまで来たのだ。ダメ元でもなんでも説得するぞ」

 いや、それは本気で仕方ないだろう。誰かさんのせいで。
 その言葉に蓑虫が激しく反応した。だがそれはもちろん重臣たちによって即座に却下される。アスランに説得なぞさせたら失敗の確率は100%だ。



「お前はここで反省でもしてろ!過去を顧みる脳みそがあるならな。一人をこのアホの見張りに、あとの者は隣室へ」
「判っておりまする」


 ところが例によって部屋の扉の前には誰かが常駐しているのだから、隣室へ行くルートは限られている。そう、ベランダだ。

「くそっ!何故我々がこんなことをせねばならんのだ」
「それもコレも、全部うちのアホキリンのせいです」

 などと、アスランのせいでもない責任を勝手になすりつけつつ、重臣たちはベランダとベランダの僅かな隙間に、部屋の長テーブルを引っかけ、橋を渡してからぞろぞろととなりのベランダに忍び込んだ。

「良いか、くれぐれも慎重に。慎重にな。陛下はあのアホスランの失態のおかげでひどくご機嫌を害されておる」
「重々承知しております」



 因みにお約束。そうした重臣同士の堅い結束を確認したとき、ベランダの掃き出し窓は開くのだった。


 ガラガラガラガラっ!



「…………………」

「………ぁ…」



 キラは眉根にしわを寄せて重臣たちを見下ろしている。思いっきり不審そうだ。そりゃぁ間違いない、どこからどう見ても彼らこそ不審人物集団だった。

「……陛…下………?」


「ナニやってんですか?」

 そりゃそうだろう。キラでなくなってそう思う。


「お…お部屋に入ってもよろしいですか?」

 さすがに怖いのでまずそこから聞く。とにかくアスランを封じた今、キラに騒がれては困るのだ。重臣たちには不利な条件ばかりだ。



「………。…ってか、何でドアから入らないんです?」

 仕方ない。勝手が分からないキラには皆この宮殿の職員に見える。


「い…色々〜〜〜と深〜〜〜〜〜い事情がありまして………」

 何故だろう、重臣たちの額に冷や汗が伝った。

「あ…怪しい者ではございませんので、とにかくお話をお聞き入れくだされば助かるのですが…」


「うーん。でも見るからに怪しいように見えるんだけど」

 そう、正規のドアからではなくベランダからぞろぞろと侵入してきたところを見ると。まるで覗きか下着ドロだ。


「へ…陛下……」



「あの、窃盗目的なら帰ってもらえます?僕ここにタダで泊まらせてもらってる身なんで、壺の一つでも盗まれたら困るんです。盗むなら他の部屋にしてください」

 ニッコリ笑いながら拒絶するキラ。盛大な勘違いをしたままのキラ。
 そこには見えないけれど高すぎるハードルがあった。



「盗みではございません!決してお部屋の物を黙って持って帰ろうなどとは……」

 必死に言う中年男性。それすらキラの勘違いを増大させるにはたやすい効果だ。


「いやあのね、窃盗目的で忍び込もうとして見つかった人は、みんなそういう言い訳をするんだよ」

 ひたすら笑顔を崩さないキラ。だらだらと、脂汗までが滝のように流れる重臣たち。その姿は滑稽でしかなかった。


「どうあってもお解りいただけませんか?陛下ぁ〜」

「あ!判った!そうでなきゃ覗き?下着ドロ?」


「え”………」

「残念だけどここにはパンティもなければブラジャーもありません!しかもオトメの匂い付が欲しければ、そのテの店に行って合法的に心ゆくまでご堪能ください」



 判りきったことではあるが、キラは警戒しまくっている。



「あなたにしかできないお話があるんです!どうか、どうかお話だけでも」

「え?違うの?じゃ、ナニ?1発3万円でどうとか言う話?やめてよね、もう。ここには変態が多すぎるよ」


「は…?いったい何のお話で?」

「あのね、僕は知らないおじさんとエッチしたり援助交際してお金を稼ぐ気はないってコトです」

 そう、そこには深くて大きすぎる溝があった。そしてその溝を作ったのは全部アスランだ。


「畜生!あのバカスランのせいで……」



 その瞬間、後ろの方で吐かれた毒づきにキラが真っ先に反応した。

「あっあのっ!もしかしてあの変態を知ってるんですか!?」

 知っている。アイツのことは知りすぎている。しかも全て女狂いと考えなしいう悪行三昧の部分だけ。それで今まで苦労に苦労させられて来たのだ。

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いいわけ:当人たちは必死です(キラもある意味必死)。
次回予告:口・が・裂・け・て・も・言・え・な・い……。


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