twelve*twelve

<第4章>接触


第30話

 

 要するに医師でもないのに「自分は医者だ」と言ったとたん医師法に抵触するようなものだと、彼は言う。


「うぅうううっ嘘だーーーーーーーーーッ!!!!!」


「いくらキリンを騙ったところで、キリンでない者は女帝アスハに会う資格はありませんから、女帝の居城にすら近づけません。騙る行為自体も無意味です」

「だって…確かにキリンとか何とか……ケーキ屋さんとも言ってた。ん?だったら違うのか………」

 キラがホッと息を付いたとき、大臣はキラの安堵をサックリ覆した。


「傾麒と名乗ったのですね?彼は」

 キラは頷く。


「友達としゃべってたら、いきなりアキバ系コスプレ変態がやってきてケーキとか何とか、訳わかんないこと言って僕にモーションかけてきたんだ…」


「………は?」

「僕はノンケだって断っても聞いてくれなくて、そのまま変なメカに乗せられて海の中に真っ逆様に落とされたんですよ!本当に、僕と心中する気かと思いました」

 大臣はキラの言葉の情報を頭の中で整理する。変なメカは多分傾国の至宝のことだろう。海へのダイブは世界をまたぐことを意味すると取って良い。



「ではあなた様は………」
「ちょっと聞いてくださいっ」

 この時キラは昼のワイドショーを見ているおばちゃんの気分になっていた。


「もうとんでもない変態なんです!男だと判っていながら欲情はするし、公衆の面前でコトに及ぼうとするし、僕を狭いメカの中に連れ込んで嫌らしいコトするし………何より、アイツ……………あり得ない持続力だったんですよ!もう信じられません」

 信じられないって………ナニが???というツッコミが入るかと思うが、ココは全年齢向けなので倫理規定により却下v



「き………キラ……さま…?」

 大臣は思う。彼が知るに普通そんなキリンはいない。だが、彼の目の前のキラは必死だった。



「あんなモーレツ限度を知らないぐらい濃いド変態に捕まったら、僕はお尻が裂けてしまう!!!」


 にわかには二の句が継げない大臣。

 確かに彼の目の前にいる彼女は傾国の新王に間違いない………だろう。稀に女性との交際を好むキリンがいることは聞いていた。例えば¥国のディアッカがそうだ。
 けれども、キラの話を聞くにここまでの変態は彼の記憶にない。何かの間違いのようにも思えるが、とりあえず懐柔の基本は<相手の言葉をとりあえず否定しない>が鉄則だ。


 大臣は基本に戻った。

「うぅう。何とおいたわしい…」
「でしょう!僕はここに来てから不幸だらけだよ!学校の友達とははぐれるし、きっとホモの烙印を押されてるだろうし、両親は心配してるだろうし、そして…こんな、こんな身体になっちゃったし…」

 ぐずぐずと泣くキラは本当に守ってあげたいほど可愛い…すぎる。



「こんな身体じゃ両親にだって変態って思われちゃうよぉ〜〜〜!僕、性転換とかしてないし、そんな悪趣味ないのにぃ……」

 いや、否定はしない。今やキラはどこからどう見てもか〜わいい女の子だ。


「女王陛下、あなた様の身は我々がお守りしますよ。ご安心ください」

 キラは瞳をうりゅうりゅさせて大臣をやや上目遣いで見た。


「本当に?僕の身体を狙う変態から守ってくれるの?」

「もちろんでございますとも」
 もちろん。それがデュランダルの命令だからだ。


「僕、ほとぼりが冷めるまでもう少しここに居させてもらっても良いですか?」

「我らの主もたいそうお喜びになりますよ。では女王陛下、本日はこれまでにいたしましょう。お疲れになりましたでしょうから続きはまた今度に」

「はい。次はいつになりますか?と言っても僕はそれほど急ぎませんけど」



 大臣はポケットからメモ帳を取り出して少し思案し、では3日後に、と言ってこの部屋を辞した。





 …………………で、ちょうどその隣の部屋では、数人の集団が顔面蒼白になってガタガタ震えていた。

「どどどどっどうしよう!説得から始めねばなりませんぞ」
「しかもあまりにもこちらに不利ではないか」
「ええい!ややこしいことをしおってこのバカたれが」

 そう、傾国の重臣たちがちょうど空いていた隣の部屋に外壁から忍び込んで、キラと恋う国の大臣との会話を(盗み)聞いていたのだった。

 そして事態があまりにもヤバ過ぎることに愕然となっていた。


「ふぃふぁ〜!ふぃぃふぁぁああああっ!はぶっかはっけはっ」
(訳:キラぁ〜!キぃラぁあああっ!がふっかはっけほっ)

 傾国の重臣たちが縄蓑虫にし、更に喚き声が聞こえにくいように猿ぐつわをしているせいで、運良くアスランの(はた迷惑な)絶叫は外に漏れない。いくら抜け出そうとしてモジモジしたところで誰も助けに来ないのだ。
 アスラン付きの妖怪でさえこの現況が理解できているので、主人にではなく重臣たちに味方していた。どう考えてもこの状況でアスランに味方すれば作戦失敗間違いなし………どころか彼らも一緒に捕まってしまうのは火を見るより明らかだ。

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いいわけ:いや、妥当な展開なんですよ(笑)設定上…。縄蓑虫は苦肉の良策です。
次回予告:「いやあのね、窃盗目的で忍び込もうとして見つかった人は、みんなそういう言い訳をするんだよ」


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