twelve*twelve

<第1章>傾国の新王


第3話

 

「いや、綺麗な人だとは思うけどさぁ……」

 キラとトールは同時に同じことを思う。
 この人(アスラン)は頭が弱いか、はたまたキチーか……。



「ってか、こんな場末のホストみたいなカッコしてさ、男に笑いかけるなんてゼッタイ変態だよね」


 トールは反論できなかった。
 現実的な処理として、目の前の変態コスプレ勘違い侵入者を変質者&不法侵入者と決めつけて、一刻でも早くここからたたき出したい。そうすれば忘れられる。それは本音だ。こんな奴の肩を持つ気もないから、否定などしたくもない。
 しかも知らない人ならなおさらだ。


「………確かにな」

 そして目的の彼はアスランの顔の前で手をヒラヒラ振りながら宣う。
「どなたか存じませんが、頭大丈夫ですか?僕は男ですよー?ここは学校ですよー?夜の街じゃないですよ〜〜〜?」



 反応のないアスランにさすがに冷や汗が出てくる。隣でトールが冷や汗をかきながら、キラに助けを求めるように視線を集中させた。
(ヤバいんじゃないの?)

 だからといってキラとて余裕ではない。思いは同じだ!
(ってか冗談で言ったのに、図星だった?)



 跪いた格好のまま上目づかいで睨みつける男は、本物の変質者に見えた。ヤバい、本気で琴線に触れたか?
 だとすれば、イロイロとアブない。しかも黙っているところを見れば、いわゆるムッツリの可能性が高いわけで………。

 二人とも、ムッツリの、しかも見る限り変態男に、特にお尻あたりを良いように弄ばれるシュミは持ち合わせていなかった。





(とりあえず逃げた方がいいんじゃないのか?)
(僕もあからさまにそう思う)

 ひそひそ会話は成立し、二人は猛ダッシュでその場から逃げ出そうとし……………一人が捕まった。



 安全地帯からトールが叫ぶ。
「キラぁあああ〜〜〜〜っ!だいじょーぶかッ」

「大丈夫なんかじゃないっ!助けてぇっトールッ!モノホンの変質者だ〜〜〜っ」


「変質者じゃないです。傾麒のアスランです」
「そりゃまた美味しそうな…じゃないっ!ごめんお店の宣伝になんか興味はないよっ」

 キラは、「ケーキ(屋)のアスラン」だと受け取ったらしい。おざなりに否定しながらも、騒ぎが大きくなるのを感じアスランは彼を慌てて抱きしめる。すると彼が声を上げなくなった……いや、正しく描写すると、声にならない叫びをあげ続けていた。



(ヒェ〜〜っ!僕男に抱かれたっ…いやだっ……しかもみんな見てるのにぃ〜〜〜っ)


 友達らしい別の生徒が勇敢にもアスランに向かってくる。その彼を眼光ひとつで縮み上がらせ、アスランはキラの手を取ったまま身体だけ解放する。

「時間がないんです!」
「僕は立場がないっ」

「私と一緒に来ていただかねば、困るんです」
「君についてってホモの烙印を押されることの方がよっぽど困るッ!!!」


「追っ手が、迫ってきてます。危ないですから…」
「アブないのはあなただぁあああ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!」

 途端に起こる大爆笑。



「あっこら!人のピンチだと思ってぇ〜〜っ」

 キラの言葉でトールは我に返った。
「ごめんごめん!こらー変態アキバ系ホモホスト野郎!キラはノンケなんだぞっ!!襲ったって美味しくないと思うぞ」

「トール!論点違〜う〜〜〜」





 終わりの見えないお笑いコントに業を煮やしたのはアスランだった。
「全く!イロイロと急いでるときに限って」

 アスランは再びキラの前に跪き、早口で忠誠(半分以上は建前)の言葉を述べる。

<御身を喜んで新王陛下としてお迎え申し上げる。これよりはおそばを離れず支えとなって昼夜を問わずお悦ばせすることを誓約する>



「ぇ…?なんか………ヘン…」


 しかしキラはアスランの焦りに満ちた眼光と態度に吊られた。

「判ったと、仰ってくださいッ」

「は?何を!!?」
「お命が惜しくないのですか!」

「僕は自分の童貞が惜しい!だからって貞操もヤバい気がするけど…」
「童貞の件は………置いといて、お命が先です!早くッ」

 言いながらアスランはキラに詰め寄る。接近しすぎて顔と顔が真正面からぶつかりそうになった。アスランの白皙の肌と青緑の眼光にビックリして、キラはこの時不覚にもうろたえた。



 どう見てもこのコスプレ野郎は本物のホモに見える。
 キラはとにかく襲われたくない一心でOKを濫発した。



「ふぇ?ぁ…よくわかんないけど、判った判った!これで良いんでしょッ!満足した?もうこれであなたとはさよならだねvじゃぁ良い夢を〜〜〜」


 途端にアスランの瞳がギラリと光った。

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いいわけ:キラとトールのコンビはなかなか機会無かったけど、新鮮で楽しかったw
次回予告:学校の授業が受けたくて仕方がなくなった瞬間


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