twelve*twelve

<第4章>接触


第25話

 

 ところが、キラがのほほ〜んと時を過ごしている間に事態は急展開を迎えた。


 国王デュランダルに近隣の国¥国のキリンが主(←イザーク)の書簡を持って挨拶に現れたのだ。

「これはこれは。わざわざ¥国の宰相殿がお一人でお越しになるとは珍しい」

 ディアッカはデュランダルの言い方があまり気にくわなかった。彼の主のイザークになら対応方法は慣れているとか、実はなんだかんだ言ってディアッカもイザークの側が心地良いとか、この際そういう些末なことは置いておく。


 なんだかどこかしら胡散臭い。それがディアッカの正直な直感だった。

 けれども、表向き今は一国の大使としてここにいる身。
 いくら相手が嫌いでも、性に合わなくても、豊かすぎるモシャモシャのワカメ髪を切りたくなっても、レイ・ザ・バレルに<あああなたの国は主人があのような短気な国王で大変ですね心中心からお察しします>と言わんばかりの視線を向けられて、カチンと来ても態度に表すわけにはいかない。

 ディアッカはこの宮殿を出たら、すぐにでも薬局で胃薬を買いたい衝動に苛まれつつ返答する。



「確かに、珍しいかも知れません。我が国もそろそろ落ち着いてきた頃。近隣の一国として我が主から書簡を預かって参りました。お目だけでも通していただけるとありがたいのですが」


「君の主は壮健にしておられるかな?」

「ええ、おかげさまで。ピンピンしていますよ」

 イザークが全身に鳥肌を立てながら書簡を書いたことは内緒だ。


「それは良かった」
と言いつつ、デュランダルはレイから渡されたイザークの書簡にざっと目を通す。そしてしばらく思案し、宰相であるキリンにいくつか耳打ちした。

 ちなみにこのねっとりした時間がディアッカは嫌いだ。なんだかこの二人、納豆が糸を引くような印象を受けてしまうとはディアッカの個人的な感想だが。傍目から見ると10人のうち7人がこの主従の関係を怪しいと思うだろう。



「考慮いただけるとありがたいのですが、どうですかね。無論、すぐにとは申しませんが」

「ふむ…。我が国の輸入制限については、後ほどこちらで合議させてもらうとしよう。生活保護受給者枠の増加要請は、我が国、貴国、そして傾国の三国が関わること。傾国の意見を聞かねば返答は出来まい」

 相変わらずデュランダルの返答は食えない。ディアッカにはどれもやりたくないと言われているようにしか見えない。


「ですが、我が国もギリギリの枠を取って支給しています。その点については貴国の方がもう少し余裕があるように思われますが?」

 ディアッカの視線がいささか逸れる。今自分がいる宮殿を見るにつけ、もう少し質素な¥国の宮殿とどうしても比べてしまう。
 だが、国家の宮殿たるものには威厳が必要という一見まともそうな意見も少なからずある。
 ま…ぶっちゃけた話、バカにされたくないという気持ちと、もう少し立派な社屋で仕事をしたいと言うだけの話だが。とは言っても実際¥国の宮殿は、数ある国も中でも割と質素な方だ。



「この話、傾国には通してあるのかね?」

「傾国は今ご存じの通りでしょう?主を捜しにアスランの奴が奔走しているのは知ってますが…」

 ディアッカはほんの少し水を向けた。しかし、デュランダルは動じない。

(やっぱり、アンタはタヌキだよ…)



「我が国にとっても傾国は隣国。一日も早く新王が立つことをお祈りしている、と傾国の宰相殿にお伝え願いたい。彼とは仲の良い友人なのだろう?」

「悪友ですがね」
「良いご関係だ」

「俺の国も、傾国に早く新王が立つことを願っていますよ。そうなればこの三国だけを取ってみても経済はかなり良くなるでしょうから」

「賢明な宰相殿だ。¥国の国王殿は羨ましい。貴国がますますのご隆盛を極めることを、祈っていると¥国の主に伝えてくれたまえ」


「伝えましょう。ああ、それとある噂をご存じですか?」

 ディアッカの瞳がやや厳しさを帯びた。

 ここで失敗するわけには行かない。確実に、傾国の行く末はデュランダルとの関係によって左右されると思われた。



「噂とは?」

「傾国の至宝が、傾国と貴国の国境付近に不時着したと……」


「それは本当かね?」

 身を乗り出して少し驚いてみせるデュランダルの態度は、一見全てを心配している目だ。



 傾国の至宝のシグナル消失点は確かに傾国に近い恋う国の国境。そこに止まっていれば出され続けているシグナルは簡単に見つかるはず。

 ところが実際、キリンの(怪しい)勘に引っかからない。引っかかったのはレーダー、それも恋う国の首都メサイア。


 残る可能性は恋う国の宮殿内しか心当たりがなかった。傾国の至宝、そしてひいては新王は必ずや恋う国のメサイア宮殿に囚われている。それが、傾国の重臣たちとイザークやディアッカの結論だ。

 アスラン?あー話がややこしくなるので論外だ。



「傾国国境付近の村人の噂なんですがね。見たこともない立派な妖怪が突然落ちてきたと言ったそうです」

「それはそれは。さぞかし大変だったことだろう。落下地点の被害が少なければよいのだが」

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いいわけ:この辺りはわりとおふざけが少ないのですが、重要な布石ですのでご容赦下さい。
次回予告:神経戦


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