twelve*twelve

<第3章>女王の事情と忍び寄る影


第23話

 

「うう…。やっぱ笑われてる。やっぱさぁ、似合ってないんだよぉコレ」


「いいえ、皆感嘆しているのでございますよ」

「うそっ。嘘だよぉ。絶対違うような気がするよ………。取って付けたような女装だって思ってるんだよ……」

「そんなことはございませんよ」
「わかってるもん。本人には本当のことを言わないって判ってるもん」

 キラの涙声。それさえも周囲には可愛らしい仕草に見えた。


「もっと自信をお持ちになってください。キラさまは本当にお美しくていらっしゃいますので」

 ま…今のキラには何と言われても信じられるはずがない。だってそりゃ本人がいくら鏡を見ても信じられないのだから。





「さ、キラさまこちらへ」

 促されたいすに素直に座る。目の前には朝や昼とは思えないほどの豪華な食事が並んでいた。

「今日はデュランダルさんは来ないの?」

 見渡す限り、キラと女官たちだけのような雰囲気だった。それにしては食事の量が多すぎる。二人か三人分、ということなら理解できるのだが……。


「陛下とバレル宰相は既に公務にお就きでいらっしゃいます」

「そう………なんだ…」


 本当に一国の国王とその腹心なのだと思った。そのことを実感するにつけキラはここが自分の居場所ではないような気がする。
 けれども、あの変態ホモホストから匿ってもらえるのもここだけ←と思いこんでいる。キラの脳内はすごいジレンマに陥っていた。



「冷めないうちにお召し上がりくださいませ」

「あ…うん、ありが……とう…」
 どーん。しかしそれにしても量が多い。そんな、海外からの廉価ツアー客にも国家の威信をかけてまで食べきれない分量の食事を出す中国じゃないんだから!


「せっかくなんだけど、全部は無理だよ…」

 正直に側にいた女官に耳打ちする。女官は嫌な顔一つ見せなかった。


「お望みのものを望まれるだけどうぞ」

「残った分はどうなるの?」

 決してケチくさいわけではないが、それでも気になる目の前の事実。
 気にするな?気になるだろとんでもない分量なのに!だ。


「キラさまがお気にされることはないのですよ」

 その言葉でキラは解ってしまった。<ああ、消費期限切れのコンビニ弁の運命なのだ>と。





 さすがにお腹がすいたので、早速モシャモシャ食べながらキラは再び耳打ちする。

「この国にも貧しい人たちがいるなら、その人たちに分けてあげたい」

「まぁ、キラさまはとてもお優しい方なのですね。畏まりました。そのように取りはからいましょう」


「あ…いや、僕が行きたいんだ」

 すると女官たちは顔を曇らせた。余談だが、この宮殿から出すなと言う命令を受けていることは口が裂けても言えない。

「キラさまはとても尊いご身分のお方なのです。外にお出になれば危ないこともございましょう」


「僕はそんなんじゃないよ。普通の、その辺にいる一般人と一緒。だから大丈夫だよ」

 解らないのも無理はありません。そういうわけには行かない特段の事情が(デュランダルには)あるのです。



「いいえ、キラさまは女王陛下としてお生まれになっておられるのですよ。御身に何かあれば、皆が心配します」

 簡単な話のハズなのに女官たちは引き下がらなかった。





 押し問答の末、キラはある妥協点を見つけた。

1 デュランダルには内緒の話にすること
2 国の貧しい人を毎日10人ずつ呼んでくること

「ここで腐っても意味はないよ。だから僕はそうしたいんだ」

「キラさま。キラさまのお優しさは解りますが……」


 このころにはキラはほとんど食べ終わっている。そして長すぎる押し問答にプチンと切れたのもキラだった。

「じゃぁ僕はここを出るよ。どこか安いとこに泊まってそこから通う。デュランダルさんの知りたい世界の話は知っている限りするから、その代わり情報料として宿代をください」



 現実的(庶民的とも言う)なキラの提案は、女官たちを驚愕させた。そういう発想はなかったのだ。

「女王陛下ご自身がわざわざそのようなことをなさることはないのですよ」

「僕があなた達の言うように貴い身分だったら、そこそこ権力はあるんでしょ?僕のしてる話は不条理なわがままとかじゃないし、叶う話だと思うけど?」


「キラさま……」

「うん、あのね、もったいないって言っているのが判らない?」

 女官たちに向かって真剣なまなざしを崩さないキラ。その彼女に彼女たちは芯のある部分とちょっぴり黒い性格をかいま見た。

 え?黒オーラ?
 少しですがもちろん出ていますとも!



「わ………判りました」

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いいわけ:「もったいないって言ってるんだよ」このセリフが書きたかった回でした。
次回予告:「ぇええッ!!?ボランティア!!!!!」


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