twelve*twelve

<第3章>女王の事情と忍び寄る影


第22話

 

 そう言うとルナマリアはきょとんとし、そしてキラの不安を笑い飛ばした。

「そんな物は必要ありませんよ。キラさまは充分我が国のために尽くしてくださっています」

「え?どうして?」


 いや、そこはキラならずとも不思議に思うところだろう。

「我らの主はキラさまのいた世界のことを知りたいと思し召しです。自国のことだけではなく、こうして他を知る方から世界のことを知るのは、統治者としてとても有用なことだと主は考えていらっしゃいます」

「じゃぁ、僕はデュランダルさんに僕の知ってることを話せばいいの?」

 ルナマリアとメイリンはにっこり笑った。


「キラさまから頂けるお話は、いずれは我が国のためになります」



 この国はキラを匿う。それもセキュリティーのしっかりした宮殿内に匿う。引き替えにキラのいた世界の情報を教えて欲しいという。この国の国民はもとより、国王であるデュランダルでさえあまり行ったり知る機会のない異世界の話を。
 そのことは等価交換になると思われている、とキラは理解した。だからこんなVIP待遇、豪華な施設、そして無賃宿泊なのだと。



「ごめんね。お世話になります」


 キラは彼女たちに頭を下げた。
「とんでもないです。私たちの仕事ですからっ」

 少し慌てるメイリンにも、ちょっとだけ心に余裕を持って対応することが出来た。


「さ、キラさま。お目覚めになりましたらお着替えをなさって、お食事にいたしましょう」





 ………で、話は現実に戻される。

「また着替えるの?」
 キラからしてみれば確かに髪は結ってないし昨日のような豪華な衣装ではないけれど、今のままでもそんなに肌が露出しているわけではなし、そのままふらふら歩けるような気がする。が、女官の立場としてはそういうわけには行かない。

「当然でございます。御髪も結い直さねばなりませんし、それにちゃんとお化粧もしなければ」


 まだ慣れないキラの顔に青い縦筋がいくつも入った。

「げ…。嫌だよ。僕はこのままでも良いや」
などと言ってベッドから起きあがり、二人の女官から逃げ出そうとしてアッサリ捕まった。


「慣れていただかねば困りますよ」

「意地悪〜〜〜っ」
「いいえキラさまw身・だ・し・な・みwwwでございますから」

「その顔、絶対楽しんでるでしょう!」
「だってキラさまはとても奥ゆかしくて可愛くて素敵な方ですもの。女としての最大の楽しみを共有したいのです」


「い…やだっ!そんな………女の子の服なんか恥ずかしいだけだよっ。それに…それにあんなに高価そうなのじゃなくていいっ」

 手を捕まれてのなお逃げ腰になるキラ。それを必死に引き留める女官×2。


「だってキラさまは何を着てもお似合いになりますもの」
「ホラ、だってルナマリアさん顔がにやついてる!」

「キラさま〜。これから一生そのお姿で過ごすのですよ。もうキラさまはお歳を召すことはないのですよ。そこはやはり、オンナノコを最大限楽しまないのは損です」



「な…なんかソレ余計な欲求が入りまくってるよぉ」

 キラの半泣き。ソレすらも女官たちには楽しい<恋の追いかけっこ>だ。


「さっキ〜ラ〜さ〜まぁああ〜〜〜w」

「女装なんてやだ!絶対にヤだぁ……」


「女装ではございませんよ。キラさまはとても美しいお方、きっと何をお召しになってもお似合いになります」

「だからといって性転換したなんて認めるのもやだよぅ」


「キーラーさーまvお衣装を換えて、御髪を結い上げて、宝飾品をお身につけられて、お化粧をして、お爪をきれいにしてマニキュアをお付けするだけですから」


「何その多さ!」



「ほんのちょっと…と申し上げたいところですけど、本当にお似合いになるのですもの。この際ガッチリしっかり堪能させていただきますっw」

 言葉だけ聞いても判る。そうなったら本当に完全な<オンナノコ>だ。



「本人がしなくていいって言ってるのに〜〜〜」

「申し訳ございませんねぇ。強制執行させていただきますwぅふwww」


「ちょ……っ!強制って……ってか最後のうふって!!!!!」


 女官二人によってキラは隣の部屋にズルズルと引きずられていく。ニッコリ笑顔をたたえたルナマリアの「女を満喫しましょ」の一言を最後に、その部屋の扉は閉まった。

 そして時々廊下にかすかに漏れてくるキラの断末魔の叫び声。





 約2時間後、女官二人に手を取られ部屋から出てきたキラの姿は本当に<完璧>だった。

 そのまま廊下を連れられ、別の部屋に入った。そこには大きなテーブルセットが置かれその上には食事が乗せられている。やはり部屋にはルナマリアやメイリン以外の他の女官たちがズラッと並んでいた。
 一体ココはどこの高級ホテルのスイートルームかと思う。女官たちは一旦キラに頭を下げ、そして再び彼女を見ると驚きの表情や微笑んだ表情などがいくつか見られた。

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いいわけ:キラ(♀)を追いかけ回す女の子たちの描写は、いつ書いても楽しいです。
次回予告:消費期限切れのコンビニ弁の運命


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