twelve*twelve

<第1章>傾国の新王


第2話

 

「一体どちらに行ってしまわれたのか…」
「思い込んだら聞きませんからな、うちのイノシシ型暴走キリンは…」
「本当に…困ったものです」


 完全にいなくなったことを確認してささやかれた重臣達の不平や、このときばかりの陰口は、遂にアスランの耳に入ることはなかった。

 その後すぐに重臣たちの議題は、アスランが新たなる王を選んできたときの場合別対策法に変わってゆく。男性の場合、女性の場合、キリン(宰相)の好みの女性の場合、それ以外の場合……。


 異常にバカバカしい話、当の宰相を差し置いて重臣たちはひどく真剣にならねばならない必要があった。





 その頃。アスランは嘘海を超えた別世界にやってきていた。

 自分たちとはまるで違う世界。他国の悪キリン仲間であるディアッカからあらかじめ聞いてはいたが、勝手の違いにさすがにどぎまぎする。だが、一刻も早く新しい国王を見つけ出さねばならない。そして、危険な気配がこちらに向けられていることも、同時に知っていた。


 間違いない、自分の捜している新王(※妙齢美女絶賛希望中)は、近くにいる!
(くそ…っ!今すぐにでもお身柄を確保せねばならないか)

 間違いなく<敵>が近づいてきている。


 その敵から新王(既に彼の中で好みの美女像が出来ている)を守ることが最初の任務かと思うと、アスランはどこもかしこも奮い立っていた。何故かって、自分は主人の危機を救った恩人(←格好いいと思われる特典あり)になるではないか!



となると………。

「こわかったよぉうッ!あすらぁん…。大丈夫!もう大丈夫だから。俺が守ってやるから……うん、ありがとうあすらんだいすきー。俺も大好きだよv…今夜からはずっと一緒に居てよ……ってかぁっwムフフフフフwwwぐへぐへwげへっえへへへへ〜〜〜wwwww」

と、このどうしようもない末期のアホキリンは都合のいい未来予測に、一人芝居付きで勝手に満足しながら、(アスランから見て)邪悪な気配に神経を張りめぐらした。



 視線を遠くにやると、妖怪がこちらに向かってくるのが見える。よく見かけるタイプの<ザク>だ。カラーは緑。大した敵ではないが、生身相手ではかなり分が悪い。
 補足するとアスランの世界では<妖怪>と言うが、こちらの世界では<人型巨大ロボット>という。



(ノゾいt…いやいや違う!機会をうかがっているヒマはない!今すぐにでも、お連れする!)

 どうしても随所に本音が見え隠れするが、余計な妄想をスパッと省けば、今アスランは最高に格好いい正義のヒーローのようだった。





 眼下に、細長い建物とやたらに広い土地が見える。ディアッカからそこが学校だということはあらかじめ聞いていた。イージスを近くの雑木林にすっと着地させ、ラダーを使って降りると非常階段から校舎内に侵入する。

 スーパーモデルかと見まごうほどの長身の美形のいきなりな出現に、周囲の生徒達は自然と距離を保ち、それでもうっとりと見ほれていた。



 校舎内を、欲望(95%)と自分の感覚(3%)だけを頼りにズカズカと歩いてゆく。

 ん?あとの2%は何かって?その2%に世界のこととかいう、かすかにだが一般常識が入っている…というのは傾国の重臣たちの正しい見解だ。



 余談はさておき、立つべき王様はキリンだけが知っている。見たらすぐに判る。以前の時もそうだった。パッと見たとき、どこもかしこも立ちまくって、コーフンしすぎてすぐに鼻血を吹いて倒れたことを覚えている。


 昔話という名の与太話は置いといて、校舎の階段を上り、廊下を小走りに駆け抜け、懐かしい<ある感覚=萌え>を味わう。


(間違いない、ここだ)

 ドキドキと心臓が高鳴る。何といってもこの萌えーッとなる感覚がたまらなく快感だ!位置はもう完璧に判る。くるりときびすを返し休憩時間のため開きっぱなしだったドアから教室内に侵入した。


 辺りを見渡す。目当ての人はすぐに見つかった。………が、



「あれ…?オ、トコ…???」


 目の前に見える違和感(※未だに好みの美少女熱烈希望中)にアスランはのけぞって面食らう。だが、危険な気配も同時に近づいていた。一刻を争う事態に焦りが募る。





 せっかくの(よこしまな)期待が裏切られ内心ショックは激しいものの、この際男でも仕方がないせめて顔かたちが整っているのが不幸中の幸いと思い、関係ない生徒達を無視し、その人の前に跪いた。


「お迎えに上がりました」



 女性達が卒倒するほどの笑顔を彼に向けて言う。

 …んが!アスランの目の前の彼は数瞬固まった後、彼の想像を超えた反応を返した。

「ぅわっ何?この人、キモ〜〜〜」


 目と鼻の先の、鳶色の髪にきれいな紫色の瞳をした、えらく顔立ちの整った男子生徒はアスランのプライドを一刀両断に切って捨てた。


 ナントイウコトだ!

 顔は、顔は女の子みたいでとっても可愛いのに!
 コレで女の子だったらビンゴアスランの好みなのに!

 さらにツンデレなら……以下強制終了。
 この際場所とタイミングの悪さには目をつむる今すぐにでも押し倒して…以下強制終了2回目。





「……………」


 アスランの前で固まらざるを得ない不幸な生徒は二名。キラ・ヤマトとトール・ケーニヒ。
 くどいようだが一応説明がいるだろう、二人は友人同士だフツーーーーの。

 キラは怪訝な表情のまま、たまたま隣にいたトールに視線で同意を求める。こんな、まぁ美形かも知れないがいい年してコスプレした勘違い乱入男に、いきなり現れて目の前で跪かれても、正直困る。
 しかも男に向けられる爽やかな笑みはただただ気持ち悪いだけだ。それが彼とその友人のまっとうな反応だった。

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いいわけ:アスランの性格をちょっぴりいじるだけで、話はこんなにもお笑い路線に(笑)
次回予告:「判ったと、仰ってくださいッ」


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