twelve*twelve

<第3章>女王の事情と忍び寄る影


第19話

 

「僕が、嫌だとわがままを言ったら………どうなるの?」
「私が主君に怒られてしまいます」

 キラの目の前の女官は眉をハの字に曲げて答えた。その彼女の反応を見ると、自分の気持ちのままに嫌だ嫌だとごねるわけにも行かないように思われる。

 女装はしたくない。

 けれど自分がだだをこねたせいで、よく知らないこの人がこっぴどく怒られるのも後味の悪い話だ。


「でも…僕………っ。その…お化粧とかしたことなくって………」


 女官はとても柔らかな笑みをキラに向けた。

「全て私どもにお任せください」





 そうして、1時間半後。
 フルメークされ、新たに髪を結われ、新しい髪飾りと耳飾りを付けられたキラは、女官に付き添われながらその部屋を出た。廊下で待っていた女官たちから感嘆の声が漏れる。

「なんとお美しい」
「とても愛らしいお方ですのね」
「新しい髪飾りもとてもお似合いですわ」

 どれもキラには嬉しくない褒め言葉だった。似合うと言われて悪い気はしないのだが、どうしても頬が引きつったような笑いしかでない。無論女官たちはキラの身体の変化のことなど知らないのだから、悪気は全くないのだ。





 何度か廊下を曲がって通された部屋で、流麗な装飾が施されたいすに座るよう促された。

「あ…あの……っ。僕はこれから……」

 女官は頭を下げた。
「お茶の用意をさせますので、今しばらくお待ちくださいませ。我らの主ももうじきお出ましになります」

 キラの身体に緊張が走った。お茶はどうでもいいが、この後この国の国王とやらがやってくる。これからの自分がどうなるのか、先行きが不透明すぎてキラはとてつもなく不安になった。その女官が扉の外で待っていた女官の元へ歩いてゆき、彼女になにがしか耳打ちし、再びキラの斜め後ろに立つ。

 全てが既に予定されているようで、キラは何も言葉が出てこなかった。





 しばらくすると別の女官が入ってきて、テーブルにお茶の用意をしてゆく。湯飲みに温かいお茶を注がれ、キラの目の前に差し出された。

「お口に合えばよいのですが…」


 キラは慌てて手を振る。

「あ…っいえ!すみません」
「ご安心くださいませ女王陛下。我らの主もまたこの国を統べるお方。あなた様とは同等のお立場でございます」

「あ………ぇ、と………」


 そう言われても正直困る。キラには初めてのことだらけで、もう既にかなり疲れているというのに。



 そして出されたお茶に僅かに口を付けたところで、辺りが騒がしくなり、男性が二人部屋に入ってきた。

 一人は昼間見た金髪の少年、そしてもう一人は豊かな黒髪を備えた大柄の男性だった。パッと見、30代後半ぐらいに見える。

「初めまして。傾国女王陛下」


 一斉に女官たちが頭を下げる。黒髪の男性はキラをまっすぐ見据えて、やはり女王と呼ぶ。状況からして、どう判断しても自分のことを言われてるのだと、キラは自覚せざるを得なかった。


「あっ。そ………その……」


 おたおたする。女の子だということも認めたくないし、まず王様扱いされるのも場違いな気がする。そんなキラに豪奢な衣装をまとった黒髪の男性は、ひたすらに柔らかい笑みを向けた。

「ああ、自己紹介がまだだったね。私の名はギルバート・デュランダル。そして彼の名はレイ・ザ・バレル。私の腹心だ」

「き………キラです。キラ・ヤマト…」


「何と、この度の女王殿はとても可愛らしいお方だ」

 何度も繰り返された賛辞。だがキラは居たたまれなかった。



「あのっ違うんです!僕は女の子なんかじゃないんです!僕は、僕は確かに男だったんです!信じられないかも知れませんけど、ちゃんと…男だったんです」


 デュランダルはキラの言葉をじっと聞いている。

「けど、いきなり僕の前に現れた変態が僕を誘拐して……、ヘンなメカに乗せられてこんなトコに連れてこられて……」

 変態はアスランのことだ。変なメカとは傾国の至宝ストライクフリーダムを指す。



「どんなマジックか判りませんけど、僕はこんな身体になってて……。もうたくさんです。僕は、もといたとこに戻りたいんです。デュランダルさん、何かご存じではありませんか?」


 デュランダルは、なるほど、と言ってあごに指を当て考え込む風をした。


「戻れるんですか?あなたは、方法を知っているんですか?」

 キラは前のめりになってデュランダルの返答に期待した。だが。



「残念だが、戻れる方法はないわけではないが、かなり難しいだろう」
「何故ですっ!」

「戻るには、この世界を統べる女帝の許可が必要だ。だが、君の置かれた立場が悪い。彼女の許可を取るのは不可能に近い」

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いいわけ:主要登場人物としてデュランダルのせりふを考えたのは、初めてかも知れません。
次回予告:「下げました。膝をついて……僕をモノにするって………」


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