twelve*twelve

<第3章>女王の事情と忍び寄る影


第18話

 

 キラは既に半泣き状態だった。その状態であろうと、職務に忠実な女官たちは追い打ちをかける。

「私どももおります故、殿方のお目に入りはしません。どうぞご安心ください」



 安心どころの騒ぎではない。

 男として生を受けたはずだったのに、ここに連れてこられてみればいきなりな身体の女性化。
 さらには来て間もないのに、湯浴みという名目によって女性たちによってたかって脱がされるのだ。そして、断末魔の叫び声を挙げながら身ぐるみ剥がされたキラは涙をぼろぼろと流しながらも、浴場に付き添われていった。





 女官が扉を開けると、そこはプール並みの広さを持つ巨大な浴場があった。

「ここ…」

 豪華な作り、巨大な温泉。見渡す限りここに入るのはキラだけのようだ。キラの入浴のためだけに整えられた場所、そして女官たち。


「我が国が誇る最高の温泉でございます」
「温泉……なの?あの…っ入っていい?」

 一応聞くと女官たちは笑顔でどうぞと言ってキラのために道を開けた。


 キラはあまりの恥ずかしさにダッシュで温泉の中にざぶんと入り、瞬く間に首まで浸かった。幸い乳白色をしているお湯がキラの身体をほぼ隠してしまう。

「まぁ、女王陛下は奥ゆかしいお方ですわ」
「なんてお可愛らしい」

 そう言いながらもその場で待機し微笑み続ける女官たち。キラは当初、自分をここへ案内したら彼女たちは出ていくものだと思っていた。しかし、現実はそう上手くはいかない。


「あっあ………あの…っ。しばらくしたら出ますから………その……」

「はい。お待ち申し上げておりますので、ごゆっくり温泉をご堪能くださいませ」


 そういう意味ではない。キラはこの浴場から出ていってくれと言ったのだ。だが、彼女たちは一言でキラのかすかな希望を切り捨てた。

「キラ女王陛下、陛下のお手伝いをすることが我らの職責でございます」


「そんなぁ………」



「陛下にはただ、そのお美しいお身体を我らに預けていただくだけでよいのです」


 ち〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。



 そこには嫌も応も無かった。この後キラは羞恥心に顔を真っ赤に染めながら、半泣き状態で耐えた。耐えきった。女官たちはと言うと口々にキラの身体の素晴らしさを褒めながら、てきぱきと職務をこなしてゆく。

 結局、クリーム状に泡立てられた石鹸で隅々まで洗われ、基礎化粧品や肌をなめらかにする美容液などを塗りたくられ、エステのようなマッサージを受け、丁寧に水気をふき取って新しい衣装に着替えさせられるまで苦行は続いた。


(ご………拷問だ。新手の拷問だよ……)



 今や一刻も早く逃げ出したい。だが、そうは言っても逃げる先などあろうハズもなく、ましてやあの宵闇の髪を持つ変態の元になど行きたくもない。キラのジレンマはまだ続く。





「さ、キラさま、こちらのお部屋へ」

 促されるまま次の部屋に入ると、予感通りそこはドレッサールームだった。そこではまた新しい女官たちが待ちかまえていた。


「ようこそ、女王陛下」

「うう………」


 次々と新しい女官たちがキラの目の前に現れる。
 もはやいちいち自分は男の筈だった、とか、女王と呼ばないでくれとか言う気も失せ、キラは呼ばれるがままになっている。


 そして女官たちが示す手のひらの先にある一つのいす。それに座れと言われているのは判りきっているので、キラは何の抵抗もなくそのいすに座った。
 座ると目の前の大きな鏡に映し出された自分の姿をいやでも認識せざるを得ない。


「女の………子………?」



 そこには自分の筈なのに自分とは到底思えないような美少女の姿があった。


「今度の女王陛下はお若く、お美しくていらっしゃいますのね。お肌などもとてもなめらかで素敵でいらっしゃいます」

 それは、温泉に入り散々クリームを塗りたくられたせいだとキラは思う。自分は男だと信じて生きてきたのだ。肌をはじめ美容など気にしたこともない。



「それは………」

 どう答えていいか判らず言いよどむ。


「お胸もとても柔らかくていらっしゃいますね。まるで真綿のようだと皆が褒めておりますのも判ります」

「ぅ……………ぇと………ぉ……」



 そんなこと言われても嬉しくない。女の子のようなふくらんだ胸(いやじっさい女の子なのだが)はキラにとって恥ずかしいだけだ。胸をきれいにするマッサージとか何とかで先ほども散々触られ(まくっ)たばかりだ。



「こ…これ以上、身体を触られるのは………ちょっと……」


 困る、と言って女官の顔をのぞくと、彼女は少し残念そうに顔だけに触れると答えた。

「このままでも充分お美しいですが、お化粧をいたしましょうね」


「えぇえ〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!?」



「女王陛下、身だしなみでございますよ」


 それではまるっきり女装じゃないか、とキラは思う。女の子になってしまった自分の現実は、事実であっても受け入れたくなかった。

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いいわけ:ごめん。これだから♂→♀はやめられない……。
次回予告:湯上がりホカホカキラの元にワカメがやってくる。


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