twelve*twelve
<第2章>隙だらけの奪還計画
第11話
「なんでみんな信じてくれないんだっ」 何でかって? そりゃこのめちゃくちゃ(下半身の)欲望に忠実な思考回路のせいだ。 「ほら。泣く暇があったら新王奪還のために動きますよ」 残念ながらアスランの存在がこの奪還計画には不可欠なのだ。なぜならば未だ、新王の姿を見た重臣は一人もいない。 つまり奪還先で、アスランの判断のみに頼らなければならないという、非常に困った問題を抱えているからだ。 しかも、当のアスランの反応から簡単に察するに、新王は妙齢美人女性だと思われる最悪なことに。 きっと彼女の姿を見つけたとたんこのアホは速攻で彼女にダイブするだろう。奪還が完全に終わっておらず、そこはいわば敵地のど真ん中だというのに、ほぼ間違いなく彼は本来の目的を完全に忘れる。 アスランが主君を見つけて、彼女に迷惑なダイブをするまでのほんの数瞬の間に、今度は自国の変態キリンから女王陛下を救出し(一応キリンの首根っこもひっつかんで)本国に帰ってこなければならないのだ。 ハッキリ言って異常に頭の痛い大問題だ! このキリンの現実は重臣たちに「果たしてそれが可能か?」ということと「やらなければ国もろとも自滅」という事実を突きつける。 「何が何でも成功させねばならんのだ!」 「そうだ!俺のキラちゃんのためにもっ」 「とにかく新王政権の樹立は国家の急務である!」 「そして末永く俺と愛をはぐくむんだっ」 うるさく口を挟む邪魔者を完全に無視して、計画は進行する。 ¥国に行く重臣を選び、大急ぎで支度をし、明日の朝イチで援助申し入れのために出発することになった。 「一時です。一時辛抱いただければ、新王奪還のために我々は動き出せます」 それでもアスランの暴走を防ぐため釘を差しておくことも忘れない。 「今回重視するのは確実性です。その為にもくれぐれも慎重を期してください」 「わ…判ってる…」 「我らが新王とこの国のためですぞ」 その言葉はすなおにアスランの心の奥に響いた。 「う…うん。キラのため。キラのためなんだな」 ブツブツ繰り返しながら自室に戻るキリンを見送り、重臣たちはとりあえずホッとため息をついた。 ¥国に援助を申し入れるために行く道中必要なものの用意と、そのまま恋う国に潜入し新王奪還計画の実行に必要なものの準備を、必要以上に周到にしておかなければならない。 敵は2方向。国王デュランダルとそのキリン、レイ・ザ・バレルと、自らのキリン、アスラン・ザラだ。 「いいか、ぬかりの無いように準備するんだ」 「承知いたしております」 「食料、水、金、着替え、馬車、新王陛下のお着替え、イザーク陛下への書簡…」 重臣は一つ一つ挙げては確認に余念がない。 「そうだ、いざというときの捕縛縄と猿ぐつわも忘れるな」 「おお!そうじゃった。いかんいかんすぐに用意させる」 幸か不幸か、この重臣たちの会話をアスランは聞くことはなかった。 その頃彼は何をしていたかというと、想像に難くないだろう。本人には失礼かも知れないが、どうせくだらないことなので割愛…いや全く惜しくないから気持ちがいいぐらいに却下しておく。 そして翌日、アスランと重臣たちの一行は隣の国である¥国へ向かった。 首都に着き国王への謁見を許された頃には、どういう訳か重臣たちは疲弊し、アスランはたんこぶを全身に生やしたまま伸びて意識を失っていた。そのことをまず国王イザークが呆れつつも(重臣の方を)ねぎらったのは言うまでもない。 「イザーク!」 「お前は黙ってろ!」 アスランの絶叫も、この場ではさすがに地位の上下関係にうまく押さえられてしまう。 くそ…イザークのやつめ……などとつぶやいたアスランの声はしっかりばっちり聞こえていたらしく、すぐさまイザークによって怒鳴り返された。 「お前は協力して欲しいのか欲しくないのか!」 「一人でも出来る!だが、こいつらが聞かなくて……」 「このおばか一人に何が出来ると言うんだ。出来るのは新たな女ぐらいだろう」 「失礼なことを言うな!」 「お前な、取り戻そうとしてるのはお前らの新たな王ではないのか?失敗したくないから俺のところへ助力を求めてきたのではないか?」 冷静沈着なイザークにすぐさま傾国の重臣は反応した。一人はイザークに頭を下げ、当たり前の話だが丁寧な言いまわしで非礼をわび、助力を請う。その他の者はまたしてもよってたかってアホキリンを殴り飛ばした。 「大変だな、とことんお馬鹿なキリンを持つと…」 「馬鹿にするな!」 「馬鹿だから馬鹿というのが判らんか!今自分に置かれた状況をよく考えて見ろ!」 更に言い返そうとしたアスランを、傾国の重臣は本気モードで止めにかかる。どう考えても目先の感情に左右され、既に本来の目的を完全に忘れているようだった。 |
いいわけ:ディアッカをキリンにすることが先に決まっていた為、当然主君はイザークに。
次回予告:「誰か!この変態キリンを叩き出せ!」
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