twelve*twelve

<第2章>隙だらけの奪還計画


第10話

 

 この世界の基本設定その2。国同士の戦争は厳禁らしい。12の国と12のキリンを統べる女帝が決めたことは絶対だった。

 その女帝曰く

「男はすぐに戦闘ばかり考える。その前にちゃんと話し合え!戦争は家計を火の車にさせるんだ!お前らは家庭で主婦がどれだけ苦労してやりくりしてるか判っているのか!女性に優しさを!主婦にボーナスを!!」

だそうだ。





 余談はさておき、重臣たちは真剣に会議を続けた。

 結果、<戦うことは出来ない。けれど人捜しならOKだろう>


 有能な重臣たちで導き出した苦肉の策がそれだった。自国の重臣たちやアスランが真正面から乗り込んでは、警戒され話がややこしくなる。いや現実にアスランを止める人が全くいなくなるという重大問題もありはするのだが、それはこの際おいといて、だ。



 現に、勝てる気が全くしないため、比較的富んでいる隣国に協力を仰ごうという話になった。
 女王奪還計画に失敗は許されないのだ。その為にキリンを連れ、隣国に援助の申し入れに行かせる。

 くどいようだがキリンに選択の余地はすでにない、現実問題キリンに任せていては亡国一直線は見え見えのため、重臣たちは予め国王不在の間にアスランから着実に権力を奪っていっていたのだ。



 幸い、隣国のキリン・ディアッカとアスランは個人的に仲がいい。今回ばかりはアスランを縛り付けておくわけにもいかない理由がそれだった。
 こんなんでも、機嫌を損ねるとやっかいだ、という重臣たちの本音が今回結果的に彼を縛り付けなかった。





「………というわけで、万全を期すため、この際体裁を捨てて隣国に援助を申し入れる」

「えー…」
 不満げなアスランを重臣たちは完全に視界の外へ追いやる。いちいち聞いていては話が面倒になるだけだ。



「この際私的でくだらない子供のけんかによる無用な逆恨みなど、すっかり忘れていただきます」
「……………。その表現にあからさまな悪意を感じる!」


「その通りでしょう?」
「私的とは何だ!くだらないとは何だ!それに子供のけんかじゃないし、俺ってすでにかっちょいいモテ男だし、逆恨みなんかじゃないっ!全部イザークが悪いんだぁ」

 アスランの言うイザークは隣国¥国を治める有能な国王(♂)だ。



「結局逆恨みなのですな」
「違う!」

「じゃ、言いがかりか…」

「違う!違う違うっ!何で誰も俺の言うこと聞いてくれないんだ!うそなんか言ってない!本当の話なんだ」

 アスランは子供のようにだだをこねる。だから、子供じみたくだらないけんかで一方的に根に持っている、と評されるのだが彼だけがそのことに気づいていない。いや、気づいているようならとっくに止めている。



「ぐす…ひぐぅ………。キラ…きらぁ。こんな傷心の俺を慰めてくれるのはキラだけだ」

 そして、ぐずぐずと泣き出した。


「はいはい。その新王陛下の救出のために、今から援助を申し入れに行くのですぞ」
「ヤだ…。イザークなんか嫌いだもん。アイツなんか頼らなくてもいいもん…」

 重臣は呆れ、同時に頭をフル回転させた。
 国王不在の間もこの国で長く国政を行っていた重臣たちだ。馬鹿ではつとまらない。ましてやアスランが全く使い物にならない以上、現にいる重臣たちの肩に掛かるものはそれほどに大きかったのだ。


「彼に頼まなければディアッカ様の外出許可は出ませんぞ」

「んなこと判ってる…」


 ディアッカは¥国のキリンだ。国王イザークにのみ仕える身。最終的にはイザークの許可が出なければ、動くに動けない。


「この国のためにも、新しき主君は必ずや戴かねばなりません。今回ばかりは失敗は許されないのですぞ。あのデュランダルめに一生監禁でもされてしまったらどうするのです?」

 重臣の誘導にアスランは簡単に引っかかる。彼ははたと泣くのを止め、泣きはらした顔のまま重臣たちの顔を見上げた。
 一応は美形ではあっても、大の男が涙を潤ませて目を真っ赤にさせ、不安そうに見つめるその顔は情けないったらありゃしなかった。



「やだ!そんなのゼッタイやだ!キラは…キラはっ何も知らないままあの変態ワカメ男の毒牙にかかって…苦しんで苦しんで俺の名を呼ぶんだ。でも、閉じこめられたまま出してもらえなくって……ぐじゅ……ずっと助けを求めて泣き叫びながら一生を終えるんだきっと……」

 いったいどこをどうすればそういう発想になるのか皆目見当も付かないが、アスランの自分にとって都合の良すぎる萌え系妄想は止まるところを知らない。


「でも、俺の名を呼べばまたひどい目に遭って………、けどっあの儚い華奢な身体で俺のことを想い続けながら絶望の中でずっと俺の助けだけを求め続けて……………」



 ばちこーーーん☆
 ドガ!
 ばこん!
 ドガガガッ!!!

 パコッ☆



 ご丁寧にも判りやすい演技付きで妄想を具現化してくれるこのアホキリンに、早くも重臣たちはブチ切れた。


 この偏った一人劇場、見るに耐えない。


「やめんか!気持ち悪い」
「嘘じゃないんだ」


「ああ、嘘なんかじゃないだろうよ。お前さんの妄想の中でだけはな!」

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いいわけ:¥国のキリン(ディアッカ)が動く為の、外堀を埋めたつもりです。
次回予告:能力と脳内構造は別物です。


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