Please sit my side.

 

第6話 (イザーク…お前が一番エライかもしんねぇ……)



「なァアスラン…お前よくそれで手元が狂わねぇなぁ」


 ディアッカが隣で頭を抱えている。


 今、アスランは体からハートと花を飛ばしまくりながら、異常に上機嫌で、急患の対処に当たっていた。

 絶え間なく聞こえるへたくそな鼻歌が、やたら耳についてはなれない。





「ん〜〜〜?大丈夫!今夜は力が湧いてくるんだ」

「……………。沸いてんのはお前の頭だろうがよ…」



「何とでも言え!俺は今最高に幸せなんだv」



「彼氏でもできたのか?」

「バカ言え!俺がオトコなんかにときめくか!」


「女か…」



「お前には秘密!口の軽い男なんて嫌いだ」


「ハイハイ…。で、誰?どんな子?この変態の心を受け止めた心の広〜い女の子って」


「笑顔が…微笑むと花が飛ぶようで、むちゃくちゃ可愛いんだ……って、お前には教えないぞ!どうせ、茶化すか言いふらして楽しむしかしないからな!」





 事彼女の話に限って、今回のアスランは口が堅かった。どうやらよほど大事らしい…と、ディアッカはその「彼女」に心底同情した。


 今自分の目の前にいるのは、いつものクールでかっこいい、優秀な医師とは天と地ほどにかけ離れている。

 女にうつつを抜かした、ちょいと思考回路のオカシイ変態だ。この現実を…残念ながら彼女は知らないんだろうな……。





「ほどほどにしとけよ、変態」


「人の恋路に口を挟むな!妬いてるようにしか見えないぞディアッカ。そんなにうらやましいなら、お前もはやく可愛い子をだな……」



「あ〜〜ご心配なく!俺…居るから」

「何?そうだったか?さすがにエロドクターは手が早いなぁ」



「変態はお前だろうが!鏡でも見てみろよ。それに脳外科なんかよりも内科のほうが忙しくないんだ。少なくともお前よりはチャンスは多いってこと」

「そっか」



「しっかし、よくお前見つけられる暇あったなぁ。今までどんな看護師から告られても、興味なさそうに断ってたから、てっきり俺はそっち系かと思ってたんだけど?」


「激務の中にも幸運はあるってことだよv神は俺を見捨ててなかった。これだけ働いてるんだ、ちょっとは評価してくれて、幸せをまとめてくれたっていいはずだ」



「……………………」





「さぁて〜止血止血ぅ〜v」


 もはや言葉は出てこなかった。


 あのイザークがあれから気持ち悪がって、近寄りもしないのがよく分かった。どうしてもアスランに連絡しなければならないときは、顔も見えなければ声も聞こえない「電子メール」だ。



(イザーク…お前が一番エライかもしんねぇ……)



 ディアッカは笑いながら涙する。そして目の前の変態はというと…、

「そうか!ディアッカ、お前も俺の幸せを喜んでくれるか!ありがとう!持つべきものは、やっぱ信頼できる友人だ」


 すっかり舞い上がって、周りがまったく見えていなかった。


 なのに彼の手は、驚くほど正確に患者の処置を行ってゆく。これもその彼女のせいなのだろうが……それにしても。

 彼女がこんな姿を見ることがないのは、幸運なのかはたまた悲運なのか。ディアッカはにわかに判断しかねていた。



 そして、一人、また一人と確実かつ正確に診察・処置を行い次々と看護師に指示を出してゆく。

 受ける看護師のほうは、普段感情を表に出すことのほとんどないザラ医師が、にこにこ顔でデータを渡し指示を出してゆくものだから、少し警戒する者、まともに見てしまって舞い上がる者、そしてその滅多にない笑顔にノックダウンされる者ありで、半数以上が仕事にならなかったという。



「あ〜君、点滴の前にバイタル・チェックをちゃんとして!」


 こんなとき、後始末はすべてディアッカだ。アスランは看護師の失態にさして気づいていないし、処置に忙しい。

 それにアスランが指示を出しても、看護師が舞い上がってしまって、逆に役に立たない場合も多かった。



「はぁい!すみません〜〜」


「あっこら!その患者に昇圧剤使うなって!待ってりゃ自然に上がるんだから!それと、次の患者受け入れて!B型の輸血まだぁ?え?そうそう!後2000cc追加!それと君!そこの患者は応急処置終わったから、とりあえず病室へ搬送して経過観察!そこの君は点滴の予備持ってきて、ステーションで交代してッ」





「あぁ〜〜〜、今日のザラ先生チョーかっこいい〜もー鼻血出そ〜〜〜」

「帰れ!」



「あ〜もうっ!この忙しいのにアスランが言ったんじゃ役に立たないし…君ッ婦長呼んできてっ」

「はぁい〜」



 そしてその看護師の呼んできた婦長にディアッカは何がしか吹き込むと、婦長はそこにいた看護し全員に呼集をかけて、一時的に救急救命室は医師のみになった。





「あれ?誰もいなくなった」


「お前のせいだろうがよ!アスラン」

「何で?」



 この期に及んでアスランは目が点だ。


「お前が…幸せなのは分かるが、にこにこして話しかけるもんだから、ヤツらモーションだと勘違いしてんだよ。おかげで仕事になんねぇから、今婦長に怒ってもらってんだ!」



「俺には愛する相手がいるんだぞ!」

「そんなことあいつらに通用するかよ!もちょっと顔引き締めて仕事しろ!」


「仕事はちゃんとがんばってるだろ!」



「鼻の下伸ばすなってこったよ!このままじゃ看護師のほとんどが、お前への恋心に倒れちまう」


「何なんだ?そりゃ…」



「お前がその気でなくても相手は違うんだよ。いい加減気づけよ…」

「知ったことか!」





 ディアッカは天を仰ぐ。元凶に、自覚する気はまったくなかった。


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言い訳v:アスラン&ディアッカ漫才コンビは、単純に書いてて楽しいです。

次回予告:アスラン地獄編(←?)で、腐れ縁ラスティの部屋に駆け込み、じめじめじめじめ……。コメディ路線は外せないファクターですな…(笑)

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