Please sit my side.

 

第5話 「ぼ…っ僕も……アスランのこと、ちゃんと……好き…だからねっ」



「ザラ先生…」

「あ…また先生に戻っちゃった……」



「そんなこと言ったって…」


 キラは躊躇する。

 どうして出会ったばかりのアスランが、自分にこんなにも熱心にアプローチしてくるのか、一目ぼれ程度で見ず知らずの自分に、熱を上げているとは思えなかった。



(からかわれてるんだ…絶対……)



「直感で決めたらだめなの?エミリア」


「先生…」



「人の脳のね、一番すばらしい機能は直感なんだ」



「………………」



「人はね、成長して理屈で考えるようになっても、言動の根幹とか、とっさの判断とかいった場合には直感が大きなファクターを占めるんだ。そしてそれは往々にして正しい」


「ザラ先生…」



「エミリア、ちゃんとファースト・ネームで呼んで」

「アスラン…」


「エミリアに呼ばれるとね、すっごくこう…ぞくっとくるんだ」



 それでも…と、キラは思う。一時の熱心さに流されてはいけないのではないかと。



「先生は…それでいいかも知んないけど、周りが……そう簡単にいかないよ。だって、僕は今自分のことさえ分かんないのに。先…アスランだって不安でしょ?だから…」





 一瞬、アスランの顔が厳しくなった。


「身元が…分かんないから、それだけでだめなの?何がだめなの?エミリア」



「アスラン…」


「本名が判っていないと、キスもできない?違うだろう?俺がエミリアを好きなことと、エミリアの身元が分かることとは別次元のはずだ」





 言われるとおり、それは確かに別次元の話だ。しかし、人々はそこのところを一緒くたに受け取ってしまう。



「正直に答えて。俺とキスしたとき、気持ち悪かった?いやな感じがした?」


 キラは考え込む。今自分が気にしてるのは、いわゆる世間体といわれるものばかりなことに。



「そんな感じは…しなかったです、けど…」

「じゃぁ、大丈夫だね」



「あ…あの時は、いきなりで…僕とってもふわふわしてて…何がなんだか分かんなくって……」

「ドキドキした?じゃなきゃ、次に俺に会ったとき、血圧も心拍数もあんなに上がらないよね?」



 バレてる…全部バレてる、とキラは思った。とにかくそんなことも含めて、全部数値になって証明されているものだから、どうしようもない。


「……………」

「だって、体の機能は一般人のそれだし、免疫障害とか遺伝的虚弱があるわけじゃない。血液検査の結果はまったく問題がないんだ。後考えられるのは……」


「そ…っそれ以上言わないでよぉ」



「俺と同じ気持ちでよかった。すごく嬉しいんだ。だから、このまま俺の申し出を受けて付き合ってv」





 病院の屋上庭園の隅。ちょうど誰の目にも触れない場所で、二人の唇はゆっくりと深く重ねられていった。


 自信満々のアスランは、キラと遠慮なく舌を絡ませてゆく。その度に意識を飛ばしそうになるキラを、上手に誘導しながら、水の漏れるようなあえかな音がそこでしばらく続いた。



「……ふ、ぁ………っ」


 キラはくたりとなったまま、真っ赤になってアスランを見上げることしかできなかった。



「ごちそうさまvエミリア。すっごく気持ちよかったv」

「なっ何言って………」


「今夜もがんばって仕事して、またエミリアのところに来るからね〜」



「アスラン〜〜〜」


「それまで浮気なんてするなよ。俺…すっごく落ち込むから」

「…………っ!し…しないよッ」



 アスランは、感極まり、ガバッとキラの体を抱きこみ名残を惜しむ。

「可愛いvエミリア、すっごく可愛いっ!一日でも早く怪我を治そうねっ」


「ぇ…あ、ぅん……」



「ね、エミリア。俺、夜勤の前に、エミリアの口から俺のこと好きだって言葉、聞きたい…」

「ぇ…?」


「よく考えたら一度も聞いてないし」

「アスラン…」



「言って?」



「う…ん、ぼ…っ僕も……アスランのこと、ちゃんと……好き…だからねっ」





 ふと見ると、アスランはキラの目の前で舞い上がっていた。頬をこれでもかと言うほど真っ赤に染めて、なぜか彼は涙を流しながら喜んでいた。



「アスラン?アスラ〜ン?」


「ごめん!俺…がんばるからね!エミリアのために、夜勤がんばる!」


「それはいいけど、手元がぶれてほかの人に迷惑かかんないようにね」



「まっかせてv」





 そうして日も沈みかけたころ、彼は今夜の夜勤の準備のため、キラを部屋に戻し、鼻の下を伸ばして、軽やかなステップでスキップしながらキラの目の前から消えた。





「雰囲気に流されて、とんでもないこと約束しちゃったけど…あの調子で、だっ大丈夫かなぁ?」


 出会ってすぐに好きだといわれ、キラの返事を待つことなくキスをされ…断ったら世界の終わりが見えてきそうな雰囲気だったので、お付き合いの話を承諾した。


 でも、これでよかったのだろうかと自問自答せずにはいられない。



 確かに看護師のウワサどおり、若くてかっこよくて前途の有望なエリート医師だ。将来のことを考えたら、どこの馬の骨ともわからない自分なんかより、もっとふさわしい人がいるだろうに。

 なぜか彼は自分を選んで大層満足していた。



(こ、これって…やっぱ遊ばれてるのかなぁ?一時の熱みたいなもんなのかなぁ?)



 でもそれにしては、異常な執着ぶりだし、事あるごとにキスをしてはひどくご満悦だ。



「キ…っキス……ッ!しちゃったんだよね、僕。僕だって出会ったばっかなのに…その、もう2回も……」

 そう!それも映画やドラマなんかでやってるような、濃厚なアレを……。



(やっぱダメだよ。一時の熱に浮かされてるようなもんだよね。でも…アスランあんな調子なのに、どうやって断ったらいいんだろ…)


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言い訳v:『種』初期のキラを思い出します。アスランはいつものように自分に泥酔中(脂汗)

次回予告:救急救命室にて。アスランの壊れっぷりにディアッカが割を食う。コメディ満載の一品。

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