Please sit my side.

 

第4話 「俺がどれだけ好きかってこと、今から証明してあげようか?」



「こ…困りますっ」

 キラは反射的に言葉を発していた。



「あ…ごめん。好みじゃなかった?いきなりすぎたかな?」


 そんなことじゃない、とキラはぼんやり思う。



「だっ…だって…先生みたいな人には、その…もっと、僕なんかよりも賢くてきれいな人とかいるだろうし…僕…未だに自分のことすら思い出せないし、きっと迷惑がかかると思うんです」


「エミリア…そんなことないよ。一目ぼれって、いうのかな?とにかく俺、君と離れると辛くって…」



 このとき、なぜかアスランは諦めが悪かった。

 あせっている、とでも言おうか?表情などからある種の必死ささえ感じられる。そんな彼を見て、これは一時的な気の迷いかもしれないということに思い至っていた。


 きっと彼はそのうち自分に幻滅するかもしれない。そのときになって、果たして自分は笑顔で別れられるだろうか?


 相手は若くて優秀で、前途がとても有望な医師で、学歴も容姿もほぼパーフェクト。そんな人と自分はつり合うのか?



 キラの頭の中でどう計算しても、その答えはNOだった。





「ほら、他にきれいな女医さんとか、看護師さんとかいっぱいいるじゃない?無理に僕でなくったって……」



「美人で頭がいいということと、俺個人の好みとは違うよ」

「でも…みんな言ってるもん。ザラ先生はアイドルだって」



 このときキラは「はとに豆鉄砲」の典型例を間近で見たと感じた。


「そんなこと気にしてたの?関係ないじゃないか、プライベートな領域には」



「でもここ病院だし、アスランは僕の担当医ってことになってるし」


「俺夕方6時まで一般人v」

「え?」


「勤務時間の関係で、10時間ほど休みがあるんだ。でもこんな短い間じゃ自宅になんて帰れないから、ここでウロウロしてる。という訳で、今はエミリアに交際を申し込みに来た男だから」





 確かに血圧計と聴診器を持ってはいるものの、今のアスランは白衣を着ていなかった。

「でも……」


「ま…敷地内での散歩なんかは、思いっきり主治医特権だけどね。…ってことだから、約束どおり1時間ほど部屋の外に出ない?どうせ骨折だけだから、感染症とかの心配もないわけだしv」



 主治医は自分だ。人これを職権乱用という。





「ぅ、ん…でも僕まだ歩けないよ?」

「大丈夫!そんなこともあろうかとほら、ちゃんと車椅子に乗せてあげるからv」


 そういう手がある!とキラは単純に感動した。

 そうだ、ここは病院な訳だからそういうものも全部そろってるよね!



 ところが、いざその段になって、キラは重大なことを見落としていた自分に気づくはめになる。





「ほら大丈夫だから、ちゃんと首筋に深く腕を回して、俺にすがるようにして」

 一度抱いてもらわないことには、「乗り降り」ができない事に。

 アスランはこの方が楽だというし、確かにそうなんだろうけれど……昼時の看護師姉妹の会話を聞いているキラには、さすがに躊躇する部分があった。



「こんなとこ見られたら…」


 アスランは小さく首をかしげ、そして自信たっぷりに宣言した。

「俺は、そのほうがいいなぁ。こんな可愛い子と付き合ってるなんて…って、羨ましがらせたいな〜」





 今のキラには、アスランの考えていることが、どこか世間からずれているように感じられた。


 こんな、いきなり交際を申し込まれても、嬉しいとかそんなよりも戸惑ってしまって、ちょっとどうしたらいいか分らなかった。確かに自分には分に過ぎる相手だとは思うけれど…。



 しかしもはや自分の目の前で、恍惚として語るアスランにかけられる言葉など誰も持ち得なかった。





「あのねアスラン…ここではちゃんと先生と患者ってこと守っとかなきゃ、その…いろいろとマズいんじゃない?だから、他の誰かがいるときは、普通にしててくれるなら…」

 キラの提示した条件。嫌がって駄々をこねるかと思いきや、意外にもアスランは即答で承諾した。しかもその理由ときたら…。



「二人っきりの時間を作ればいいんだね?がんばって仕事片付けて、ここに来るからね〜v」



 楽しみが増えた、程度にしかアスランは感じていないのだろう。彼の思考回路に唖然となっているうちに、ひょいと抱えられてさっさと車椅子に座らされ、風のような勢いで部屋を後にすることになった。





 エレベータで上階に上がり、着いた先は病院の屋上庭園。そこには人々の気持ちを癒すように、淡い色合いの花ばかりが植えられていた。



「こんなとこ、あったんだ」


「うん。俺もめったに来ないんだけどね。管理人にこき使われるから」

「なんて?」



「暇なら水遣りでも手伝ってくれって」

「ここの先生なのに?」

「一職員ですから」


 今度はキラがぷっと吹き出した。



「そんなことあるんだ…」

「今日はエミリアを連れて来てるからね!暇だとは言われないしv」

 ああ、そういうこと!とキラは納得した。ホッと一安心したところに、またもや予期せぬ言葉が降ってくる。



「ここでならエミリアの望みどおり、誰にも知られずにデートができるしv」


「え”?」


「だからデートvあ…もしかして今でも冗談だって思ってる?」

「うん」



 このときキラは、本当に素直に真顔で頷いてしまった。急にしょぼんとなったアスランの表情に、正直あわてた。



「今でも、その…嘘だと…夢を見てるんじゃないかと、思って…」

「俺、すごい本気」

「ふぇ?」



「これが夢じゃないってこと…俺がどれだけエミリアのこと好きかってこと、今から証明してあげようか?」


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言い訳v:走り出したら止まらない……変革…じゃない、暴走の序曲………(しぃ〜ん…)

次回予告:アスラン暴走!忙しいんじゃなかったっけ?脳外科医……(冷汗)

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