Please sit my side.

第4章

 

第9話 「え?そうなの?知らずにおいしく頂いちゃったけど?」

 レノアがキラのおかずをつまみ食いしていた、という事実に驚いたのは無論パトリックだけではなかった。

「おかずって……」


「へたれは多忙を理由に料理なんかするはずないもの。ああでも、おいしかったわぁ〜あの豚汁vスパサラもかぼちゃの鶏そぼろも絶品だったわ〜v」



「あぁああああのっ!味、薄くなかったですか?アスランしか食べないと思ってて、あれ塩分をかなり控えめにしてあったんですけど」


「え?そうなの?知らずにおいしく頂いちゃったけど?」



 ううう……と、キラが頭を痛めていたら、パトリックがレノアに食ってかかっていた。





「なぁレノア、それ…持って帰ってあるんだろ?お前のことだからちゃっかりと」

 その瞬間、レノアは意味深な視線を夫に向けた。


「え?忘れちゃったわ。ああでも、あなたがキラちゃんを認めてくれるというなら、思い出すこともあるかもねぇ」



 部屋の中にもかかわらず、小さな竜巻が起こったような気がした。



 ふと気づくとパトリックがキラの両手を握り込んでいた。

「怖がらせてすまなかった。そんなつもりはなかったのだ。こんなに可愛い人とは思わなくてな」



「ぁ………ぇと、ぉ…」


「もしよければこれから私のことは、パティと呼んでくれると嬉しいのだが。あ、いや、無理にとは言わないよ」



 キラをパトリックから引き離そうとしたアスランも、その腕に厳重に守られているキラももちろん、その場の空気が一瞬にして凍った。



「父上!何を訳の判らないことを言っているんです!」

「だって、呼んで欲しいのだ。そして彼女のおかずを食べてみたいのだ」


「何子供のようなことを言っているんです!」

「呼んでおくれ、キラちゃん。パティ………ってv」



 ひゅるるるるぅう〜〜〜っ!

 木枯らしが、4人の間をねちこく舞い続ける。





 あまりにもあり得ない場面展開に、ついていけなかったキラがつい釣られて「パティ」と小さくつぶやくと、彼女の目の前でパトリックは笑顔のまま気絶した。


「怖ッ!」

「ウフフフフ!私たちの勝ちね、アスラン」


 上機嫌のレノアにアスランはさらに言葉を重ねる。



「…の前に、気持ち悪すぎますよ、コレ」

 いっこうに気づかない父親を容赦なく指さしながらアスランは悪態をついた。



「いいのよ、しばらくほっとけば自然に起きあがるでしょ。そんなことより、私ちょっと電話してきますからね」


「へ?どこへですか?」

「キラちゃんは今夜はここにお泊まりなのよ。結婚前の年頃のお嬢さんに無断外泊はさせられないわ」



 慌てたのはキラだった。


「あぁあああのっ僕帰りますから!着替えも何も持ってきていないですし、ご迷惑かか…」


「キラちゃんの着替えならあるのよ。だってこの間ラクスさんが箱で送ってきてくれたもの」



 嫌な予感がした。

 そしてそれは見事に的中した。


 撮影で使ったファッションカタログに載せるクライン企画の新作コレクションだった。あれから数度撮影に協力して、着々と増えていったらしい。



 それらが今、ある。

 それも下着から。





「…というわけで、ご自宅の電話番号を教えてくれるかしら。あなたがシャワーに行っている間に、私から連絡しておくから」



 言っている相手はレノアだった。

 そして、彼女の命令には誰も逆らえなかった。



「キラ…ごめ…「はい、アスランはサッサと彼女をシャワー室に案内なさい。あ、新品のタオルの用意も忘れないでね」


「母上…」

「私の言葉が聞こえたかしら?」



 少しの沈黙、そして小さなため息。その後アスランは逆らわない選択をした。


 その間も、パトリックはピクリとも動かなかった。息子と彼女をシャワー室に追い出して、レノアはようやく彼女の夫に目を向けた。





「なにいつまで固まってんの?男ならいい加減になさい」


 のぞき込むと、彼女の夫の目はハートになりかけていた。


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言い訳v:ラクスが去った今、へたれーずを動かすことのできる人はレノアさんだけなのです。いやね、へたれと受け身だけじゃ、話が進まんのですよ。それはもーう、全ッ然←威張れる事じゃない。
次回予告:レノア様の手の早さは宇宙一!…たぶん

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