Please sit my side.

第4章

 

第5話 「そうは言うけど、6畳一間にむさ苦しい男が二人だぞ?」


 期待通りの息子の反応に、レノアは初めて柔らかく微笑んだ。その笑い方が、アスランと全然変わらなくて、キラは思わぬところでドキリとした。



「当たり前ですよ。これから長い間ともに同じ景色を見ようと言う人が、肝心なことを黙っていてどうするというのです?マッケンジーさんから連絡があったときには、私はあなたを本気で勘当しようと思いましたよ」


「母上…っ」



「でも、もう大丈夫そうね。アスラン、彼女と…キラちゃんと一緒ならいつでも自宅に帰っていらっしゃい」


 そう言い残して嵐は去っていった。





 玄関先で未だ呆然とし続けるキラの背後を、温かいぬくもりが包んだ。言わずと知れたアスランだ。



「ごめんね、キラ。隠すつもりはなかったんだけど…なかなか、言い出せなくて……」


 そうだ。肝心な話が残っていた。まずそのことを聞かなければ、何も始まらない。

 とりあえずリビングに戻り、その辺に散乱しているレントゲン写真をダイニングの上に無造作に乗せて、アスランはキラを抱き込むようにして座った。



「ちゃんと…話すから。俺のこと」


「うん…」





 そしてアスランはお世辞にも優等生とは言えない過去を語り出した。


<今でも家出してるっていうのは、本当だよ。小さな頃から、一人息子だった俺は、将来自分のグループの総帥になるものだとして育てられた。でも、自分は人見知りが激しく、誰とでも友人になれる性格ではなくて………正直父の期待は重荷だった。>


 珍しく苦い表情のまま、アスランはさらに話す。



<中学に入ってから、父親との確執はひどくなっていったんだ。父はどうしても有名大学の経済学部に進んで欲しかった。でも、そんな父への反発もあってか俺は医学部へ行きたいと思ってた。だから中学卒業を機に、思い切って家出したんだ。身の回りの少しのものと、財布に入れられるだけの現金と、銀行のカードだけを持って。>


「ご両親、すごく心配したでしょ……」



<まぁね。俺の居場所なんてすぐにばれたよ。だから、その時の友達連中の家を転々としながら、勉強したよ。ラスティのとこもそうだった。アイツの下宿なんて6畳一間でさ。さすがに悪いから大学入ったとき、1DKの賃貸に引っ越したときは心底感謝されたかな?>



「……なんか、追い出されたみたいだよ?それ」


「そうは言うけど、6畳一間にむさ苦しい男が二人だぞ?おかげでヘンな噂は立つわ、彼女は作れないわって、ラスティに散々八つ当たりされた」


 現実を知って笑いが乾いた。確かに、端から見れば完全に同棲状態だ。



<さすがにこれだけ家出が長いとね、母はサッサと諦めてくれて、時々連絡くれるようになったけど、やっぱり家には帰れなくて………大学卒業して、医師免許取って数年働いてやっと部屋買ったんだ>


「…と言うことは、ほとんどローン残ってるね」

 何の気なしにつぶやいたキラに、アスランは不思議そうな表情をした。


「ぇ?残ってないよ」

「ウソ!このマンション、どれだけ高いか知ってるでしょ?」



 5LDKの部屋なのだが、一部屋がやたら広いので、それ以上にも感じるような高級分譲マンションだった。


「だって、お金もったいなくてキャッシュで買ったし…」

 キラは固まり、ふらっと倒れそうになり、慌てたアスランに即座に抱きかかえられた。



「キャッシュ………って!一体どれだけしたの!?」


「これくらい…」



と言いながらアスランは左手の指を2本立てた。


 カシャカシャ…チーーーン!とキラの頭でレジスターの音が聞こえ、そしてそれが2000万でないことを知った。



「……って!………ってぇ!!」

 それは、2億だった。

 改めてその金銭感覚にくらりと来た。



「俺だって、色々考えたんだよ?」


「…何を!」


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言い訳v:だって…850万の中古マンション壁激薄じゃ、色々と支障があるでしょう(笑)アスランが(爆)
次回予告:うぉう!アスランのプロポーズがこれほどまでに恥ずかしいとは!!

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