第4章
第4話 「全てを……彼女に、話します」
「でも、俺だってキラの心を掴むのに必死で……」 「男が下らない言い訳をするんじゃありません!見苦しい!」 「ですが…」 「まだぐずぐずしているようなら、彼女は私が頂いてしまいますよ!」 「「………え”?」」 二人の返事がハモった。 「それが嫌なら、彼女の心をガッチリ掴みなさい!」 「母上……何か魂胆があるんですか?」 さすがにアスランも疑わざるを得なかった。あの母が、何もなくしてこんなところまで来るはずがないのだ。 「いまさらありませんよ。家出息子に何を期待しようと言うの?あなたは医者でも何でもやって気ままに生きればいいんです。けれども、私はキラちゃんにも期待しないとは言ってないのよv」 「母上……」 「キラちゃんはとてもいい子ね。自分の考えをちゃんと持っていて、あなたとは違って常識もあって、それでいて経済観念もしっかりしてるわ。そんな彼女を選んだことは褒めているつもりよ」 アスランは無言で次の言葉を待った。 それはある意味、予想の範囲内ではあった。 「商魂たくましい子供の祖母になるのが私の今の夢なのv私がボケ老人にならないうちに叶えてくれるかしら?」 気持ちは解る。だが引っかかる部分もあった。 キラはくり返さずにはいられない。 「商魂……?」 レノアの言っていることは判る。早く孫の顔を見たいという、世間一様な母親の希望だ。 しかし、普通「孫」というと、「可愛い」とか「元気な」とか言うものではなかったか? 「ええvキラちゃんならできるわ!あんな純情へたれでなく、商売魂にあふれた孫が欲しいの。男でも女でもいいわ。今はそう言う時代ではないもの」 さらりとレノアはとんでもないことを言う。さすがのキラも軽いショックの連続で、頭がくらくらしそうだった。 「商売……ですか…」 「ええそうよ。だってキラちゃん見てご覧なさい。あんなへたれに商売なんかできると思う?」 しばらく思案し、キラはいいえと答えた。 確かにアスランは商売向きの人間ではなかった。今の仕事が示すように、技術系の人間だ。 「悪いと思ったんだけど、たまたま冷蔵庫を見てしまったの」 あ…!とキラは思った。 冷蔵庫にあるもの。それは自分の差し入れだ。ラクスの専属モデルとは言っても、毎日仕事があるわけじゃないから、こまめにおかずを作ってはアスランに渡していた。 彼が部屋に帰るときには、忙しい彼の代わりに冷蔵庫の整頓をしたり、掃除をしたりしていたのだ。 脳外科が専門の彼のこと、疲れて帰ってきても、部屋にはファクスやらレントゲン、MR写真だらけで、到底日常の家事をするヒマはないのだから。 「感動的だったわ!誰かさんと違って!」 「思わせぶりな言い方しなくったって、判りますよ」 「誰のおかげであなたはここまで働けると思っているの?」 「母上…?」 「言ってみなさい!誰のおかげであなたは今こんなところで、悠長にしていられるの?」 アスランは観念した。確かに、この母には勝てなかった。 「キラの…おかげです……」 素直に認めると、レノアは勝ち誇ったようにアスランを見下ろした。 「良くできました!あなただけで生きていられるわけではないのよ?」 言われるとおりだった。ここのところ、体の調子がいいのも、ご飯がおいしいと感じるのも、そしてこんなに幸せなのも全てキラのおかげだった。見落としがちだった重要なポイントを、母は身をもって教えてくれたと思った。 「全てを……彼女に、話します」 少し笑顔と自信を取り戻して、アスランは二人に笑顔を向けた。 隠していたわけではなかった。隠そうと思っていたわけでもなかった。 言えなかった…でも、言わなければならないことが………たくさんあった。 第5話へ→ ****************************** 言い訳v:へ・た・れ! 次回予告:アスラン回顧録。だが所詮は御曹司だった。 |
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