Please sit my side.

第4章

 

第2話 「庶民で悪かったな…」


「でも…きっとアスランは勘違いしてると思うんです」

「何が?」


「育ちが違うんですよ。僕たちのようなところなんて知らないから、あんな風に笑っていられるんだ…」



 キラは真剣に訴えた。

 あんな大豪邸で育っていれば確かに、お金なんか気にしないですむ。キラが入院したときも、お金は気にしないでいいといったアスラン。それも今では判る。


 でも、だからこそアスランにとって、世の中は「愛が全て」なのだ。


 キラたちのように目の前の生活費を気にする生活なんて知らない。説明したところで理解できない。だから、今自分に向ける笑顔も勘違いしているからかも知れない。



 そう考えると背筋が寒くなった。勘違いは、いつかは解ける。そうしたら、急速に冷めていくのではないか?





「それは………アイツの口から直接聞いた方がいいんじゃないかな?」

「えっ!そんな…だって、会ったりなんかしたら………」


 その先の展開は、目に見えていた。だから、病院内でアスランに会わないように苦労したのに。



「こないだのさ、アイツが実家に帰ったってことのほうが、実はイレギュラーなんだ」


「え?」

「アイツさ、今でも家出状態だから」



「……………は?」


 言われた言葉が、すんなり頭に入ってこなかった。


 家出?

 あんな御曹司が?



 キラの頭でいくら考えても、理解できる言葉ではなかった。

「ってことはさ、俺の口から言っても納得できないだろ?」

「はい。全然」


 キラの即答にラスティはあからさまにガクーとうなだれ、そして気を取り直して携帯電話を開いた。



「呼ぶよ?」


「でも………」

「詳しいことはアスランから聞けばいい。そしたら、よく判るよ」


 ラスティはキラの返事を待たずして、電話をかけた。程なくして、その携帯からアスランの苛立ったような怒鳴り声が聞こえてきた。


「うるさいッ!せっかく取れた休憩なんだ。少しは俺を休ませろ…」



「オペ後か…」

「救急外来だ」


「ふぅ〜ん…じゃ、キラちゃんとの話は明日だな〜〜〜」

 意地悪そうにラスティはつぶやいた。それも聞こえるか聞こえないか程度の、か細い言い方で。

 それでもアスランは機敏に反応した。



「キラ!?キラがどうしたんだ?話?どういうことだラスティッ」

「うるさいのはお前だバカモノ!少しは落ち着いて人の話を聞かれんのか!」


「聞いているさ!だから、キラがどうしたと言うんだ。もしかして……そこにいるのか…?」

「来てるよ」

「どこだ!言えッ」

「彼女との思い出の場所」



 数瞬もかからずに電話は切れた。

 そして、予測通り5分もかからずにアスランはやって来た。ゼエハアと息を切らしながら。


 その姿にラスティは苦笑する。

「あんな姿のどこが御曹司だよ…」



 どこからどう見ても嫉妬に狂った心に余裕のない単細胞じゃないか、とキラに耳打ちする。

 その姿がアスランの癇に障ったのだろう。彼はさらに砂煙を上げながら肉迫し、キラをラスティからべりっと引き剥がした。



「いくら恩人とは言ってもこれだけは許さんぞラスティ!キラは俺の大事な婚約者だ!」


「へいへい!じゅ〜〜〜ぶん、判ってますってば」

「いんや!判ってない!その目は俺を小馬鹿にしている目だ」



 などという場違いな真剣さにあきれ果て、ラスティはキラに言った。

「な?どー見ても庶民だろ?コイツ」

 いや、庶民以下かな…という言葉は喉元で飲み込んだ。


「庶民で悪かったな…」

 そう答えるアスランもアスランだ。



「バカだからな〜お前…」


「ほっといてくれ!それで、一体どうしたって言うんだ。こんな軟派野郎になんか言わずに俺に相談してくれれば良かったのに…」



「それができれば苦労はしてないよ。お前さん家のことでキラちゃん気にしてんだから」

「………え?そんなこと?」


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言い訳v:アスラン家出息子という設定は、珍しいと思ったので(笑)
次回予告:女帝とへたれ

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