Please sit my side.

第4章

 

第1話 「アスランが僕を好きだって言ってくれるのって、今だけかも知れないって思って」


 あの日、拾う神に出会ってから、キラの人生のペースは変わった。


 事務職から、超有名デザイナーのモデルへの大変身。


 悪い気はしないが、それと引き替えにちょっと困ったことも多くなった。外出に帽子が欠かせなくなったこともその中の一つだ。





 今日も、ファッションの一環と称して、帽子をまぶかに被り、目的地へと向かう。あれから少し時間が経ち、確かに一時期の熱狂は冷めたものの、それでも番記者が消えたわけではなかった。



「薬剤師のマッケンジーさんはいますか?」


 総合病院の受付でキラはラスティを呼んだ。

 ここのところかなり一人で悩み、結局ここにたどり着いた。勤務時間の都合で30分ほどして、ラスティはキラを連れていつもの屋上にやってきた。





「浮かない顔してるねぇ。どったの?アスランの奴とケンカでもした?」


 あり得ないとでも言いたげにラスティはキラの顔をのぞき込む。こんなところにキラが来た理由。そしてアスランではなく自分を呼びだしたわけ。



 何かがあるはずだった。



「ケンカはしてません。ただ…この間、ラクスさんとお会いして………」

「ああ〜それで、あの熱狂ぶり…」


 雑誌もメディアも、「謎の新人モデル」に血眼になっていた。久しぶりのニュースだったのだろう。それだけにキラがどれほど苦労したかは、判らないでもない。新しいニュースが入ってきたので、熱がようやく冷めてきた頃だった。



「それは良いんです。僕も…ラクスさんの服着られて、嬉しかったわけだし。ただ…アスランのこと知るたびに、僕で良いのかな…って、怖くなって………」


 つい数ヶ月前のことをキラはかいつまんで話した。それでやっとラスティも納得する。





「アスラン…あんな金持ちだって、思わなかった?」


「そりゃっ、お医者さまだからお金持ちだろうなとは思ってたけど…」

「桁が違う」


 キラの言わんとしていることを、ラスティは正確に答えていた。キラは不安そうに頷く。



「僕の家、普通のサラリーマン家庭なんです。そんな…あんなすごい豪邸だなんて……」

 どう考えても釣り合わない、とキラは言った。ラクスさんのほうがよほどふさわしいと、掛け値なしに思った。



「だから、アスランが僕を好きだって言ってくれるのって、今だけかも知れないって思って」


 確かに、アスランのことは今でも好きだ。そして、何があっても彼と一緒にいたいと思ったこともウソじゃない。だけど、一様にお金持ちって言ってもあそこまでかけ離れているとは思わなかった。だからラスティに相談したのだと言った。

 事実、アスランに会えば何も考えられなくなって、また流されてしまうのだ。それじゃ本当の気持ちなんて解らない、とキラは言った。



「でもさ、キラちゃん。アスランの奴、キラちゃんをレノアさんに紹介したんだろ?」

 ラスティが聞く。何でもないこの言葉は実は重要なことだった。


「レノアさん?」

「アスランのお袋さん」


「あ、うん。すっごいきれいな人だった。アスランにそっくりで、とても上品で強い人で…」



「だったら、いいんじゃないかな」


「よくないですよ!だって、あの日…僕だってまさかお会いするなんて思ってなかったから……」

 キラが必死になっていると、ラスティは苦笑しながらごめんと謝ってきた。


「キラちゃんはおそらくレノアさんに気に入られてるんだよ」

 そう言うラスティの言っていることが、キラにはサッパリ判らなかった。



「だって、僕…緊張しててほとんど話せなくて……」


 あの日、何もかも違う雰囲気にどぎまぎして、何もできなかった。返事はつっかえつっかえ、ひどくぎこちない動きに失笑されたと思い込んでいた。



「大丈夫だってば。レノアさん、気に入らない子だったらアスランの知らないうちに追い返してるから」

 ラスティは笑いながら言う。


 キラは一体自分のどこが気に入られたのか、さらに判らなくなった。


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言い訳v:このシリーズのもう一つのセオリーは「アスランから身を引こうとするキラ」です。ま、無駄だけどね〜(笑)
次回予告:アスラン→(ドドドド…)→キラ

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