Please sit my side.

 

第2話 「俺……ミ…ァのこと、好き………ら……」



 その日からうってかわってアスランは上機嫌だった。普段はクールで滅多に表情を表すこともないためか、院内では不審がる者、気持ち悪がる者、嫉妬する者……種々の感情が入り乱れることになる。


 そんなことなど気にもとめない本人は、今までにはあり得ない早業で診察をこなしていった。





「その伸びきった鼻は、なんとかならんのか!」


 夜勤に備えてソファで仮眠をとっていると、目の前に勢いよく音を立ててマグカップが置かれた。中からブラックコーヒーが数滴こぼれて、床を濡らす。



「ああ、イザーク…もう、交代か…?」


「お前のために1時間伸ばしてある」



「すまない…」

「貴様…頭でも壊れたか?さっきディアッカがやってきて、お前の寝顔と寝言が気持ち悪いと、俺に泣きついてきた。ディアッカが近寄れんと言うから、俺がわざわざ起こしに来たんだろうが!」



「ディアッカが……?俺、何もしてないぞ」





 その前にどうして内科のディアッカが自分を起こしに来たのだろうか、とか、同じ外科でも脳外科の自分のところになぜイザークがいるのだろうか、とか色々なことがぼんやり気になりだしてきた。



「今日何かあったのか?確かに貴様の寝顔と寝言は気色悪かった」


「………。別に…」



 ボーっとした頭で考えているせいか、アスランにも特段気になるようなことも思い出せなかった。


 しかし、救急搬送をも受け入れる総合病院に休まる時間はない。すぐに次の患者がストレッチャーで運ばれてきて、夜勤組は多少専門外であっても対応に追われることになる。





 立て続けに7人の急患を看て、いささかなりとも時間が取れたのは深夜3時すぎのことであった。…となると、イザークはすでに交代で寝てるし、彼の話によると内科のディアッカは、恐ろしがってここには近寄らないらしい。



「何なんだよ、一体……」

 知らぬは本人ばかりなり。ところがアスランも疲れているのか、さして気にすることもなく、他の医師とともに急患の対応に追われ……急患の応急処置がすんだ頃には、空が白みかけていた。





「ぁ………ぁの……」



すーすーすぅ………。



 夜が明け、エミリアことキラは早速困っていた。


 何故かって?

 どうして目の前にアスランが、自分のベッドに突っ伏して寝込んでいるのだろうか?昨日は確か、簡単なバイタル・チェックの後、夜勤だからと言ってこの部屋を離れたはず。

 ま、確かに夜勤明けで疲れ切っているのだろう。声をかけたところで、身体を揺すったところでアスランに起きる気配はなかった。



「きれいな髪……」

 ふとそんなことに気づいて、キラはアスランの髪を手ぐしで梳いた。一時にいろんなことが起こりすぎて、黒い髪に緑の瞳くらいにしか認識してなかったので、気づかなかったのだ。



「藍色なんだ…」


 あんまり触ったら目が覚めるかな…などと思っていたら、院内放送がかかってきたのでどうしてもアスランを起こさなければならなくなった。





「アスラン…アスラン!」



 −繰り返しお伝えいたします。ザラ先生、至急内線19番までご連絡願います−



「アスランってばぁ!起きてよ。呼び出しかかってるから…」

「エミリ……リア………ぃて…れの、ばに………」


 アスランは夢でも見ているのか、ずっと寝言を言っている。その中に自分の名前を聞いて、キラはびっくりした。



「エミリア…って、僕のことなのかな?それとも別の人……?」


「…めん………っちゃったけど…俺……ミ…ァのこと、好き………ら……」



 ブッバン!!!



 ダイレクトな寝言にキラの頭は一瞬で沸いた。

 これって……もしかして、自分のこと?

 …でも、まさか!だって昨日出会ったばっかだし……そ、そりゃ確かに背も高いしかっこいいし…ヘンな感じがしなくなくもないけど……。


 そこまで思って、キラは大慌てでアスランの肩を掴み、乱暴に揺すった。


「アスラン!アスラン起きて!」

「……ぇ………」



「呼ばれてるんだってば!さっきからずっと」


「呼ばれてる」の一言でアスランは一瞬で飛び起きた。



「うるさいなぁ…どこからだ?イザーク…」

「内線19番」



「………ッ!!!エミリアッ!」


 今さら驚いたようにアスランはキラをまじまじと見つめた。そして何故か即座に頬が染まる。



「すまない。迷惑かけたねエミリア」

 そう言って、アスランは部屋の電話機で内線につなぎ、話しだした。



(瞳…青緑なんだ……)



 その頃キラは、初めてまじまじと見てしまったアスランの瞳の色に、ただ驚いていた。視線の先にはキラに背を向けて、内線でなにやら専門用語だらけで話しているアスランがいる。



「きれい……」


「え?何が?…ああ、お花?」

 小さな音を立てて受話器をおろしたアスランが、再びキラに話しかけた。


「昨日看護士がね、この部屋お見舞いが来ないから殺風景になるからって、余り物だけどって持ってきてくれたんだよ」



「え?花?…あ、本当だ」

「花じゃなかったの?」



「……………」

 キラは真っ赤になってうつむく。



(僕何言ってるんだろう?アスランは…ザラ先生は僕のことかばってくれて、こんなに良くしてくれてるのに。これ以上迷惑なんてかけられないのに……)



「何でもっ何でもないんです!た…っただ、その…今日は……天気がいいので、外が気持ちよさそうかな……って…思って………」


「ねぇエミリア。今夜も夜勤だから、俺は今のうちに仮眠をとっておかなくちゃいけないけど、昼過ぎにでも散歩に行こうか?」



「…ふぇ……?」

「エミリアの言うとおり、今日はよく晴れてるから、外を歩くと気持ちよさそうだね」



 そう言って、アスランはキラの額に軽くキスを贈り、病室を出ていった。


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言い訳v:これじゃぁまるでホストの恋だ……(大笑)あのぅ〜脳外科医ってむちゃくちゃ忙しいんですけどアスランさん…!?

次回予告:芸能人並みの評判にキラは狼狽します。ところがエロドクターに流され、簡単にファーストは奪われるのであった。

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