Please sit my side.

第2章

第8話 「そこに今、キラはいるんだね?」


「ちゃんと寝たのか?」

「ちゃんと寝た!」


「目の下のくまが取れてねぇぞ!」

「そんなことない!」



「麻酔打つぞ貴様!」

「離せラスティ!勤務始まるまでの間に、なんとしてもキラを探すんだ!リハビリに来てることは間違いないんだろう」


 アスランは苛立ちを隠せない。ハードスケジュールをこなし、昨晩深夜に自宅に帰り、朝からコレだ。

 ラスティの部屋で暴れている。確か、午前中は完全フリーのはずだ。とはいっても、さすがに寝ないと勤務どころが健康に差し支える。





「強力な鎮静剤のほうが良かったかな〜?」

「ドアの鍵を貸せ!ラスティ!」


「だったらここでいいから寝ろ!院内で暴走するな!」

「結託して俺を騙す気か!」


「黙れ暴走機関車!…判ったよ。キラちゃんとの約束をひとつ破ってやっから。いいか、キラちゃんのリハビリは11時から。受付は30分前からだ。だからこの時間、キラちゃんはまだ病院に来てねぇんだよ」


「ラスティ…」



「判ったらとっとと寝るんだな!」


「起こせよ!」

「ん〜時間になったら、たらいの水が顔にかかるようにしておこうか?」

 それは大昔に流行ったコントだ。


「要らん!!」





 ところが、きちんとアラームをセットしておいたのだろう。11時前に、ガバッと起き上がると「ブルった!」と言い、怒濤のように薬剤師控え室を去っていった。



「あのなアスラン。ここにはいろんな薬が置いてあるんだよ。まーた雪崩れたりなんかしたらどーしてくれるんだッ!」

 ラスティの切実なぼやきは、ついにアスランの耳に届くことはなかった。





 院内のリハビリテーション・ルームではキラが今日もせっせとリハビリに励んでいた。ミゲルにとっては、やる気のある患者でとても嬉しい。


「あっつ〜〜〜」

 玉のような汗が、キラから浮かぶ。彼女はリハビリ中だった。


「初夏だからな。昼間はだんだん暑くなる。だから、夏になる前に治してしまうんだ」

「判ってるよ。先生たちや、両親や、友達にあれだけ心配させたもん。僕が頑張らなくっちゃね」


「痛いからといって、安易に薬に頼るんじゃないぞ!こうやって、温めては動かすを繰り返すんだ。ちょっとずつな」


「うん……ぃたッ痛たたた……」

「今動かしとかないと、一生引きずるぞ。ただ、無理をしすぎて筋を切らないように注意しながらな」


「うん。わかってる」



 今のアスランにはキラの、笑顔がまぶしかった。それが、自分ではなく今はミゲルに向けられているものだということが、とてつもなく頭にきた。


「寝たきりになっちまったら、彼氏もできねぇぞ〜」

「か…っ!からかわないでよぉ〜きっとちゃんと、僕にだって見つけら………」



 それきり、キラの口から言葉が続けられることはなかった。

 大きく見開いた視線の先には、見まごうはずもない、ずっと気になっていた人の姿があった。


 しばらくアスランと視線を交わしたが、キラからふっと逸らすと、苦しそうな表情になって、うなだれた。



「キラちゃん?」


「リハビリ、後どのくらいで終わりますか?」

「ん〜もう終わるよ。あと5分くらいかな?どったの?」


「なんか、急にいろんなこと思い出しちゃって……」

「事故のこととか?」


「ぁ…ぅん……」



 あいまいに答えて、キラはごまかした。

 ミゲルがキラの足を軽くマッサージしているうちに、約束の時間が過ぎたので、キラはミゲルに短くお礼を言って、逃げるようにこの部屋を後にした。


 その機を逃さず、アスランはキラを追いかける。判っていたことではあるが、キラは簡単に追いつかれ、そして無言で強く抱きしめられた。

 自分にかかる力が…想いの分だけすべて伝わってきて、とにかく苦しい。



 だから、嫌だった。


「ここ…廊下……」


 ぎりぎりの自分が、かろうじて言えたのはこんな言葉。それを察してか、誰もいない部屋を探してキラの手を引いて足早に歩いてゆく。





「け…研究棟に……っ」


「えっ?」



「研究棟の……南館…401……」

 観念したようなキラからの一言。アスランはふっと穏やかに微笑み、優しく語りかける。



「そこに今、キラはいるんだね?」


「ごめんなさい…」


「判れば…いいんだ……」

 心底ほっとしたようなアスランに、胸が痛んだ。すぐにキラはふわりと身体が宙に浮いたかと思った。気がついたらアスランに、両手で軽々と抱えられていて…。



「足が、まだ痛むだろう?」


 そう、言われた。


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言い訳v:『種』では王道のアス×キラなんですが、『GW』では超イバラ道の4×1でした秋山。なんで、ついつい「401号室」とか……←バカですねー!

次回予告:部屋に連れ込み、有無を言わせず………爆睡!ナンダソリャ!

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