第2章
第5話 「ゆ…ッ!誘拐ッ!!!」
「え?無条件でOK?」 「はい」 「何かあったのかい?」 バルトフェルドは首をかしげる。 「僕…もうとっくの間にアス……ザラ先生から離れなきゃいけなかったんです。先生の厚意をいいことに、ずっと甘え続けるわけにはいかなくって。でも、面と向かってはなかなか言えないから、これはきっといい機会なんです」 「そうか!オーケーイ!判った。じゃぁ早速明日から調査に入るから、今日中に研究棟の南館401号室に来たまえ。必要最低限のものはあるが、必要なら揃えておいてくれ」 「わかりました」 午前中のリハビリメニューをこなし、昼過ぎにはフリーになったが、そのまま南館401号室に入った。 部屋に帰ると、アスランのことが忘れられそうになくって…きっとそのまま夜まで待ってしまうと思ったから。 でもそうなると、いつものようにきっと何も伝えられないまま流される。 だから…そうなる前に研究棟に来た。少しでも忘れるために。きっとこのまま、バルトフェルドの話を断っていたら、何も言い出せないままズルズルと同棲生活を続けてしまうだろう。 そしてアスランも、自分に都合がいいものだから、無理に思い出させようと努力などしないだろうから。 「だから…いけないんだ……」 「ん〜?なにか言ったかね?」 「いえ!なんでもないです。それで、今日は僕は何をすればいいんですか?」 相手がバルトフェルドだと、いくらでも自分を保てる。妙な自信が今のキラにはあった。 「ん〜〜〜まぁ〜、本格的なことは明日っからなんで、今日は…そうだなぁ、この部屋を君の生活しやすいように整頓でもしておいてくれたまえ」 「わかりました」 あてがわれた部屋は401号室。 アスランのマンションとは広さも間取りもまったく違うし、設置してある最低限の家具も、アスランを思い出させるようなものはなさそうだ。これなら、忘れられるかもしれないと、キラは思った。 与えられた部屋の狭いリビングで、今までの楽しかった記憶を強制的になぎ払う。口付けの生々しい感触に今でも胸がドキリとするが、そんなことももう忘れなければいけないと、強く自分に言い聞かせた。 そのうち、日数が経って、アスランだって一時の情熱が冷めさえすれば、冷静に考えられるかもしれないし、忘れたりあきらめたりできるかもしれない。 時間が解決してくれると、キラは、軽く考えていた。 「病院は見えても、これだけ離れてるんじゃ姿ははっきり見えないよね。僕もアスランも…お互いその方がいいのかもしれない」 日の光差し込む大きな窓を確認し、近くの籐の椅子に座り、外の風景を眺めた。 キラが研究棟で夕食をとり、大方片付けの済んだリビングでTVを見ていた頃……。意気揚々と自宅に帰ったアスランが、電話口でラスティに怒鳴っていた。 「うるさいってばよ、アスラン。もっとはっきり喋ってくれ。音が割れて聞き取りにくいんだが…」 「だから何度も言ってるじゃないか!キラが…キラが、いないんだ」 「どっか、出かけてんじゃねぇの?晩メシの買出しとか〜」 ラスティは、真剣に受け取ることなく、目の前の駄菓子をぽりぽり食べながらのんきに答える。 「携帯も置いて出かけるもんか!」 「忘れてるって可能性考えないのかよお前さんは。別に何もなくなってねえんだろ?きっとそのうち帰ってくるさ」 「こんな夜中に…可愛いキラが一人で歩いているのかもしれないんだぞ!充分危ないじゃないか!場所が判らなければ、迎えに行きようがない」 「………………………………」 判っていたこととはいえ、ラスティはあきれ果てる。確かに…下手に職員と恋愛関係になってなくて、よかったのかもしれない。 はっきり言って、この変態さがバレる。しかもへたれと来たもんだ。 「あのなアスラン……。そんな誘拐でもされたような言い方すんなよ…」 「ゆ…ッ!誘拐ッ!!!」 叫んだきり、急にアスランからの返事が返ってこなくなった。 「おぉ〜〜〜ぃい!だから、誘拐じゃねぇって言ってんだろ?聞いてんのか、アスラン!アスランよぉ!」 「誘拐…キラが……誘拐…。身代金目的とか…まっまさかッ!助けに?いや、探しに行かなければっ!ぁ、でももう既に犯人にヤられてるなんてことも……いやぁあああああッ!!!冗談じゃない!ん?待てよ、じゃぁとりあえず警察か……」 天下のエリート脳外科医は、パニックに陥っていた。ラスティに怒りがこみ上げる。 「やかましいッ!だから、わかんねぇって言ってんだろうがよ!!!とにかく俺が調べてみっから、お前はしばらく黙ってろ!」 第6話へ→ ****************************** 言い訳v:ラスティー・キューピッド物語に変えようかしら……(爆笑) 次回予告:ラスティー怒る!ラスティー怒鳴る!ゴーゴーラスティー!相手はへたれ変態だ、何したって許される!!っつーか、ザラ先生…ちゃんと仕事しましょう編。 |
お読みいただきありがとうございました。ブラウザバックでお戻り下さい。