Please sit my side.

第2章

最終話 「大事な話があるんだ」




「全然起きない…」


「はっはっは。それだけ疲れてるんだろうよ。ま、手術に失敗はなかったわけだし、当院としてはなんら問題はない。彼はまだ若いんだ。こうやってどんどん経験をつめばいい」


 目の前の院長は、のほほんとしてすぐにアスランを視界から外した。若いんだ。どんなに疲れてたって、1日休めば元に戻る、とのんきなものだった。





「そんなことより!ま…じゃんじゃん飲んでくれたまえ」



「………………………………」



「あ、でも。できるだけつまみは少なくしてくれよ。酔っ払ってくれなきゃ、意味がない」


「それ…病院の先生の言うせりふじゃないと思うんですけど……」



「いつも言われる。だがこれは人類史上、画期的なデータになるんでねぇ」


「先生、いつも思うんですけど、サッパリ意味わかりません」





 そして1時間後。陽気な院長に勧められ、キラは完全に酔っ払いになっていた。

 意図しないのに、しゃっくりが止まらない。しゃべりすぎたせいか、少々頭も痛いし、身体の感覚もおぼつかない。つまみは少ないし、当然のことながら酔い止めはもらえない。酔っていくうちに、自分が何をしているのかわからなくなってくることも、しょっちゅうだった。

 それなのに、目の前の院長はひどくご機嫌だった。腕にさしたままの注射針から、時々血液を少量採取しては時間を書いたシールを貼っていき、満足している。


「ホント…サッパリわかんないよ」



 うとうとするキラ。ちなみに本日は飲み口のいいワインだったせいか、いつもより飲みすぎてしまって、ぐらりと身体がかしいだことにも気づかなかった。


 しかし、彼女の身体が床に激突することはなかった。背後に、温かな感触を感じキラは寝込む。

 誰かが何かを言ったような気がするが、もうどうでも良かった。





「院長ぅ〜〜〜!いったい…アナタはナニをしてるんですか!こんなところでッ!」

「ん〜ザラ君。おはよう」


「おはようじゃないですよ!何故ここには大量の酒があるんです?そしてそれを、どうしてあなたが彼女に飲ませているんです?大体彼女は、まだ未成年でしょう!」



「うむよくぞ聞いてくれた!それはそれは、世界史上人類史上画期的な新薬の開発のために、彼女にお願いして、データとサンプル採取に協力してもらっているのだよ」


「いつものことですが院長!サッパリ判りません!」

「まぁ怒りを静めてくれたまえ〜貴重な時間なんだ〜〜。彼女を興奮させちゃぁデータが取れんじゃないか」



「……………。たまには判りやすく説明していただけませんか?」



「そのことなんだがね。血液検査の結果、彼女にはすばらしい機能があることがわかったんだ」


「機能?」


「どんなに酔っ払っていても、数時間後には身体からアルコールが消えてしまう。つまり、二日酔いのしない身体なんだ。生成されるアルコール消化酵素が、新薬に使えそうだというのでな、上の許可も取ってある」



「……はい?」



「というわけで新薬の開発が成功すれば、後は出願するだけだ」

「……つまり、技術者根性がうずいたと…そういうわけですネ」


「効能としては、服用すれば10分以内に、血中アルコールを全消化できる。夢が膨らむだろう?」



「院長…、あとでしばき倒しても……いいですか?」

「ん〜協力してくれたら、彼女との交際を見なかったことにしてあげるよ♪」



「ぐ……ッ…」


 そして、アスランは院長に屈した。





 それから半月ほど。

 アスランのあぐらの中にキラはちょこんと座って、嬉しそうにお酒を飲む(医師の監修の下)バカップルな姿は、幸いにも意外に口の固かったバルトフェルド院長によって、院内に流れることはなかった。





 バルトフェルドへの協力期間も過ぎ、退院の日のリハビリ終了を、アスランはひたすら待っていた。珍しくダブルのスーツにネクタイをして、正装したアスランにキラの「?」はとまらない。


「なんか…七五三みたい……」

「見慣れないからね」



「今日、何かあるの?」

「大事な話があるんだ。キラの…ご両親にお会いしても、いいかな?」


「何で?今日、仕事は?」

「院長脅して休みにしてもらってきた」



「???よくわかんないけど、いいよ。僕のことで散々迷惑かけてきたわけだし、母さんたちだってお礼を言いたいって言ってたし」


「ありがとう」





 そしてアスランは、そのままキラの自宅へ行き、ひたすら恐縮する両親に向かって「結婚を前提に、お嬢さんとの交際を許していただきたい」と頭を下げて、キラのみならず彼女の両親までも驚愕させた。


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言い訳v:ふーてんの寅さんは猛者ですから(笑)いんやぁ、『〜1』でなにげにやってた血液検査、やっと使えた。とにかく最後までおつきあい下さり、本当にありがとうございました。

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