第2章
第1話 「知らない人のところにいくのは絶ッ対に、嫌ぁっ!」
自分の親だという人たちは、アスランの自宅に住むことに大反対した。それでも、さっさと引越しを済ませたほうの勝ちだ。 「キラ!とにかく、思い出せなくてもいいから、いったん帰ってきなさい」 父ハルマの言うことはもっともだった。 しかし、そんな両親の心配も今のキラにはわからない。親を騙って、アスランと別れさせようとしている邪魔者にしか見えなかった。 彼女は嫌がって泣き叫ぶ。 「ヤダ!嫌だよ。知らない人のところにいくのは絶ッ対に、嫌ぁっ!」 「これ以上先生にご迷惑をかけるわけにもいかないだろう!」 「アスランが迷惑だって言ってないから、いいもんっ」 舌戦は平行線をたどり、収拾はつかない。結局ザラ医師の説明もあって、両親はしぶしぶながら現実を受け入れざるを得なかった。 「実は私は迷惑ではないんですよ。こんな仕事してますからね、自宅なんて滅多に帰れるわけじゃない。といっても、これは事故のショックに寄る一時的な健忘なんで、本当すぐに思い出しますよ」 「ザラ先生…」 「とはいえ、彼女がこんな感じじゃ、ご自宅に帰られてもまともにリハビリもできないでしょう」 「でも、先生とはいえ、男性のご自宅に同棲するのはちょっと……」 「ご心配はもっともです。しかし、このまま一生歩けなくなっては、と。私はそこだけが心配なんです」 母親の心配が理解できるだけに、いささかなりとも心苦しさを感じる。 確かにアスランにとっては、両親へ説明している口上よりも、別の目的による部分が多いだけに、ここは並み以上に演技力を要求される。 「私のほうも、リハビリ通院をかねて、手紙やファクスを届けてもらおうというんです。それまでの間ね。実はお互い様なんですよ」 そんな会話があった翌日。さっそくキラは退院手続きを済ませて、とある高級マンションの一室に来ていたのであった。 「ごめんね、アスラン」 「何が?」 「あの人たち、本当に僕の両親なのかもしれなくって…でも、僕……」 アスランはキラの身体をそっと抱きしめ、頭をなでる。 「知らない人たちのところに行くのは、誰だって怖いよね。でもね!約束は約束だよ。ちょっとでも思い出したら、俺に言って。電話が通じないときのために、ちゃんとメアドも教えておくからね」 「うん……」 「そんなことより!当面生活に必要なものは、ちゃんとそろってる?もう一度確認して。ないものあったら今のうちに揃えておかなくちゃ、俺明日っから3日ぐらい帰れないし」 「また夜勤なの?」 そう。院長に無理言って、今日一日を丸々休日にしてもらったのだ。3日連続の夜勤程度で済むならありがたい。医局ではイザークとディアッカが、増えた仕事に激怒していたらしいが。 キラは身の回りに並んでいるものをもう一度確認し、忘れ物はないと答えた。居候の身だ。最小限の必需品さえあればいい。 「あ…それと、キラ、本当にベッドはここにあるのだけでいいの?」 寝られればいいだけのシングルのベッドが、寝室にさびしげに置いてあった。 「うん。僕ね、ちゃんと約束どおり、本当に思い出したら自分の家に帰るよ。だから、もうひとつベッド買って貰っちゃったら、思い出したくなくなっちゃうだろうから」 「キラ……」 「ほら!僕のほうが居候なんだし、アスラン帰ってきたらソファ借りればいいでしょ?」 アスランはきょとんとし、そしてひとつ微笑むと、キラの耳元に顔を寄せる。 「そのときは、キラと……一緒に寝ちゃ、ダメ?」 「ぇ………っ?」 キラは不思議そうな表情で聞き返してきた。 「たぶん疲れてて…何もできないうちに、俺が先に寝ちゃいそうだけどね」 「あ、救急救命?」 「もうくたくたになるよ!時間も不規則だし、飲ます食わずで夜が明けることもいつもだし。本当、何にもできないかな?」 「じゃ…じゃぁ、僕お弁当…作るね」 「え?」 しばらく考え、う〜んと神妙そうな顔をして考え込んだ結果出てきたのが、これだった。 ところがキラは微笑んで言う。ほぼ間違いなく、あまり意味がわかっていない。 「料理なんてやったことないけど、頑張ってみる」 「キラ…?」 「大丈夫だよ。ちゃんと本見て、レシピどおりに作ってみるから。…でも、うまくできたものだけ入れるから、中身はあんま期待しないで」 キラはそう言ってやわらかくはにかんだ。 第2話へ→ ****************************** 言い訳v:キラ・ヤマト…頭が良いんだか悪いんだか……(笑)アスランの誘導に簡単に嵌るキラ。 次回予告:アスラン調子に乗る(ぇ)上も下も正直な彼に、赤面が止まらない〜♪ |
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