主人不在型ストレス症候群

【出会い編】あの頃俺たちは、若かった



<第9話> 「こっちへ来い!しっかり言い聞かせてやる!今日こそな!」


 

 キラは嘘は言っていない。

 だが、いささかの心苦しさを感じずにはいられない。



<危ない橋は渡らない>



 いい方法を、助教授が斡旋してくれようとしている。環境も整えてくれている。

 だから…残された最後のチャンスをみすみす手放すようなことはしたくなかった。





−これが最後のチャンス−





 キラもそう思う。

 だからこそ賭けたい。本当なら喜んでカガリに言いたい。そして応援されたい。


 でも…言えなかった。言えないまま、カガリを笑顔で送り出した。

 翌日、キラは何も考えずにカガリの名を呼び、そして昨夜出かけたことを思い出した。





「…そっか、カガリはテニスか」


 カガリはテニスで半月はいない。ふっと気が軽くなり、そのままベッドへ倒れ込んでいたら寝込んでしまってて、鳴り続ける携帯電話の音でやっと目が覚めた。


「……は、い」

「ああ、キラちゃん?良かった。なかなか出ないから、どうしたのかと思って」

 相手は助教授だった。



「先生…すみません。ちょっと、寝込んじゃってて。それで…どうしたんですか?」


 キラの質問に今さらのようにアスランは驚いた。何にも考えていなかったのだ。もし電話がつながったら、彼女はどう思うかとか、その時の言い訳をどうするべきかとか。

 ただ、電話したい、声が聞きたいということだけが念頭にあった。





「え?あ…いや、別に………その〜〜」

「その?」


「そ…そのっ、下宿で勉強できないっていってたから、どうなのかなって…思って……」

「すみません。色々心配してもらって。でも、やっぱ全然進んでいませんよ」


「……えっ」



「だって、参考書とか全くないですから」

 当たり前の答えにアスランは面食らった。順当に考えてみれば、納得はいく。


 しかしたったこんなことにも考えがいかなくて、ちょっとのことにしどろもどろになる自身が信じられなかった。





「でも、姉がしばらくテニスでいないんで、ちょっとははかどるかもと思います」

「そっか…」


 自分が裏から手を回したとはいえ、罪悪感がしないでもなかった。





 それでも、キラのホッとしたような声を聞いて、安心している自分がいる。アスランはこのころから、キラにドキドキしている自分を実感し始めていた。

 もやもやとした焦燥感がアスランの胸を駆けめぐる。


(気を抜いたら、今すぐにでも好きだって…言ってしまいそうだ………)







 その頃、キラのあこがれの地黄道連盟大学で、約一名が教授に詰め寄っていた。


「何故こんなところにお前がいる!」

「仕方ないだろう!ここが職場なんだから」


「医学部の校舎はここからかなり遠いと思っていたが!」

「それも仕方あるまい!俺だって顧問の一人なんだから」


 周囲の人々が遠巻きに見守る中、カガリとイザークの口げんかは早くも始まっていた。



「ほとんど練習にも来ないような奴が、何をぬけぬけと!」

「バカにするな!行かれるときは行ってるわ!」


「ふんッ!そ〜んななまっちろい肌してどこに説得力があるって言うんだ!おおかたはったりだろう」

「バカかお前は!この肌は自前だ!遺伝だ!あ〜〜〜もぉッ周囲の迷惑になるだろうが!こっちへ来い!今日こそは医者としてこんこんと言って聞かせてやりたいことが、ごまんとあるんだ」



「わっ!ちょ…ッ!何するんだっ!私は別にどこも悪くない!」

「悪いのはガキの頃から何一つ変わってない、お前のおてんばぶりだ!」


「なにぉ〜〜〜う!…って、わゎッ!こら!急に手を引くな!危ないじゃないか」

「これくらいで倒れる玉か!こっちへ来い!しっかり言い聞かせてやる!今日こそな!」



 ずっと見ていた周囲はぽかんとし、二人がいなくなったことに気づいて、やっと宿舎へ戻っていった。


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言い訳v:カガリに似合うスポーツを散々悩んだ末、テニスに決定!でもそれじゃ剛腕になっちゃう…ヒェ〜!
次回予告:このペースで行ったらいつまで経っても終わらない。ので、時間を超早回しにすることにしました。

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