主人不在型ストレス症候群

【出会い編】あの頃俺たちは、若かった



<第10話> 「心配だから、送り迎えするよ」


 

 半月後、カガリは帰ってきた。


「どうだった?」

「別に…全然、何も進んだわけじゃないぞ」


 キラは一瞬「?」と思う。テニスの試合はもう終わったはずだが?


 少し考えて、宿泊宿舎が黄道連盟大学だったと思い出した。



「イザークお兄ちゃん、いたの?」


「えッ!そ………そりゃ…ま、い……いるだろ?アイツ、だって…その、あのガッコで働いてるわけだし……?」

 しどろもどろのカガリの返事にキラはピンと来た。



(イザークお兄ちゃんと話したんだ…)


 大丈夫かなぁと思った。

 キラが見るかぎり、イザークとカガリはケンカ仲間。

 到底仲良くなんてムリだと知っていたから。





「お兄ちゃん…いたんだ……」


「べ…別に、いたっていいだろ!仕方なかったんだから!もう、帰ったばっかで疲れてるから、今日は寝る!」


 高らかに宣言して、カガリは豪快に布団を被って眠ってしまった。







「???」


 ま、いいや。自分に関係ないんだし…と気を取り直しキラは大学の単位を取りながら、受験勉強する生活を続けた。

 そして、助教授の計らいで1年間黄大に行くことになった。その時はさすがにカガリにも言わなければならないので、他の大学の聴講を受けると話した。


 ただ、大学名だけを偽って。



 キラの心配とは裏腹にカガリは、黄大以外ならと言って、あっさり信じてくれた。キラの心にちょっとした、後ろめたさが残る。



(でも、仕方ないよね。こうでもしなきゃ僕一生あの大学に行ける機会を失っちゃう)





 かくしてキラはあこがれの黄大へ1年間通い、指定のレポートを提出し、内部試験の受験資格をもらえた。そのことはザラ助教授も、まるで自分のことのように喜んでくれた。

 受験当日も、朝からずっと電話していてくれて…忘れ物はないかとか、余裕を持って電車を2便早めに乗った方がいいとか、キラもあまりのうれしさに大丈夫だよとか言っていた。







 そして、今夜もまた携帯電話に着信がかかる。


「もしもし…」

「キラちゃん?今、時間いい?」

「ちょっと待って下さい」


 そう言ってキラはカガリに話しかける。

「カガリー、友達だから長電話になるから、ベランダにいるね?」

「んー。判った」





 カラカラカラ…パタン。

 小さな音をさせて、キラはもう一度、もしもしと言った。



「今日はお疲れさま」

「はい、すみません。今まで色々お世話になって。どうやってお礼したらいいか…」


「まだ早いよ?結果出るのいつ?」

「一週間後。学内の掲示板に、載るそうです」



 ゴクリ…とのどを鳴らすような音がかすかに聞こえてきた。





「あ、のさ…もし良かったら、その………俺も見に行って、いい?」



「…ぇ……」


「あ、いや。嫌ならいいんだ。その、あれだけ勉強してたの知ってるから、ちょっと……気になっただけで…」



「正直判りません。一生懸命解いたけど、僕より得点の高い人が5人いたら、ダメなわけだし…」

 そうだ。一度大学を辞めて、完全に浪人して受けるよりはリスクは少ないが、合格者は成績上位5人まで。


 厳しい道であることには変わりはなかった。





「そっか…ごめん…「いいですよ」

「……ぇ…?」


「先生にはすっごくお世話になったし、それに今さら心配したって成績が変わるわけないから、どっちみち同じことだし…」


 キラは努めて明るく振る舞おうとしていた。


 でも、声が、語尾が震えているのが判るほどで。





「心配だから、送り迎えするよ」


 気がついたら、そう言ってしまったあとだった。


 しまった、こんな時は気を利かせて、こちらから辞退すべきだったとか、それでも彼女が心配だとか、とにかく理由など何でも良かった。



 ただ、彼女と一緒にいられたら。そんな気持ちばかりが先走っていた。


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言い訳v:何の話だかよく判らないことに。ま、つなぎの回なので。
次回予告:一番書きたかったシーン。その為にこれだけの前フリを作ったようなもの。勿論アス×キラです!

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