主人不在型ストレス症候群

【出会い編】あの頃俺たちは、若かった



<第11話> 「君が…大事で……そのことばかり……」


 

 その時、アスランは後悔していた。


 しまった、絶対に一人で掲示板を見に行かせるべきではなかったと。



 下手に気を利かせて、彼女を一人で送り出した。でも、こうなることが判っていたならば、何でも理由をこじつけて一緒に行っただろう。

 他の学生が三々五々と帰る中、彼女の帰りだけが遅かった。


 さすがに心配になって様子を見に行くと、一人ぺたんを座り込んでいて、視線は宙をさまよい既に定かではなかった。







「キラちゃん?キラちゃん!」


 何度も何度も声をかけ、ようやく気づいた彼女から今度は涙が止まらなくなって。口が何度か開いたが、それは声にすらならなかった。



 うつろな瞳で、アスランは彼女が落ちたことを知った。





「キラちゃん…」


 こんな時、かける言葉が見つからなかった。

 そっと肩を抱くと彼女はあからさまに震えていた。



 仕方なく、彼女を立たせる。こんなところにいつまでも座り込ませておくわけにはいかない。どこか、ゆっくりできるところ…と考え、イザークの教授室があることを思い出した。そうだ、ここ1年間散々お膳立てをしたのだから、こんな時ぐらい恩を返してくれればいい。







 そのまま彼女を連れていき、部屋の扉をノックすると、イザークはそこにいた。


「何だ、いたのか」

「いたら何か都合が悪いことでもするつもりだったのか?」



「いや、そういうわけではないんだが、少し部屋を貸して欲しい」

 イザークは憔悴した状態の彼女をちらりと視界に収め、すぐに理解したようだった。


「薬を処方しよう。少し待っていてくれ」



「……すまない」







 10分も経たないうちに、イザークは薬を持ってきた。診察をしたことにして、適当にカルテを作成し、薬局から受け取ってくるという早業で。


「これを薬だと言わずに飲ませろ」

 キラに聞こえないように、耳打ちする。気を利かせてくれたらしい。



 アスランはイザークから受け取ったマグカップを彼女の前に置く。

 柑橘系の、甘い香りがふわっと漂った。



「何か、飲んで。じゃないと、心配で………」



「……………」


 それでも少し間が空き、カップの中身が少しぬるくなってきた頃、キラはやっとの事で口を付けた。



「…甘いね」


「……ぅん…」





 やはり、かけるべき言葉は………見つからなかった。そして、陽が落ちかけた頃、キラはまた泣きながら笑った。



「…ごめんね、先生。…落ち、ちゃった………」


「キラちゃん…」

「あんなに、先生……一生懸命になってくれたのに…」



「もう……言わなくていいよ」


 こんなに苦しいとき、言葉は要らないのだと理解した。





 全身の神経を集中して、彼女の身体を抱き寄せると、彼女は意外に強い力でアスランにしがみついて泣き出した。


 30分経っても、1時間経っても、彼女は泣きやまなかった。





 アスランは彼女の背中をさすることしかできなくて。何度も口を開きかけては、言葉を失い、止めた。







 アスランがそろそろ時計を気にし始めた頃、やっと彼女は小康状態になっていた。


「ごめんなさい先生。こんな時間まで、僕一人のために…」


「それはいいよ。俺が、そうしたいと思ったから…」

 こんな時、君は頑張った…とか、努力した…とかいう言葉はかけるなと、イザークから忠告を受けていた。



「しかも…こんな状態じゃ、先生とヘンなコトしてるって、勘違いされちゃうね…」


 他人の教授室で、男が若い女子学生を抱きしめているのだ。これでは言い訳できない。





「キラちゃんのためだから、誤解されても俺が全部引き受けるよ」


「…でも……」



 彼女に、しばらくこのままいてくれと、アスランの側から頼んだ。

 このまま、もう少し気持ちが落ち着くまで。





「先生…あったかいね」



 しばらくして、彼女はぽそりとつぶやいた。


「君が…大事で……そのことばかり……」





 次に、しまった!と気づいたときには、彼女と唇が離れた瞬間だった。


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言い訳v:長かった………たったこれだけ…このシーンのためだけにだらだらだらだら!できましたらBGMはCD1#27永遠への瞬間でお願いします。
次回予告:へたれて絶叫しなきゃアスランじゃないね!←キッパリ!

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