【出会い編】あの頃俺たちは、若かった
<第12話> 「頼みがあるんだ。アイツに…会ってくれないかな?」
「ごめんッ」 開口一発、彼女に謝罪した。 こんな感情の不安定なときに、しかも立場を利用した形で。 もしかしたら彼女はファーストかも知れないのだ。誰しもファーストキスには特別な思いがあるものだろう。 そんな思いを一瞬で壊したと思った。 「え?何がですか?」 だが、彼女からの返事にきょとんとした。 「何が……って、その…俺、君のファーストかも知れないのに………」 「いいですよ」 「……え…」 「いいですよ、先生。そのまま、僕を奪っても……」 その時初めて気がついた。彼女が、少しやけになっていたことに。 だからアスランは彼女をきつく叱り、そして何もしないまま下宿まで送った。 下宿で、彼女の姉とかいう子に不審な目で見られたが、そんなことどうでも良かった。 夜が明けて次の日、アスランは以前にもましてどんよりとなっていた。その後の彼女の容態を聞きに電話をかけてきたイザークが、今すぐ往診に向かおうかとイヤミを言ってくるぐらいに。 「お前ほどの男が、女一人に何をめそめそと」 「だって…ぐじゅ………キラを…振っちゃった。俺が……」 「それを自業自得って言うんだ」 「正直に言うなぁあ〜〜〜」 「なんだ、クスリ要らんじゃないか」 「要るか!」 「めそめそめそめそ湿っぽくへたれてて鬱陶しいから、睡眠薬でも注射して眠らせてやろうかと…」 「そ……それが、医者の言葉か〜〜〜」 それから、イザークは5分ほどアスランの愚痴に付き合った。 「で、結局あんな状態の彼女に何も手を出すことなく、無事に送ったんだろ?」 「……ぅん」 「それで正解なんだよ」 「イザーク?」 「あの状況で彼女に手を出すような外道だったら俺は今すぐ、貴様の息の根を止めに行ってやる!」 「……だからソレ医者のセリフじゃない…」 「うるさい!これ以上へたれに用はないわ!俺は忙しいんだ!彼女の様子が判ったら、すぐに連絡してこいよ。あ、そうそう。しばらく貴様の電話は鬱陶しいからメールにしろ!」 ガチャン!ツー…ツー…ツー……。 電話は一方的に切れ、アスランはしばらく呆然とし、そして窓に向かって絶叫した。 「キラァァアアアアア〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!」 この時、窓もドアも閉まっており、休憩時間でなかったのは幸いか。この絶叫を誰も聞いた者などいなかった。 キラがイザークから直接電話を受けたのはそれから1週間も経ってのことだった。イザーク…と言いかけ、部屋でカガリがテレビを見ていることに気づき、慌てて自分の部屋に戻った。 「ジュールお兄ちゃん!」 「久しぶりだな、キラ」 「うん、この間はごめんね。僕…」 「いいんだ。あの時は、仕方なかったんだ」 「……うん」 「少し落ち着いたか?」 まさか、飲み物の中に薬を混ぜていたとは言えない。だが、当のアスランから何の連絡もないのだ。自分で電話をかけるしかなかった。 「うん。ごめんね、お兄ちゃんにも、先生にも迷惑かけて…僕のわがままで」 「あのあほうはいいんだ。どっちみち奴は好きで手を貸していたんだから」 「ザラ先生を、知ってるの?」 「知ってるよ。腐れ縁だからな」 だから、あの時先生は迷うことなくお兄ちゃんの教授室に行ったんだと理解できた。 何とも、世界は意外と狭いものである。 「そうなんだ…。でも僕…もう先生に会えない」 「どうして?」 「どんな顔して会ったらいいか、判んないよ」 ああ、そういうこと。と、イザークは理解する。 一方のアスランは完全にへたれ切っていて、毎日日めくりカレンダーをビリビリと破りながら、ひたすら準備室でつぶやいている。 二、三日前さすがに様子を見に行ってその奇行を見つけてきたばかりだった。 「頼みがあるんだ。アイツに…会ってくれないかな?」 イザークの言葉にキラは目を瞠った。 第13話へ→ *husbandlesstype*stress*syndrome*husbandlesstype*stress*syndrome*husbandlesstype*stress*syndrome* 言い訳v:ここも入れたかったシーンなんだけどね。なぜイザークの初期設定を精神科医にしたのか、それはアスランとの仲を調整するためなのです。 次回予告:アス×キラバンザイ!次回で終了します! |
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