主人不在型ストレス症候群

【出会い編】あの頃俺たちは、若かった



<第13話> 「先生、男女交際のお話をされてるんですよね?」


 

「ジュールお兄ちゃん?」


 イザークのいきなりな提案に、キラは全く頭がついていかなかった。



「いや、キラちゃんに頼めた義理じゃないんだが、アイツもさ結構マジだったらしいんだ」

「うん、それは…知ってる。本当に、僕のために色々走り回ってくれて…」


 イザークは一瞬思案し、そして再びキラに言った。

「何もしなくていい。ただ、ありがとうと、一言言うだけならできるんじゃないか?」



 キラはハッとした。

 自分はそれすら言えてない。





「うん、そうだねお兄ちゃん。明日にでも、先生のとこ行ってみる」

 そう答えて、電話は終わった。



 イザークは夜空に向かって愚痴る。

「もう二度と貴様の尻ぬぐいはせんぞ!自分の後始末は自分で付けろ!へたれ唐変木!」







 翌日午前中、アスランの準備室で小規模な雪崩が起きた。


 資料だか雑誌だか、ゴミだか本だか…とにかくごちゃごちゃと入り交じったものの山にアスランは埋もれ、呆然と目の前を見ている。その彼の前で、キラはひたすらおろおろと慌てふためいていた。



「あぁあああのっ先生…大丈夫………ですか…?」

「ぁ、うん。大丈……ぅわぁああああッ」


 バサバサバサ…ドゴ……カラーン、ドサドサー………スコーン!





 二次災害に巻き込まれ、ご丁寧に棚の上にあった写真立てが頭にまともに直撃する。目の前に星が舞っているところに、キラが慌ててやって来て、一つずつ片づけようとした。



「………ぁれ、これ………」

 キラが写真とアスランの顔を見比べる。瞬間、アスランが真っ青になった。



 その写真…その写真は………ッ!





「申し訳ない…本当はこんなこと、するつもりなくて…」


 よくあるタイプの笑顔の写真ではない。風景の中にこぢんまりと女性の姿が映っている。それも後ろ姿。しかも全体的にピンぼけで、一発で携帯写真の引き伸ばしだと解った。


 でも、その服にキラは見覚えがあるわけで。



「これ…僕………?」


「すみません。その通りです」



 相変わらず山から首だけ出た状態のまま、アスランはキラに謝った。せめて首だけでもぺこぺこと下げながら。


 その姿にキラはハッとなった。


 写真云々ではない。今はとりあえず、助教授がピンチだ。

「ご…ごめんなさいっ」



「……へ?」


「僕…本当は先生にお礼を言わなくちゃって思って、ここに来たんですけど。先生をこんな目に遭わせてしまって。すぐどけますから」

 そう言って彼女は必死になって雪崩をどけてくれた。





 さすがに無理な体勢でいると短時間でも疲れるもので、やっと抜けられたという安堵感で身体がコキュコキュと鳴った。


「あの、すみません。どこか痛いところとかないですか?」

「いや、幸いにも。ごめんね、ありがとう」


「違います!ホントはお礼を言わなきゃいけないのは僕のほうで…でもなかなか言えなくて…」



「キラちゃん…」

「3年間、本当ありがとうございました。高望みだってのは判ってたけど、どうしても諦めきれなくて、先生にすっごい迷惑かけて…でも、何も返せないからどうしようかってずっと、そのことばっか考えてて……」


「いいよ。俺が好きで手を貸したことだから」



「そういうわけには行きません。3年も、ずっと色々してくださったのに、そんな…言葉だけというわけには…」



 しばらく沈黙が流れた。



 そしてのどがごくりと鳴る音がした。





「だったら………一つだけ…無理なお願い………してもいいかな?無論、キラちゃんが嫌なら断ってくれていい」


「はいっ何ですか」





 目をらんらんと輝かせる彼女に、なかなか言い出しきれなくて、アスランは自分を落ち着かせるのに多少の時間を要した。


「その…もし嫌じゃなかったら、俺を……一人の男として、意識…してくれないかなって…思って………」

「………ぇ…」



「あっいや!嫌ならいいんだ。無理だってことは判ってるし…「いいですよ」





 即答された答えに、アスランはどんな表情をしていいか判らなかった。

 間抜けな表情の彼にキラは柔和な笑顔を向けた。





「つ………付き合って…もらっても?」


 もしかしたら意味がよく判っていないのかも知れないと思い、聞き直す。



「先生、男女交際のお話をされてるんですよね?」

 アスランの顔が一瞬でトマト同然になって、キラを笑わせた。



 それから先どうしたのかなんて、彼自身覚えていない。


 後からキラに聞いた話によると、茹で蛸のようにしゅうしゅうと湯気を立てながら、非常にぎこちない動きで全く手を出すこともなく下宿まで送り届けたということだった。



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言い訳v:お付き合いいただき、まことにありがとうございました!シリアスなんだかいつもの調子なんだか判らなくなっちゃいましたが、とりあえず満足しました。あまり使えない行書体とか、真っ黒背景とか使ったしね〜〜。

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