主人不在型ストレス症候群

【出会い編】あの頃俺たちは、若かった



<第7話> 「………ぅん…」


 

「でもそんなレアチケよく取れたね…」


 実はキラも応募していたのだが、彼女は運悪く取れなかったのだ。


 せっかくプログラムを組んで、ちゃんと確実にメールを送信できるようにしておいたのに!←かなり犯罪ちっく。

「あんなもんまともに申し込んで取れるはずないじゃないか」



「……まともに申し込んで悪かったね」


「……………。キラのは違うだろ!まるで迷惑メールのような自動送信プログラム組んでたくせに…」

「なっ何で判っ………」



 カガリは道すがらハァと溜息をついた。


「ケーキ狂のお前の考えてることなんかお見通しなんだよ」

「そんなこと言ったってぇ〜〜〜。行きたかったんだもん。欲しかったんだもん!」



 今日そこへ行って思う存分食べられるのだからいいじゃないか。そう言うことだった。







 ちょっと贅沢なよそいきを来て、薄化粧をしてチケットを見せて中に入ると、淡い緑色が混雑の中から近づいてきた。


「あぁ、来てくれたんですね。ありがとう」


「カガリ……誰?」

「キラは初めてだったな。彼はニコル・アマルフィ。私の先輩で、ピアニストだ」


「あ…っ初めましてっ。キラ…キラ・ヤマトです」

 目の前には整った顔で温厚そうに微笑むニコルがいた。

 自分だけ焦っているのが恥ずかしくてキラは少しうつむいた。



「初めまして、キラさん。今夜は時間中ずっと相方と連弾をしていますから、ピアノも楽しんでいってくださいね」



「………ぁっ、はい…」


 ザラ助教授もきれいな人だと思ったが、このニコルさんもきれいな人だとキラは感心した。世の中にはこんなにきれいで、能力の整った人がいるんだ…と思った。





「あれ?そう言えば、アイツは?」


 カガリがきょろきょろしながら聞く。ニコルはすぐに肩をすくめておどけて見せた。

「ほら、レイは上がり症だから…」

「あ、そっか」


 ニコルは他にも挨拶する人があるからといってその場を離れた。





「キラ?キラ〜?」


「あ、カガリ…」

「どした?キラ惚れたか?」


「ほ…っ!惚れてなんかないよ…」

「ぼーっとしてたぞ?」



「あれは…ッ、すっごいきれいな男の人もいるんだ………って思って…」


「まぁいいよ。そう言うことにしてやる。さて、今夜は堪能するぞッキラ!」

「当たり前だよ!」







 演奏が始まる10分ほど前、ニコルはある人と電話していた。


「見ましたよ。可愛い人ですねぇ〜。お姉さんとはちょっと正反対な感じがします」

「お姉さん?彼女には姉がいるのか?」


「ええ。姉妹だって言ってましたよ。柔らかい金髪の、いかにも体育会系って感じの人です」

「むぅ〜〜〜」



「知らなかったんですか?」


「………というか、今のとこキラしか知らないんだ。それで?彼女の様子は?」

「別に…普通でしたけど………なんかあったんですか?アスラン…」


「いや、ないならないでいいんだ。俺が気にしすぎるのかも……」



「ま?へたれ唐変木の初恋ってことですから?かなり大目に見てますけど、泣かすことになったりしたら僕がもらい受けますよ?」

 と言い終わった瞬間、ニコルは通話を切った。


 これから始まる連弾のために、「耳を痛めない」ためだ。







「さて、キラさん…僕からよく見えるところにいてくれるといいんですが〜〜〜」

 できればカガリとはいささか距離を取った方がいいんじゃないかな…とか、こちらも余計なことを考えながら隣室へ入った。



「レイ!いい加減行きますよ。技量は大したもんなんだから、大丈夫です」

「でも…俺………」


「レイ、今日はコンサートでも競技会でもないんだよ」

「………ぅん…」



 実はカガリにチケットを譲り渡したのはニコルだった。

 そしてスパイは会場入りする。


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言い訳v:ニコルはチケットをアスランにあげようとした→恋が実っていないので遠慮された→後輩のカガリにあげた→ドンピシャでキラを見たので即席スパイに大変身。今回の言い訳。
次回予告:ニコルさんはあらゆる意味で策士です。

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