主人不在型ストレス症候群

【出会い編】あの頃俺たちは、若かった



<第6話> 「全く!この狂信者め!」


 

 もしもの時のために保険をかけておくことも重要だというアスランの話はもっとものようにキラには思われた。受け直すとなればお金もかかる。両親やカガリは猛反対している。


 しかも最悪、落ちてしまったらもうどこにも行くところがなくなる。

 もう一度受験させてくれるとは思えなかった。





「ザラ先生………」


 夕飯を作りながらキラはつぶやく。

 全てをお膳立てしてくれる唯一の人に、全てを賭けたいと思った。



「キラ〜何か言ったか?何かない?砂糖なら後ろの引き出しの中〜」

 リビングで雑誌をぺらぺらめくっているカガリからそう言われて、キラは内心焦りまくった。


「ううん、何も。砂糖〜…あったよカガリ」

「ん〜ならいいんだ」







 あれからカガリは大学の寮を引き払ってキラの下宿に住むことになった。

 きっと、カガリと両親が相談したに違いない。



(たとえ短期留学でも、僕が黄大行くことになったらその事だけなら反対するはずはないんだから!)


 キラは思う。

 1年休学して、聴講制度でも黄大の講義を受けたとなれば箔がつく。その間に黙って内部試験を受けて、本格的に黄大に行ってしまえばいいんだ!


 国立大学で、ここよりも学費が安いんだから文句ないよね!



(母さんやカガリは僕が落ちたときのことしか考えてないんだ。そんな下らないことでせっかくのチャンスを潰すなんて、これくらいバカバカしいことはないよ)





 幸い自分にはザラ助教授がいる。

 彼も黄大出身者で、自分のために応援してくれるというのだから、話に乗らない手はなかった。



 カガリたちには黙っておけばいいんだ。特にカガリは、近所だったジュールお兄ちゃんがあそこで教えてるってだけで毛嫌いしてるし。


 あんな広い大学で、そうそう会うわけないじゃないか!







「キラ…キラッ!」


「え…?」

 考え込んでいたせいか、キラは周りが見えなくなっていた。カチャ…とガスを切る少し乱暴な音がして初めて、鍋の煮物を焦がしていたことに気がついた。





「どうしたんだ?お前…ヘンだぞ」


「ぁ、ごめん……」



「またずっと考え込んでいたんだろ」


 図星だった。


 それもカガリたちの思いとは正反対の方向で。しまったと思いかがりの方を見たが、彼女の呆れは鍋に向いているようだった。





「ぼ…僕だって色々と………諦めるだけでも時間がいるんだよっ」



「全く!私ならまだしも、お前が鍋を焦がすなんてあり得ないぞ!あ〜あ…、キラの作る料理、正直うまいから期待してたのに……」


「………ごめん」



 カガリはしばらくキラを凝視する。その時間がキラには辛かった。


 カガリの正直な瞳は時々自分の本心を見抜いているようで。たまに苦手意識を感じることがある。





「判った判った。今日はお前に食事当番させて悪かったな」


(というより、たいがい僕に作らせてるくせに…)

「今反抗心に燃えた瞳を見たぞ?」

「してませんしてませんっ!」



「なら出かけるぞ。今日は私がおごるから。キラのやけ食い」


「………。やけを起こしてるわけじゃないもん………」



「ふぅ〜ん。なら要らないんだ?高級レストラン・オーブのケーキバイキング本日1年ぶりの解禁、五つ星有名パティシエによる1日かぎりの大盤振る舞い、それも先着100組ご招待の超入手困難なチケット〜〜〜」



 それは…世の女性たちがのどから手が出るほどの垂涎もののレアチケットだった。





「行く行く行く〜〜〜っ!行くっ!絶対行くぅ〜〜〜〜〜っ」

「…行くのか?」


「カガリ、大好き〜〜〜」



「ホントに?チケットに釣られただけじゃないよな?キラ」


「う゛…ッ………正直チケットにはすんごい惹かれてるけど、そんなチケットをわざわざケーキ教の僕のために取ってくれたカガリに、すっごい感謝だよう〜〜〜っ」



「全く!この狂信者め!」

 などと言いながらカガリは非常に嬉しそうだった。


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言い訳v:シリアス…難しすぎる!全てこの脳内変換システムのせいだ。
次回予告:ベタな展開その2.偶然が重なる。

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