主人不在型ストレス症候群

【出会い編】あの頃俺たちは、若かった



<第4話> 「構内でキラとすれ違うことがあるかも知れないと思うと、ぞっとする!」


 

「キラちゃん…落ち着いて」


「先生ぇ…」

 この時アスランはしまったと思った。


 涙ながらに自分にすがりついてくるキラが異常に可愛いと思ってしまって。泣かれるのは困るけど、正直もっとすがっていて欲しかった。


 できれば側にいて、自分を見ていて欲しい。



 だが今の彼女にとってそれは迷惑以外のなにものでもない。



(ごめんね、君は……俺の想いなんて全然知らないんだろうね…)



 心の中でそっとひとりごちる。

 こんな感情、今まで知ることなくここまで来た。本当は彼女に伝えることができたらどんなにかいいか。そして彼女も同じ気持ちでいてくれたら……。

 しかし反面それが一方的なわがままだということも判っている。


 目の前の彼女を見る限り、彼女は学生として助教授の好意に頼っている。



 それだけだ。







「判ったよ。1週間待ってくれる?友達に頼んで受験関係の資料を又貸ししてもらうから…」

「え?でもそれじゃ…」


「俺の友人がね、黄大付属病院に勤めてるんだ。特権で学生以上に借りられるし、期間も長いし」


「僕…またお金貯めなきゃって…バイトしなきゃって、思って……」

 アスランはキラの両肩をがしとつかんだ。今度は間違いなく彼の意思で。





「黄大、行くんだろ?」


「……はい」

「だったらこんなところで余計な時間を取っているヒマはないはずだよ。利用できるものは何でも利用したらいい。どうしても礼がしたけりゃ後からでも全然構わないんだ」


「ザラ先生…」

「それがキラちゃんの人生だよ。周りが決めるものじゃない。だから、何でも利用して。どんなことでも頼って」





 アスランは心の中でキラに謝罪する。


 実際、利用しようとしているのは自分のほうだ。全ての情報を自分に集めて、自分しか頼れないような気持ちにさせて。



 自分にすがって欲しいと思う。


 ただそれだけのために、立場を利用している。







「先生……ごめんなさい………」


「一週間したらもう一度おいで。過去問とか、色々取り寄せてあげるから」

 我ながら格好いいことを言って、キラを帰したとアスランは思う。





 彼女が準備室の扉を閉めた瞬間、言いようのない喪失感を味わって、アスランはキラの座っていたイスにかじりついた。


「ああ〜キラのぬくもりがまだ残ってる〜〜」

 絶対にキラだけでなく他の学生にさえ見せられない姿。イスにほのかに残された彼女のぬくもりを、後生大事に抱きかかえながらアスランはほろほろと泣いた。



「ぅぁッイカ〜ン!涙が…鼻水が……よだれが………ッ」

 慌てて近くのタオルをとり、きれいにふき取る。


「イカンイカンっキラが汚れる。ああ〜このぬくもりを永久保存できればいいのに〜〜〜」



 ついでに「キラv」と呼びたいな〜とか、どうにも変態くさい独り言をブツブツとほざきながら夕暮れまでイスにかじりついていた。










 真症変態はさておき、キラは下宿に帰っていた。


(もう僕の味方してくれるのザラ先生だけなんだ。先生、あんなに真剣に僕の将来を心配してくれて。なのに、このドアを開けたらまたカガリがくどくど言うんだろうな……)

 ギイとマンションのドアを開ける。果たしてそこにカガリはいた。



「遅い、キラ」

「……ごめん」


「また私に黙って無駄な勉強してたんじゃないだろうな」

「無駄って何だよ!」


「ここで充分じゃないかキラ。何だって無理してあんな大学行くんだ!」

「ここよりレベル高いもん…」



「とにかく!あんなヤツが教鞭を執ってるとこなんてろくでもないとこに決まってる!」


「…って、イザークお兄ちゃんは医学部じゃない!僕医学部には行かないから……」

「構内でキラとすれ違うことがあるかも知れないと思うと、ぞっとする!」



 アスランに言えなかった真実が、ここにあった。


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言い訳v:お互いにぎこちないイザ×カガに非常〜〜〜ぅに萌えます。
次回予告:アスランがイザークに恋の相談〜〜〜。

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