主人不在型ストレス症候群

【出会い編】あの頃俺たちは、若かった



<第3話> 「カガリなんて大っ嫌いだぁあっ」


 

 彼女の目は点になっていた。


「おっしゃってることがよく判らないんですけど…」

 そりゃそうだ。受け直すと言うことは、ここを辞めろと言われてるのに等しい状況なのだから。



「君…えーと……」


「キラです。キラ・ヤマト…」

「キラちゃんはどうしても黄大に行きたいんだろ?」


「はい」

「でも、親御さんには内緒の話なんだろ?」



「……はい」


「だったらここで勉強するしかないね。それに、俺も講義持ってないときには教えてあげられるし」

 彼女…キラの愛らしい口から盛大に素っ頓狂な返事が出てきた。


「先生…何考えてるんですか?」



 一学生…それも受け持ち講義に何の関心も示さない子にだ。

「いい方法があるんだ」

「…え?」


「キラちゃんにも、ご両親にも迷惑かからないよ」


「先生……?」



 にっこりと笑ってアスランはキラに説明を始めた。それは、この2年間は普通に大学に在籍して一般教養と受験勉強を掛け持ちする。そうやって着実に単位を取りながら基礎学力を付ける。3回生になったら1年間休学して聴講すればいい。教授推薦という手がある。

 1年間の短期留学なら、ご両親だって許してくれるはずだし、そこで申請して内部試験で上がれば……。



「条件付で転学、という可能性に賭けてみる気ない?。まともにここを辞めて受け直すよりリスクが少ないから、やってみない?」


 休学中は、ここも辞めなくて良い。

 落ちたらまたここで頑張ればいいのだから、と頭で描いてみるが、さすがにそこまで彼女には言えなかった。





「でもそれじゃ、先生に迷惑かかる……」


「いいよ。ここが俺の準備室なんて学生には教えてないし、大学の端だから、誰も来なくていい環境だろ?」


「それは…そうですけど……」



 降って湧いた話に、彼女が飛びつくはずもないことは充分判っていた。





「しばらく一人で考えてみると良いよ。話を受ける気になったら連絡して」


 そう言ってアスランは携帯電話の番号を書いたメモをキラに渡した。

「あ、そうそう。大騒ぎになるからこの番号、誰にも教えちゃダメだよ」


「はい…」


 しかし、この時のキラはどうでも良さそうだった。










 だがそれが一転したのが夏期休講が終わり、また学生が大学に通い出した頃。昼休憩に入って10分ほどした頃、彼女から電話がかかった。


「キラちゃん?」

「あ…の、ザラ先生?今、お電話良いですか?」


 不安げな彼女の声音にサッと緊張が走った。


「いいよ。いま準備室」



「あの…先生の準備室をお借りして、勉強させてもらっても、良いですか?」

「何かあったの?」


 再び沈黙が降りてきた。次にキラから出てきた言葉は、あまりにも小さく聞き取れないもので。





「今から準備室、来られる?」


 このままではまた彼女は泣いてしまう。

 それが嫌だと、強烈にアスランは思った。



「……はぃ」





 広い大学の構内、15分もしないうちにキラはアスランの待つ準備室にやってきた。

「先生ぇ〜っ」


「どうしたの!」

「隠れて勉強してたの…バレて……下宿で勉強できなくなって………」



「………ぇ…?」





 どこの親が一生懸命勉強する子供の邪魔をするというのか。



 怒りがふつふつと湧いてきた頃、当のキラから言われた理由はひどくバカバカしいことだった。

「姉が…猛反対して………僕の部屋に居座って、お金を貯めて買った参考書を捨てたって言うんです〜〜〜」



「え?………何で?」


「僕が辞めたら、もう一緒の大学行けなくなるとか何とか…一晩中ネチネチ言われて…」





 それはナニ?

 麗しき姉妹愛?


 はたまた単なる嫉妬?



 アスランの頭をまた不必要な想像がぐるぐると駆けめぐる。







「カガリなんて大っ嫌いだぁあっ」

 泣きじゃくる彼女の言葉は、全く耳に入っていなかった。


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言い訳v:うぉう!何だかしんみりした話になってきました!←こーいうこと書くから雰囲気台無し〜。
次回予告:建前と………本音。

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