主人不在型ストレス症候群

【本編】離婚の危機!?



<第2話> 「イ…イザーク!?」

 

 その日は心に反してよく晴れていた。柔らかな光が二人を優しく照らす。


 建物のエントランスをくぐり、途中何人もの人々にうらやましそうな視線を向けられ、二人は待合室のソファに腰を下ろした。



「大丈夫?」


 昨日のことがあった。


「…ぅ、ん」

 キラはうつむいたままかすかな声で応える。その所在なげな肩を、アスランはそっと抱いた。



 そうだ。普通に、世間一般と同じような幸せに浸っていたと思い込んでいたのに、別れなければダメだと言われたキラ。

 それも医者に。


 正直ここまでこぎ着けるのも、決して平坦な道ではなかった。当時既に出世街道と言われ、大学の助教授だったアスランと、一学生として入ってきたキラ。立場上、なかなか踏み込みにくい相手だった。



 そして年齢も、離れていた。



 学生結婚に反対する周囲を無理矢理押さえ込み、キラが卒業する前日に、やっとの事で籍を入れた。それから5年。だんだん周りの喧噪も収まり、少し静かになってきたと思っていたのに。







「心配ないさ。何があっても、俺がキラを守るから」


 キラは返事ができない代わりに、アスランの服の裾をきゅっとつかんだ。



「別れたく…ないよ」


 彼女の身体が傾ぎ、アスランのズボンの上に涙がしみを作った。


「何を言ってるんだキラ!別れないさ。絶対に!だいたい、シンやルナはどうなるんだ。まだまだ俺たちの手がかかる歳なんだぞ」


「…うん」



 キラの身体が小刻みに揺れる。


 立て続けにできたしみに、彼女が本気で泣いているのが判った。アスランはどうすることもできず、あまりにもふがいない自分に苛立ちを感じる。それでも、そんな葛藤を悟られたくなくて、キラを自分の胸の中にぎゅっと抱き込んだ。



「ゃっ、アス…、ここ……待合……」


 今までだったらキラが恥ずかしがるので、公然と彼女の身体を抱きしめたことは数少なかった。だが今のアスランには譲れない。

「構うものか。君は、俺の一番大事な人なんだ」


「アス…」





 周囲の視線が集中しているのは知っていた。抱き込んでいるキラの目から見えないように、さらに腕に力を込める。


 するとキラはますますアスランにすがった。



 このまま何事もなく帰ることができたら。そうしてもう一度、彼女を安心させてあげられるたくさんの時間を持てたら。


 そうすれば、このことは小さな事件として、忘れられるかも知れない。



 アスランは、そう思いたかった。







 少し待っていたら、声がかけられた。看護士が、キラのもとまで来て彼女の名前を呼ぶ。


「来てくれたのね、良かったわ。キラくん、彼があなたの旦那さん?」

「うん。約束通り、一緒に来たよ」


 看護士はキラの頭を撫でながら、彼女に優しく微笑みかけた。



「お知り合い…ですか?」


「ええ。高校にいた頃、後輩だったの」



「そう、ですか…」

 それ以上アスランは聞かない。素っ気ないと思われるが、これは彼なりの防御態勢だ。そうでもしないと、キラが目の前にいても話しかけてこられるからだった。





「ごめんね、マリューさん。いつも僕、迷惑ばっかかけて……」

「キ〜ラ〜〜くん!それは言わないって、言ったでしょ」


「うん」



「じゃぁ、先生のところへ行きましょうね。そちらの…えーと…」

「アスラン・ザラです」


「ごめんなさい。あなたも一緒に」


 そうして、総合病院の診察室の扉は開いた。





 瞬間。



「お〜よく釣れたな。よく来た、へたれ腰抜けデコっぱげ!」


 聞き慣れた…いや、聞き飽きた声がアスランの脳天に突き刺さった。





「イ…イザーク!?」


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言い訳v:後から気づきました。看護士、別にマリューさんじゃなくても良かったんじゃぁ…(ヒェ〜)
次回予告:イザーク<キラ

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