ラクスからの陳情………いや、作戦を授かったイザークはその日、宿舎の部屋の屈辱のパスワード(←「アスラン愛してる!」)をしばらくぶりに変更した。その目論見は見事に成功する。 「………。目が醒めちゃった…」 なにやら不思議な感覚に包まれながら、キラは瞳をぱちくりさせた。時刻は午前7時25分。本当ならいつまでもダラダラしているような時間ではない。完全に遅刻だ。 「もう良いのか?ちゃんと寝たのか?」 キラの背後からかかる優しい言葉に、キラはまどろみながら答える。 「ぅん。なんだかすごいスッキリだよ」 「……そうか。じゃぁもう起きなきゃな」 「そ、だね。ね、今何時……?」 「7時32分だ」 「………!?ぇえっ!!?遅刻だよっ何で起こしてくれなかったのさアス………ん!!!!!」 キラの意識はそこで初めて100%フル稼働したらしい。 |
主な夫と書いて主夫!しゅふ! 第9話 整えられた戦略、張られた罠、そして飛んで火に入る夏の虫 |
「イザーク・ジュールだ!今お前の目の前にいるのは………」 ここまで普通に会話が出来ていて、気付いてなかったのか?と本気で疑う。キラはベッドの上でがばりと起きて座り……上掛けを思わず掴み………まだ横になったままのイザークの姿をまじまじと見つめた。 「ここ…どこ?」 「俺の士官室だ」 「何で僕………ここにいるの?」 「お前が勝手に入ってきたからだ」 「うぅうっ嘘ッ!!あり得ない!ってか、知ってたなら起こしてよッ」 「俺の名誉の為に言わせてもらうなら、お前が夜な夜な通い出してから10日目だ」 「ぅそっ!うそうそぉっ!じゃ、ずっと僕イザークと寝てたの?」 「そういうことになるな。追い返しても追い返してもお前はここに来るんだ。仕方ないだろう」 「そんな………っ!……………って、まさかっ!まさかまさかまさか、僕の知らないうちに手ぇ出したんじゃないでしょうね!!?」 「……………。お前は俺を強制わいせつで捕まらせたいのか!」 やっとの事でイザークもベッドの上であぐらを掻いて座ると、目線の位置がキラと逆転して、キラは言葉に詰まってしまった。 「そっ!そんなに怒んなくってもいいじゃんかッ!」 「訳も判らず潜り込まれたら誰だって怒るわ!しかも毎晩だぞ!」 「知らないよ!僕だって来たくてここにいるんじゃないもん!」 「恋人でもないのにこんなコトするな!勘違いされても文句は言えんだろうが」 キラだって判っていないわけではないのだ。毎朝、気が付いたら他人の部屋にいるわけだから。 「分かんないよ!僕にも分かんないんだよ。ちゃんと自分トコで寝るのに……………気が付いたら人の部屋にいて……いつも怒られて、追い出されて………」 だんだん語気から覇気が抜ける。そしていつしか瞳に涙が溜まり、ぽたりぽたりとシーツを濡らしてゆく。その姿は確かに可愛い。庇護欲をそそられる、といったほうが正しいか?イザークはあぐらをかいて座ったまま、キラの肩をそっと抱き寄せた。 「ちょ……ッ何す…」 「何もせん!ちょっと黙ってろ!」 「……………。ぅるさいなぁ…」 イザークは確かめるようにキラに声をかけた。 「聞きたいことがある。ちゃんと、正直に答えるんだ」 おふざけを許さないイザークの雰囲気に、キラもつられた。ふと気付くと、至近距離に綺麗に切りそろえられた銀髪がゆらゆら揺れている。視線を落とすと、標準体型だが引き締まった筋肉が真正面に見えた。 同じ人間・同僚としてしか見られなかったイザークを、キラはこの瞬間初めて<男の人>なんだと思った。それまでの彼女の知る世界では<男の人>はアスランだけで、その他は見事に<へのへのもへじ>だったのだから。 そのアスランがいない環境で、こんな事をされたのは初めてで。ゆるりと無言のまま首を縦に振ったキラに、イザークは小さく溜息をつく。 |
いいわけ:キラの意識の中でイザークは「人間」から「男の人」に昇格したわけです。
次回予告:ライバルを蹴落とせ作戦臨時会議室
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